16/05/29

日本人の英語に対するイメージ

電車のドアに、ミュゼという脱毛サロンの広告が貼ってあった。ミュゼに限らず、どの脱毛サロンも最近やたらと広告を出していて、わきの下の脱毛が100円ポッキリ、しかも何度でもオッケーみたいな内容なので驚く。この内容が本当だとしたら、脱毛サロンはいったいどこで儲けを出しているのだろうか。まあ、わきの下の脱毛をエサにして、他の部分の脱毛を契約させて利益を出すという仕組みになっているのだろうが、それにしても安い。

しかし、今回驚いたのはそんなことではなく、広告のキャッチコピーだ。その広告には、「Enjoy the Girl」というキャッチコピーが大きく書かれているのだ。いやいや、この英語はどう見てもおかしいだろう。直訳すると、「その女子を楽しみなさい」ということになるが、たしかにそのポスターには女子が印刷されているから、「このポスターに印刷されている女子を楽しみなさい」という意味になる。

街中を歩いていると、こうした類のトンデモない英語に出会うことがよくあるけれど、今回のトンデモ英語はそれとはちょっとわけが違う。こうして大々的に広告を出しているわけだから、電通とか博報堂とか、そうした大手の広告代理店に依頼して作った広告なんだろう。だとしたら、このキャッチコピーはあまりにもお粗末だ。大手の広告代理店に入れるくらいのエリートが、こんなバカ丸出しのキャッチコピーを作るなんて。

まあ、このキャッチコピーで伝えたいことはわかる。せっかく女子に生まれてきたんだから、脱毛してキレイになってイケメンの彼氏を作って、女子であることを思い切り楽しまなきゃ損、みたいなことを伝えたいのだろう。それにしても、「the」という定冠詞を使うことはないだろう。「Enjoy a Girl」にしたところで、間違いであることには変わりないけれど、「Enjoy the Girl」よりははるかにマシだ。

「女子であることを楽しむ」という意味にするなら、「Enjoy as being a girl」くらいでいいと思う。キャッチコピーだから、スッキリと「Enjoy being a girl」でもいいかもしれない。クラーク博士の名言をもじって、「Girls, be beatiful」なんてのも面白い。ただ、「Girl」という単語にもちょっとひっかかる。「Girl」くらいの若さで、いきなり脱毛なんてするだろうか。剛毛の少女を想像させて、ちょっとグロテスクだ。

そもそも、同じ日本人をターゲットにした広告なのに、わざわざ英語を使う意味がわからない。広告を出す側としては、いろいろな英語のキャッチコピーを、ああでもないこうでもないと散々考え、消費者側としては、その怪しげなキャッチコピーを読んで、正しい意味をああでもないこうでもないと散々考えることになる。これは、いったい誰が得をする構造になっているのだろうか。

結局のところ、日本人の多くが、「英語ってカッコいい」という漠然としたイメージを持っているということだろう。英語のキャッチコピーを付けておけば、意味がよくわからなくても、なんとなくオシャレでカッコいいというイメージは伝わるだろうから、それでオッケー、みたいな安直な思考回路で広告を作っている人間が多いから、これだけ多くの英語のキャッチコピーが世の中にあふれているのだろう。

そのあたりの感覚は、インテリアのショールームとかマンションのモデルルームなんかに入ってみるとよくわかる。こういう場所では、インテリアのオシャレ感を演出するために、テーブルの上に英字新聞やペーパーバックが置いてあったりする。生活空間を商品として扱う場所で、日常生活にはまったく縁のない英字新聞やペーパーバックを演出の道具として使うという感覚が、日本人の英語に対するイメージを端的に表している。

これが、日経新聞や司馬遼太郎の文庫本だったりしたら、一気にオシャレ感がなくなってしまう。インテリアのショールームやマンションのモデルルームはこれまでにいくつか覗いたことがあるけれど、日本語の新聞や雑誌がインテリアの一部として使われていたことはなかったと思う。たしかに、こういう場所に「週刊文春」があったりするとものすごい違和感があるけれど、それが「TIME」に変わるだけで一気にオシャレになる。

芸能人が自分の子供をインターナショナルスクールに通わせたりするのも、こういう英語に対するイメージが根本にあるのだと思う。表向きは、英語を話せれば将来なにかと有利だから、という理由で通わせているのかもしれないが、「英語を話せたらカッコいいから」という安直な考え方がそのベースにあるのだろう。日本で生活する以上は日本語が一番重要なはずなのに、なぜかそういう考え方にはならないらしい。

ブログなどを読んでいると、日本語の文章の中に英単語を混ぜて書く人がときどきいるけれど、こういう人たちも根本的には同じような人たちなんだろう。英語はカッコいいと思っているから、英語を混ぜて文章を書く自分もインテリでカッコいい、なんて思っているに違いない。中には、英単語の横にカッコ書きで日本語の意味を書いている人もいるけれど、だったら最初から日本語で書けよとツッコミたくなる。

ということで、日本人の英語に対するイメージというのは、過度に美化されているような気がする。英語に対するイメージというよりも、英語を通じた欧米圏の文化に対するイメージと言い換えてもいいかもしれない。英語はカッコいいというイメージを持つこと自体は悪いことではないし、ある程度しかたのないことだとは思うけれど、今回のようなトンデモないキャッチコピーに出会ったりすると、なんだかなと感じてしまう。



今週の覚書一覧へ

TOP