16/12/25

翻訳という仕事の良さについて語ってみる

前回は翻訳業界のお先真っ暗な現状について書いたが、暗い話題ばかりというのもアレなので、今回は翻訳という仕事の良さについて、無理矢理見つけ出して書いてみたい。何か良いことがなければ、単価がやたらと低くて、これからもさらに単価が下がることが予想される翻訳なんて仕事はやってられないわけで、翻訳という仕事にも実はいいところがいっぱいあるのだ。

と書いてはみたものの、本当にいいところがいっぱいあるような仕事なら、そもそもこんなにお先真っ暗な現状にはなってはいないはずで、どう考えても斜陽産業であることは間違いない。いまから翻訳業界にチャレンジしようと考えているそこのあなた、悪いことは言わないからやめておいた方がいい。などと書いていくと、結局は前回の繰り返しになってしまうので、ここからは思考を無理矢理切り替えて書いていこう。

まずは、何といっても、他人に煩わされることなく自分のペースで仕事できるのがいい。もちろん、何人かで作業を分担するような場合は、ルールの確認など、最低限のコミュニケーションは必要になるが、基本的には自分ひとりで作業に没頭できる。これは、自分のように他人とコミュニケーションをとるのが苦手な人間にとっては本当にありがたい。

朝出社して「おはようございます」、夕方退社するときに「お先に失礼します」と言うだけで、それ以外には一言も話さないという日なんて珍しくもなんともない。というか、そういう日の方が圧倒的に多い。さすがに、社内のほかの人たちはそれなりに話しているようで、自分の場合はかなり極端なケースだけれど、それでも許されてしまうのが翻訳という仕事のいいところだ。

次に、やる気さえあれば何歳になっても続けられるというのもいい点だ。まあ、それまで翻訳という仕事が残っていればという話になるけれど、とりあえず、一生続けられる仕事ではあると思う。一日中パソコンを前にしてキーボードを叩くだけのことだから、体力的にはまったくキツくない。目が疲れたり肩が凝ったりするということはあるが、それはデスクワーク系であればどんな仕事でも同じだろう。

これが営業系の仕事だったりすると、どんなに優秀な人であっても、会社を定年になった時点でそれ以上同じ仕事を続けていくことは難しいだろう。一生営業の仕事がしたければ、自分で会社を作って自分で営業するしかない。営業という仕事は、基本的にどこかの組織に属していないとできない仕事だけれど、翻訳という仕事は個人でも続けていくことができる。

それから、仕事をしていく中でいろんなことを知ることができるというのも、翻訳という仕事の魅力の一つなのかなと思う。IT翻訳と一言でいっても、その内容は多岐にわたっていて、ソフトウェアやハードウェアのマニュアルといった定番のものだけでなく、製品をアピールするマーケティング資料、動画の字幕、トレーニング資料、調査レポートの翻訳など、なかなか面白い作業も少なくない。

こういう作業をするときには、ネット上であれこれと調べながら翻訳してくことになるわけだけれど、その調査中にいろいろな発見があるのが面白いと言えば面白い。実際には時間に追われていることが多いから、調べ物が多いような案件はものすごく迷惑だというのが本音だけれど、仕事をしながら多少なりとも知識が増えていくというのは、ありがたいことではある。

さらに、仕事がラクというのも非常に大きなメリットだと思う。これはどんな仕事でも同じかもしれないが、翻訳という仕事はある程度慣れてしまえば、これほどラクなものはない。なじみのない分野の案件で、やたらと調べ物をしなければならないときは、勘弁してくれよと心の中で愚痴りながら作業するのだけれど、こういう案件はそれほど多くはない。大抵は、「はいはい、こういうパターンのヤツね、楽勝楽勝」という感じだ。

普通は、原文を一通り読んで文章の構造を確認してから、頭の中である程度の訳文を組み立ててそれを入力していくのだけれど、調子がいいときには、原文の最初の部分を読んだだけで、「ああ、わかったわかった、みなまで言うな」みたいな感じで、そのまま訳文を入力していくことがある。自分ではこの状態を「トランスレーターズ・ハイ」と呼んでいる。同時通訳ならぬ同時翻訳が可能になる瞬間だ。

この状態になると、この原文を書いた人が次に何を言いたいのかがわかり、「こう来たら次はこう来るだろう」と勝手に予測して、そのとおりの文章が来ると、「やっぱりね」ということになってそのまま訳文を入力していくという流れになる。ただ、この「トランスレーターズ・ハイ」状態を体験できるようになったのはつい最近のことで、そうなるまでには一定の修行期間が必要なのだと思う。

ということで、翻訳の良さを無理矢理ひねり出してみたけれど、やっぱり「自分のペースで作業できる」というのが一番かなと思う。翻訳なんていう仕事に興味を持つ人間は、そもそも自分ひとりでコツコツと続けていける仕事が好きなのだろうから、そういう人にとって翻訳という仕事はまさにうってつけだと思う。お先真っ暗な業界だけれど、それでもやってみたいという人はどうぞご自由に。

ということで、今年の覚書の更新は今回が最後です。今年もお付き合いいただき、ありがとうございました。来年も続けるかどうかについては、まだ決めていません。ほとんどだれも見てくれていないサイトの運営を続けるのもムダだから、そろそろ止めようかとも考えています。ペーパーバックのページだけは、個人的な読書記録として更新を続けていこうかなと考えています。とりあえず、長い間のご愛顧、ありがとうございました。



今週の覚書一覧へ

TOP