16/10/23

三浦九段のカンニング問題について

NHKのニュースを見ていたら、将棋の三浦九段が出てきてインタビューに応じていた。何事かと思って見ていると、どうやら対局中に将棋ソフトを使ってカンニングしていたのではないかという疑いをかけられ、三浦九段は潔白を主張したにもかかわらず、将棋連盟からは年内の公式対局を禁止するという処分が下ったらしい。改めて自分の潔白を主張するために、NHKのインタビューに応じたということのようだ。

このインタビューを見て最初に感じたことは、具体的な証拠が何もないにもかかわらず、将棋連盟はなぜ一方的に処分を下したのかということだ。そのインタビューは、三浦九段が自らの潔白を一方的に主張するだけで、連盟側の意見はまったく聞くことができなかったので、公平な判断を下すことはできないわけだけれど、連盟の処分についてはちょっとどうなんだろうと思ってしまった。

自分は、将棋については駒の動かし方がやっとわかる程度で、将棋というゲーム自体にはまったく興味がないが、将棋界という特殊な世界にはかなり興味があって、将棋関連の書籍も何冊か読んだことがある。なので、現在のプロ棋士についてもわずかながら知識があり、三浦九段はトップ棋士の一人だということも知っていた。

このカンニング事件にはかなり衝撃を受けたので、ネットや週刊誌で情報を集めてみたところ、三浦九段はシロなのかクロなのか、ますますわからなくなってきた。三浦九段がソフトを使ってカンニングしているのではないかという疑惑は、今年の夏くらいから浮上してきたらしい。それからどのような経緯で現在のような事態になったかについて、簡単にまとめてみる。

三浦九段と対局した何人かの棋士が、勝負の終盤に何度も席を立つ三浦九段を不審に思う → 不信を抱いた渡辺明竜王が、三浦九段の指し手と将棋ソフトの指し手を比較したところ、一致率が90パーセントを超えていてビクーリする → 渡辺竜王が、連盟の理事を含む主だった棋士を集めて事情を説明する → 最初は半信半疑だった棋士たちも、竜王の説明に「三浦はクロ」という心証を強くする

という経緯により、三浦九段を呼んで説明を求めたところ、納得のいく説明が得られなかったため、年内の対局禁止という処分を下したということらしい。週刊文春の記事によると、あの穏当な羽生さんでさえ「限りなくクロに近い灰色」と言っているくらいだから、同じプロ棋士たちの心証としては相当怪しいということになっているのだろう。

公式対局の多くは、千駄ヶ谷の将棋会館で行われる。自分もこのビルには行ったことがある。5階建ての比較的小さなビルで、1階は各種のグッズ売り場になっていて、2階は一般の人向けの大きな対局室になっている。自分が見学したときには、大勢の子供たちで賑わっていた。一般の人が出入りできるのはここまでで、3階の事務局と4階と5階の対局室には入ることができない。

三浦九段は、対局中に席を立つときに、わざわざ1階の守衛室まで下りていったということだ。その理由は、体を休めるためだったというが、だったらなぜ同じフロアの空いている部屋で休まないのかという疑問が出てくる。それに、対局の終盤ともなると持ち時間も少なくなってくるから、普通は離席なんてできなくなるはずなのに、一手ごとに離席していたというのもかなり怪しい。

しかし、あんなに真面目な人が不正なんてするはずがないと、三浦九段を擁護する棋士たちもいるようだ。三浦九段も全面的に対決する姿勢を見せていて、自宅のパソコンもすべて提出するから、ログなども含めて徹底的に調べてくれと言っている。しかし、これまでに証拠隠滅の時間は十分にあったわけだから、いまとなってはスマホやパソコンをいくら調べたところで意味はないだろう。

こうして見てみると、状況証拠的には三浦九段にとってかなり厳しいものであることがわかる。しかし、どうにも腑に落ちないのが、なぜバレたら自分の棋士生命さえ危なくなるようなリスクを冒してまで不正をしたのかということだ。C級2組の棋士で、今期降級点を取ったらフリークラスに落ちてしまうというのならともかく、A級棋士の三浦九段なら、普通に対局するだけで軽く1,000万円オーバーくらいは稼げるだろう。ここまでのリスクを冒す理由がない。

三浦九段がシロなのかクロなのかはわからないが、今回の連盟の処分は最悪だったということだけは間違いない。具体的な証拠が何もないのに、状況証拠だけでクロと判断していいわけがない。このあたりが、子供の頃から将棋界という特殊な世界しか見てこなかった棋士たちの無邪気さというか常識のなさというか、何と言っていいのかわからないが、まあそういうことなんだろう。

ではどうすべきだったかということになるが、本人を呼び出して事情を聴き、連盟側でも調査を行うというところまではいいけれど、そこで決定的な証拠が見つからなかった場合は、これからは対局相手に疑われるような行動は慎むようにという厳重注意を与えて後は様子を見る、というのが常識的な対応だろう。一人の棋士の一生を左右するような重大な処分を、状況証拠と心証だけで下していいはずがない。



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