17/08/27

舌の記憶なんてまったくあてにならない

今年の夏は暑くなります、もしかしたら9月いっぱいまで真夏日が続くかもしれません、なんてことを話していた気象予報士を何かのメディアで見たか聞いたかしたような記憶があるのだが、その予測を思い切り裏切って、今年の夏は雨続きの涼しい夏になった。その分を取り返すかのように、今頃になっていきなり猛暑日が続いているけれど、いろいろな意味で最近の日本は大丈夫だろうか。いや、日本というか、地球は大丈夫だろうか。



お盆休みには佐渡の実家に帰っていたので、関東地方が異常なまでの低温と多雨に見舞われていたということは、ニュースで見て初めて知った。佐渡は、例年よりは多少涼しいかなという程度で、特に低温というほどでもなかったけれど、7月の大雨で崖崩れが起きて、道路が寸断されている箇所がいくつもあった。実家のすぐ近くでも崖崩れが起きて、崖崩れ防止用のコンクリートが見事に崩れていた様子は、ある意味で圧巻だった。

ロードバイクで佐渡の海岸線を走っていると、ところどころで崖の土砂が崩落している現場に遭遇し、大雨の被害がニュースで見たときよりもリアルに迫ってくるのを感じた。佐渡の海岸線にはなだらかな地形なんてほとんどなくて、どこを走っても道路のすぐ横に崖が切り立っているような場所ばかりだから、大雨が降ったらいつどこで崖崩れが起きてもおかしくない。

そんなことを考えながら走っていたら腹が減ってきたので、持参した自作のおにぎりを道端で食べたのだが、それでもすぐに腹が減るので、どこかお店に入ってちゃんとしたものを食べようと思い、高校生の頃によく通ったトンカツ屋さんのことを思い出し、何十年ぶりかで訪れてみることにした。とりあえず、まだ営業しているらしいということはネットでチェックしていたので、行ってみたらお店がなくなっていたということにはならないだろう。

この店は、通っている高校から歩いて5分くらいのところにあって、テスト期間中の土曜日に、友達と何人かで連れ立ってよく通っていた。テスト期間中は部活が一時的に中止になるので、土曜日の午後からは一斉に半ドンになる。このまま帰るのもアレだから、トンカツでも食べていくかということで、テスト期間中の土曜日の昼は、自分たちのような高校生で店内はいつもにぎわっていた。

上の写真は、自分で撮影したものではなく、ネットから拾ってきたものだが、実際のお店で出されているカツ丼の写真だ。見てわかるように、ソースカツ丼だ。ご飯の上にいきなりカツが乗っていて、その上から全体的にソースだれがかかっている。関東あたりでは、カツ丼というと、卵でとじたものを連想すると思うけれど、佐渡の場合はソースカツ丼と卵とじカツ丼が共存している。

当時は、カツ丼の並(味噌汁やサラダやお新香などは一切付かず、カツ丼だけ)が1杯350円だった。高校生の頃は、自由になるお金なんてほとんどなかったけれど、たまにカツ丼を食べるくらいのお金はあった。350円というのは、そうした貧乏な高校生にとってもありがたい値段だった。値段だけでなく味も抜群で、自分にとっては本当にご馳走だった。

あの懐かしい味はいまも変わっていないのだろうかとちょっとドキドキしながら店に到着すると、当時と変わらない外観の店がそのまま残っていた。最近では、新しいバイパスに沿って大型店が集中し、当時のメインストリートだった商店街はうら寂しいシャッター通りになってしまったけれど、その中で当時と変わらない姿で営業しているというのは、なんとも嬉しいことだ。

店の中の様子も、当時と変わっていない。ただ、小上がりの座敷席があったような気がするのだが、すべてテーブル席になっていた。たしか、いつも奥の座敷席に上がって食べていたような記憶があるのだが、このあたりは記憶違いかもしれない。なにしろ三十数年ぶりだから、店自体が残っていることの方が不思議なくらいだ。

迷わずカツ丼の上を注文する。上の写真のとおりの内容だ。これで650円というのだから安い。店内もけっこう席が埋まっていて、相変わらず繁盛しているようだ。店主は2代目に代替わりしているようだが、先代の姿も厨房の奥に見えたから、代替わりの途中なのかもしれない。とりあえず、まだ先代が厨房に立っているということは、味も当時のままだと期待してよさそうだ。

ほどなくして出されたカツ丼は、当時のままのビジュアルだ。そうそう、こんな感じのカツ丼だったなあと思いながら食べてみると、なんだか違う。カツがけっこうしっとりしているけれど、もっとサクサクだったような気がするし、ソースだれも、もっとパンチの利いた濃い味だったような気がする。いや、これでも十分に美味いのだけれど、自分の記憶の中の味とはだいぶ離れているのだ。

漫画やドラマでは、何十年も前に食べたものであっても舌が正確に記憶している、なんていう話が出てきたりするけれど、現実的にはそんなことはないのだと、今回のカツ丼で思い知らされた。何十年も経てば嗜好も変わるし、味覚自体も変わるだろう。ロクなものを食べていなかった高校生の頃の味覚がいまでも残っていると考えるのは、あまりにもメルヘンチックだということだ。



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