16/05/22

残業について考えてみる

何気なくネットでニュースをチェックしていると、「残業100時間の『過労死ライン企業』が11%」というタイトルのニュースが目についた。このタイトルを見て最初に思ったのは、全社員の月平均の残業時間が100時間を超えている会社の割合が11パーセントもあるのか、ということだった。しかし、いくら日本人が残業好きといっても、まさかそこまで多くはないだろう。

そう思って記事を読んでみると、「1カ月間の残業が最も多かった正社員の残業時間」ということらしい。つまり、飛び抜けて残業時間の多い社員が一人でもいれば、その会社もこの11パーセントに含まれるというわけだ。しかし、一人だけ異常に残業が多くて、残りの社員は定時であがる、なんていう会社はないだろう。こういう社員がいるという会社は、他の社員についても当然残業は多いはずだ。

残業時間が「80時間超〜100時間以下」という会社も同じく11パーセント存在しているらしいから、過労死の認定基準となる80時間を超えて残業させている会社は、実に全体の2割を超えていることになる。この数字をどう感じるかは人それぞれだろうが、自分は「まあ、そんなもんだろうな」と感じた。ひと月あたりの稼働日数を20日とすると、一日平均4時間残業すれば80時間になる。

定時を17:30とすると、毎日21:30まで残業すれば80時間になる計算だ。IT業界であれば、毎日これくらいの時間まで残って仕事をしている人はそれほど珍しくない。休日出勤をすれば、月80時間の過労死ラインなんて簡単に到達する。実際にIT業界を経験したからわかるけれど、納期の前後はかなりの修羅場で、休日出勤や深夜までの残業はごく当然の光景だ。

自分も、社会人になったばかりの頃は、仕事のやり方もよくわからずに、なにかといえば残業していた。週末には会社に泊まり込みで仕事をしたこともあった。もちろん、忙しいから残業していたわけだけれど、そうやって残業していると、なんだか一人前の社会人になったような気がして、ちょっとだけ偉くなったような気がしていたのも事実だ。いまから考えると、バカだなと思う。

翻訳業界に転職してからは、あまり残業をしなくなった。一日あたりのおおよその処理量が決まっていて、それをベースとして作業が割り振られるため、あまりにも無茶な作業量が割り振られることはない。英日翻訳ならば一日2,000ワード、日英翻訳ならば一日3,000文字というのがおおよその目安だ。なので、自分のスキルさえ上がれば、残業しなくても楽に割り当て量をこなすことができるようになる。

しかし、何年か前にものすごい量の作業が集中して発注されたことがあり、そのときは休日出勤を含めてひと月あたり50時間くらい残業したことがあった。そういう状態が2〜3か月くらい続いただろうか。このときはさすがに疲れて、駅に着いて会社に向かう前に、ホームの自販機でリポビタンDを買って飲んだりしていた。もちろん、そんなものを飲んでも疲れがとれることはなかったけれど。

いまの会社に移ってからは、ほとんど残業をしなくなった。30分以上残業したのはいつだったかを考えてみると、もうずいぶんとしていない。1年以上はしていないような気がする。転職した当初に仕事のピークにぶつかってしまい、そのときに少し残業したくらいで、あとは常に定時にあがっている。たまに忙しいときもあるけれど、少し本気を出せば十分に定時にはあがれるくらいの忙しさだ。

いまの会社は年棒制で残業代は出ないから、わざわざ残業するなんていうことはしない。もちろん、やむを得ないときには残業するのもしかたのないことだとは思っているけれど、無駄なことは極力したくないと考える人間なので、なんとか時間内に終わらせる努力をする。サービス残業なんていうバカバカしいことは、やらずに済めばそれに越したことはない。

ただ、日本の会社の場合、遅くまで残って仕事をする人間の方が、仕事を早く終わらせて常に定時であがる人間よりも評価される傾向がある。Aはいつも遅くまで仕事をしていてよく頑張っているのに、Bはいつもさっさと帰ってしまってけしからん、みたいな感じで評価されてしまう。そういう空気のある会社では、周りに気を使ってしまい、仕事は終わっているのにいつまでも帰れない、なんてことになってしまう。

しかし、これはおかしな話だ。遅くまで残って仕事をしているというのは、単純にその人が仕事ができないというだけのことだ。ものすごく仕事ができる優秀な人間で、その人のところに仕事が集中してしまうから、というケースもあるかもしれないが、それはまれだ。本当に仕事のできる人間というのは、無駄な残業なんてせずに、要領よく仕事をさばいていく(もちろん、自分がそうだと言っているわけではありません)。

すべての社員に同じ作業量が割り振られていると仮定した場合、遅くまで残業している社員と、定時であがる社員とでは、どちらが仕事が早いかは言うまでもない。残業が多い社員というのは、その分残業代ももらっているわけだから、会社からしてみれば、仕事は遅いくせに人件費は高いという困った存在になるわけだ。にもかかわらず、なぜか評価されてしまうというおかしな現象が発生する。

一方、常に定時であがる社員は、仕事が早くて人件費も低いという、会社にとっては非常にありがたい存在であるにもかかわらず、なぜか評価されない。これは、みんなが遅くまで残って頑張って仕事をしているのに、あいつだけいつも早く帰りやがってけしからん、という理不尽な理由からだろう。こういうのを逆切れという。ただ、そういう気持ちもわからないではない。そんなに余裕だったら、少しは手伝ってくれよということだろう。

日本の会社では、あまりに個人主義がすぎると、周囲との軋轢が生まれるから、なにかと面倒だ。だから、残業する必要もないのに、周りに合わせて仕事をするフリをして、いつまでも会社に残るということになる。「残業する人」イコール「頑張っている人」という固定観念を変えていかないと、日本の会社の残業時間はこれからも減っていかないような気がする。



今週の覚書一覧へ

TOP