17/10/08

今年のノーベル文学賞はイシグロさんなんだってさ

ということで、今年も村上春樹はノーベル文学賞を受賞できなかったわけだけれど、ハルキストたちの面白さは相変わらずで、大いに笑わせてもらった。イシグロさんの受賞を聞いて、「なぜ村上春樹じゃないんだ!」みたいな反応を見せている人がいたけれど、面白すぎる。いったい、世界中にどれくらいの作家がいると思っているんだ。素晴らしい小説を書いているのは村上春樹だけじゃないんだぞ。



自分としては、村上春樹の小説が素晴らしいなんてこれっぽっちも思ってはいないけれど、それはほかのノーベル賞作家の作品にしても同じことだ。それほど量を読んでいるわけではないけれど、ノーベル賞を受賞した作家の小説なんて、面白いと思ったことはほとんどない。詳しいことについては「ノーベル文学賞なんて必要ない」で書いているので、ここで改めて書くことはしない。

それはともかく、今年のノーベル文学賞はイシグロさんに決まったわけだが、受賞の理由は「心を揺さぶる力を持った小説を通じ、私たちが世界とつながっているという偽りの感覚の下に深淵があることを明らかにした」ということらしい。何が言いたいのかさっぱりわからない。だれか頭のいい人に、自分のようなバカな人間にもわかるようなやさしい文章に翻訳してほしい。

自分たちが世界とつながっていると感じるのは、実は偽りであって、本当はだれも世界とつながっていないということ? つまり、人間はみんな孤独な存在であるということ? その下の深淵って何? 人間はみんな孤独だという真実の下に、さらなる絶望が広がっているということ? そんな救われないことを、心を揺さぶる力を持った小説を通じて明らかにされても困ります。明らかにするなら、もっと肯定的なことを明らかにしてください。

おそらく、この受賞理由を考えた本人も、よくわかっていないのだろうと思う。なんとなく文学っぽいことを言っておけば、なんとなくカッコいいかな、くらいのことしか考えていないような気がする。何かを伝えようとするならば、その意味が相手に明確に伝わるようにしなければ意味がないわけで、いかにも頭がよさそうな文章ほど、実際には中身がスカスカで何の意味もない文章になってしまう。

今回の受賞をきっかけに、世間ではいきなりのイシグロブームが起きているらしい。自分はベストセラーと呼ばれるものにはほとんど興味がない人間なので、そうしたものにいきなり飛びつく人たちの心理がよくわからない。ノーベル文学賞なんていう、いかにもインチキ臭い賞につられて、いままで名前すら聞いたことのない作家の作品に飛びつくというのは、なんだか滑稽ですらある。直木賞とか本屋大賞ならわかるけど。

おそらく、日本人のほとんどはイシグロカズオという名前すら聞いたことがないだろうから、イシグロ作品を5冊も読んでいる自分は、日本人の中では相当なイシグロ通だといってもいいだろう。しかも、翻訳ではなくすべて原書を読んでいるのだ。ということで、かなりのイシグロ通である自分が、イシグロカズオについて偉そうに語ってみたい。

まずは、イシグロ氏の代表作である「The Remains of the Day」について。これは、まだ英語力が低い頃に読んだこともあってか、文章が非常に難しく感じられて、さっぱり理解できなかった。唯一思ったことは、イギリス人とアメリカ人では、同じ英語を話す人種同士でありながら、気質はまったく違うんだな、ということだった。とにかく難解でひたすら退屈だった。

次に読んだのが、「When We Were Orphans」だ。これも、どんなストーリーだったのか、ほとんど覚えていない。ちょっとしたミステリー仕立ての作品だったような気がする。なんだかダラダラとした展開だったのに、ラストになっていきなり主人公が、重傷を負った友人をあちこちに連れまわすみたいな行動を取ったので、それに驚いたことだけは覚えている。

次に読んだのが、「A Pale View of Hills」だ。これは、イシグロ氏のデビュー作で、ものすごく読みやすい文章で書かれていることに驚いた。自分の英語力がいきなり上がったかのような錯覚に陥った。ただ、この作品を読んで感じたのはそれくらいで、どんなストーリーだったのかについては、まったく覚えていない。ただひたすらに淡々とした描写が続くだけの作品、という印象しかない。

次に読んだのが、「An Artist of the Floating World」だ。これはなんとなく覚えている。時代に取り残された芸術家が、娘や孫のことを気にしながら、いろんなことを回想していく、みたいな展開だったと思う。カウボーイごっこをして遊んでいる孫を見て「吉宗将軍のマネか?」と尋ねたり、8歳になったばかりの孫に「そろそろ酒でも飲んでみるか」と言ってみたりと、主人公のズレっぷりがおかしくて笑った覚えがある。

次に読んだのが、「Never Let Me Go」だ。これは文句なしに面白かった。クローン人間として生まれた子供たちの成長を追っていくというストーリーで、その設定だけ聞くと、SFとかミステリーとかホラー的なものを想像してしまうけれど、まったくそんなことはなくて、ものすごく繊細で優しくて、でも悲しくて切ない作品になっている。機会があれば、ぜひ読んでみてください。

ということで、イシグロ通を自認する自分の感想としては、たまに面白い作品もあるけれど、ほとんどは記憶にも残らないくらいつまらない、というのが正直なところだ。少なくとも、「心を揺さぶる力を持った小説で、自分たちが世界とつながっているという偽りの感覚の下に深淵があることが明らかになった」と感じたことは一度もない。本当に、この文章だけは意味がわからない。



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