17/04/02

祝・稀勢の里二場所連続優勝

思えば、稀勢の里が初優勝を飾って横綱昇進を決めた先場所から、ずっと幸せな気分に浸っていた。白鵬を破った取組は何十回も繰り返し見たし、「相撲」と「大相撲ジャーナル」の2誌はもちろんのこと、横綱昇進を祝う増刊号もすべて読んだし、「Number」の大相撲特集も当然読んだ。まあ、すべて立ち読みなんだけどね。ごめんなさい、本屋さん。

そうした誌面では、これまで散々苦労してきたから、これからはプレッシャーから解放されて優勝を重ねていくだろうと予想している人たちが多かったけれど、自分も同じように考えていた。これだけ悔しい思いをしてきたわけだから、もういい加減に報われてもいい頃だろう。横綱昇進の基準が甘すぎるという声も一部では聞かれたので、そうした声を消すためにも、春場所は絶対に優勝してほしいと思っていた。

その願いが届いたわけではないだろうが、キセノンは初日から絶好調だった。しかも、白鵬は早々に休場するし、日馬富士と鶴竜も金星供給マシーンと化すしで、先場所に引き続き、キセノンにとって有利な展開になってきた。いくつかヒヤリとする取組もあったけれど、これまでのキセノンとは別人かと思うくらい落ち着いていて、堂々とした横綱相撲を見せていた。

12連勝したときに、もうキセノンの優勝は間違いないと確信した。いきなり復調した照ノ富士の存在がちょっと不気味だったけれど、対戦成績ではキセノンが圧倒しているから、直接対決で負けることはないだろう。日馬富士と鶴竜にしても、もう優勝の可能性はないわけだから、イマイチ気合が入らないに違いない。普通に相撲を取れば、キセノンの勝利は間違いない。

そんなふうに楽観的に考えていたから、日馬富士に完敗してケガまで負ってしまったと知ったときには、ものすごくショックを受けた。ケガは相当に深刻な感じで、今場所どころか、次の場所の出場さえ危ないかもしれない。まったく、日馬富士は平幕にはコロっと負けるくせに、キセノン戦のときだけ異様な集中力を発揮するから困る。君は今場所の主役ではないんだから、おとなしくしていればいいんだよ。

なんてことを書くと、そんな考え方は相撲ファンとして失格だと言われそうだが、自分は相撲ファンである以上に稀勢の里ファンなのだ。それはともかく、左腕を吊って病院に向かう稀勢の里の姿をテレビのニュースで見ながら、「今場所はもう終わった」と思った。あと少しというところまで来ていながら、なんて残酷な展開なんだろう。このまま優勝させてくれてもいいじゃないか。

大方の予想を裏切ってキセノンは休場しなかったが、鶴竜との取組はまったく相撲になっていなかった。おそらく、横綱としての責任感から出場を強行したのだろうが、出る以上は勝負しなければいけないわけで、この状態では「ただ出てみますた」というだけのことで、はっきり言って出ない方がマシだ。それくらい悲惨な内容だった。関係ないけど、土俵を割ったキセノンをいたわるようなしぐさを見せた鶴竜にキュンときた。

この取組を見て、もう絶対にキセノンの優勝はないと確信した。千秋楽は朝から雨が降っていて、内職仕事もあったから一日中家にいたのだけれど、相撲中継を見る気はしなかった。照ノ富士が優勝賜杯を抱く姿は見たくなかったし、なによりもキセノンの痛々しい姿を見たくなかった。むしろ、勝てる可能性が皆無に等しい状態で強引に出場するキセノンに対して、若干腹を立ててさえいた。

そんな感じだったから、NHKのニュースで稀勢の里が優勝したことを知ったときには、思わず「ウソだろ?」と大きな声を出してしまった。しかし、たしかに本割と優勝決定戦で照ノ富士に連勝しているではないか。信じられないけれど、優勝したのはどうやら本当らしい。このとき、最後までキセノンを信じて応援できなかった自分のことを恥じた。

一応、キセノンが優勝するにはどうすればいいかを自分なりに考えてはいたのだが、本割では立ち合いで変化するしかないだろうという結論に達した。あの状態でまともにぶつかりあっては勝負にならない。変化してそのままはたき込めればそれでよし、立ち合いで勝負がつかなかったとしても、相手が態勢を崩したところで右で上手を取って上手投げを打てば、勝てる可能性はわずかながらあると考えていた。

しかし、その手で本割を勝ったとしても、決定戦で取るべき作戦が浮かばない。まあ、どうせ優勝なんて無理だから、自分がこんなことを考えても意味がない。なんてことを思っていたので、本当にキセノンが立ち合いで変化したのには驚いた。つまり、キセノン自身は勝つチャンスがあると考えていたわけだ。

自分が考えていたように、横綱の責任を果たすためだけに出場していたのであれば、立ち合いで変化などせずに、堂々と正面からぶつかっていさぎよく負けるという相撲になっていたはずだ。そうではなく、キセノンにとっては初めてといっていいくらいの派手な立ち合いの変化を見せたということは、本人としては絶対に勝ちたいという強い意志があったということになる。

決定戦では、右からの張り差しを狙ったのだろうが、立ち合いが遅れて中途半端な形になってしまい、双差しを許してしまった。あの態勢からよく小手投げを打てたものだと思う。ただ、この二番を見て、照ノ富士のヒザの具合もかなり悪いのではないかと感じた。どちらの取組も、最後の最後で足がついていっていないように見えた。

後で調べたところ、十三日目の鶴竜との取組でヒザを痛めてしまい、そのせいで翌日の対琴奨菊戦での立ち合い変化ということになったらしい。この取組は大ブーイングだったようで、ブーイングしたくなる気持ちもわかるが、ヒザを痛めていたという事情がわかったいまとなっては、照ノ富士が可哀そうになってくる。いろいろと言いたいこともあっただろうに、今場所は照ノ富士がヒール役を背負わされてしまった。

ということは、肩とヒザという違いはあるけれど、どちらも故障を抱えながらの相撲だったということになる。であれば、「奇跡の逆転優勝」と大騒ぎするほどのことでもなくて、ケガ人同士の相撲ならどちらが勝ってもおかしくはない。ただ、照ノ富士が自分のケガのことについては語らないから、稀勢の里の優勝の価値がさらに高まったわけで、このあたりも照ノ富士は損な役回りを押し付けられてしまって気の毒だ。

ということで今回も、「相撲」と「大相撲ジャーナル」はもちろんのこと、新横綱での優勝を祝う増刊号も隅から隅まで読んだ。もちろん、すべて立ち読みだ。なんて、胸を張っていうことじゃないか。ごめんなさい、本屋さん。でも、しわになったりしないように、細心の注意を払いながら読んだので、勘弁してください。それにしても、相撲の雑誌って、情報量の割にどれも高いんだよね。

とにかく、劇的な優勝だった。国歌斉唱で感極まって涙を流すキセノンの姿には、大勢の人がもらい泣きをしたと思うが、もちろん自分もその一人だ。稀勢の里の涙には、本当に見ていてグッとくるものがある。うれしさのあまり、思いつくままに書いていたら、なんだかまとまりのつかない文章になってしまった。おめでとうキセノン、来場所もその次の場所も、ずーっと頑張ってください。応援しています。



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