15/12/20

散髪に関するあれこれ

去年は、散髪で思い切り失敗した。年末に突然髪を切りたくなり、いくつかの美容室に電話をかけてみたのだが、どこも予約でいっぱいだという。しかたないので、以前に一度だけ利用したことがある激安理容店(カットのみで1,080円)に行ったのだが、襟足の部分をバッサリと一直線に切り揃えられてしまい、見事なカリメロヘアになってしまった。

いかに学習しない自分でも、さすがに同じ失敗はしたくないので、今回は事前に予約して髪を切ることにした。いつもは店長さんに切ってもらうのだが、今回は新しく入ったと思われる若い男子が担当することになった。多少のぎこちなさはあるものの、全体的にはとても丁寧な仕事ぶりで、好感が持てる。なにより、余計な世間話を一切しないところがいい。

今日はどうしますかと訊かれたので、髪を切るのは半年ぶりなので半年分切ってくださいとお願いした。いつもの店長さんならこれだけで通じるのだが、この新人君は今回が初めてということで、慎重を期しているのだろうか、ヘアカタログを持ち出してパラパラとめくり、たとえばこんな感じですか? みたいに確認を求めてくる。半年分切ってくれという注文だけでは、具体的なイメージが浮かばないのだろう。

しかし、こちらとしても具体的なイメージがあるわけではない。さすがにカリメロヘアにされては困るけれど、それほどおかしな髪型でなければいい。とにかくさっぱりしたいだけなのでそう告げると、新人君はわかりましたと答えてカットに取り掛かる。だいたい、ヘアカタログを見せられても困る。さわやかなイケメンモデルの素敵なヘアスタイルを見て、こんな感じでお願いしますだなんて、48歳のオヤジが言えるわけがない。

そんな感じでお願いしたところで、仕上がりには絶対に落胆するに決まっている。たとえば、福山雅治がモデルとして出ていて、こんな感じでお願いしますと言ったとしよう。表面上の言葉としては、福山雅治みたいな髪型にしてくださいとお願いしているわけだけれど、実際の気持ちとしては、無意識にせよ、福山雅治みたいになればいいなと思っているのだ。

だから、どんな髪型にしたところで、仕上がりには必ず落胆する。むしろ、完成度の高い髪型ほど、自分の容姿と福山雅治の容姿とのギャップを思い知らされてさらに落胆することになる。だから、ヘアカタログなんて参考にしない方がいい。福山雅治はもちろんのこと、無名のモデルですらルックル的にはまったくかなわないのだから、そういうイケメンに自分を重ね合わせることはしない方がいい。

カット中はそんなことを考えながら雑誌を読んでいたのだが、新人君は「耳は全部出しますか」とか、「前髪の長さはどれくらいにしますか」など、なんだか難しい質問をしてくる。たしかに、サイドの長さや前髪の長さは重要な問題かもしれない。しかし、それとて、特に明確なイメージがあるわけではない。カリメロヘアを避けつつさっぱりすればいいだけなので、なかなか答えるのが難しい。

そんな感じで、とても丁寧な仕事をしてくれる新人君なのだが、カット後のシャンプーも非常に丁寧だ。絶妙な力加減で頭全体をもみ洗いしてくれる。しかも、その時間が長い。これまで、シャンプーしてもらって気持ちいいと思ったことはあまりないのだが、今回は非常に気持ちいい。油断すると、そのまま眠ってしまいそうになるくらいだ。

ただ、「お湯加減はいかがですか」とか、「洗い残していることろはありませんか」などと訊かれるのがちょっと困る。こちらは顔に布をかけられて仰向けになっているので声が出しにくいし、そもそもいい気持ちになっているので返事をするのが億劫だ。もし問題があればこちらからそう言うから、そのあたりは察してほしいと思うのだが、こればかりはしかたのないところだろうか。

シャンプーが終わってからのマッサージにも手抜きがない。自分は、特に肩こりに悩んでいるということはないので、強い力で肩をもまれると逆に痛いと思ってしまうのだが、せっかく一生懸命にマッサージしてくれているのに、「痛いからやめてください」みたいなうら若き乙女みたいなことを言うのもどうかと思い、目を閉じてマッサージを堪能しているフリをする。

そんなこんなで、ただのカットなのにたっぷりと1時間以上かかった。まあ、店長さんの場合もいつも1時間くらいかかるから、この新人君の仕事が特に遅いということではない。カットであれパーマであれ、丁寧な仕事をするというのがこの店の方針なのだろう。こちらとしては、早く終わってもらった方がいいと思う反面、たっぷり時間をかけてもらうとなんだか得したような気分にもなる。

これで、料金は3,300円だ。シャンプー込みでこの値段はかなり安いと思うのだが、どうだろうか。客の立場としては、料金が安いのはもちろん嬉しいのだけれど、こんな料金設定で経営が成り立つのか、少しだけ心配だ。カットの間は一人の客にずっと付きっ切りだから、ほかの仕事と掛け持ちというわけにはいかない。カットにかかる時間を1時間とした場合、スタッフ1人当たりの1時間の稼ぎはたったの3,300円ということになる。

この3,300円から、人件費や光熱費や家賃などの経費が引かれるわけだ。そう考えると、カットの客だけではおそらく赤字になるだろう。きっと、パーマやカラーリングの客を放置プレイにしている間にカットの客に対応することで、儲けを出しているのだと思う。美容院の詳しい利益構造はよくわからないけれど、今回の結論としては、カリメロヘアにならなくてよかったということだ。ありがとう、新人君。



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