15/10/25

公園で昼寝をしていたらホームレスに間違われた件について

爽やかな秋晴れが続いているけれど、正直なところ、秋はあまり好きな季節ではない。毎日ものすごい勢いで日が短くなっていくのが嫌いなのだ。特に日の入りの早さは異常で、夕方の4時くらいにはすでに夜の気配が忍び寄ってくるのがわかる。日が短くなると、屋外での行動時間も短くなるから、ものすごく損をした気分になってしまう。

ということで、特に予定のない休日は基本的に外に出て過ごすわけだけれど、ロードバイクに乗ってばかりというのも疲れるので、公園で読書をしながら、そのまま昼寝をすることもよくある。毎週のように図書館で2〜3冊の本を借りているから、読む本に困ることはない。読み捨てられた雑誌が公園のベンチに置かれていたりしたら、迷わず手に取ってみる。

そんな感じで手にしたのが、「パチスロ雑誌を読んでみた」で書いたパチスロ雑誌だった。その日も、公園のベンチでパチスロ雑誌を読んでいた。欄外に「パチスロ基本用語」という解説があって、『「入賞」とは、内部で成立した役が実際にリール上に揃うこと。例としては、「ボーナス入賞でRTが終了」という表記は、ボーナスが内部で成立しても揃えなければRTは終了しない、という意味』などと書いてある。

「基本用語」というくらいだから初心者向けの解説だと思うのだが、それですらよくわからない。そもそも「RT」が何を意味するのかがわからない。「リツイート」のことだろうか。意味のわからないものを読んでいると眠くなるのは当たり前のことで、読みかけのパチスロ雑誌を顔にかぶせ、リュックを枕にして公園のベンチで横になった。背の高い木のおかげで、直射日光が当たることもなく気持ちいい。

そんな感じで気持ちよく寝ているところを、だれかに揺り起こされた。何事かと思って顔を上げると、70〜80歳くらいの背の低い貧相な爺さんが覗き込んでいる。その顔を見た瞬間に、何か月か前にも、同じ場所で寝ていたところをこの爺さんに起こされたことを思い出した。そのとき、この爺さんは、「いま仕事してますか?」といきなり聞いてきたのだ。

気持ちよく寝ているところを起こされてすこぶる不機嫌だった自分は、その不機嫌さを隠そうともせずに貧相な爺さんを追い払ったのだが、後になって、いったいヤツは何者なんだろうという疑問がわいてきた。最初は、福祉関係の人間かと思ったのだが、あんなに貧相な人間が福祉の仕事なんてするわけがない。むしろ、自分が福祉のお世話になりそうなくらいだ。

ということは、手配師だろうか。手配師とは、土木建築などの現場で働く人を集めて紹介料を稼ぐという仕事だ。日ごろからそういう業界に興味を持っている自分としては、話も聞かずに追い返してしまったことを後悔した。もしもまた声をかけられることがあったら、そのときはちゃんと話を聞こうと思っていた。つまらないパチスロ雑誌のおかげで、そのチャンスが思いがけずにめぐってきたということだ。

実は、その日はかなり期待しながらベンチで横になっていたのだ。ペーパーバックを顔にかぶせて寝ていたら、もしかして声をかけにくいんじゃないだろうかと考えて、いかにも頭の悪そうな人間が読むパチスロ雑誌を顔にかぶせていたのも作戦だった。だから、揺り起こされたときには、心の中で思わず「キターーーーーーーー!!」と叫んでいた。

前と同じように「いま仕事してますか?」と聞いてきたので、していないと答えて起き上がった。すると、貧相な爺さんは自分の横に腰かけて話し始めた。なんでも、現場工事の人手を探しているらしい。いまから親方に電話すれば、すぐに仕事にありつけるということだ。予想通り、この貧相な爺さんは手配師だったというわけだ。

条件を尋ねると、日当は9,000円ということだ。おそらくは、建設現場の「手元」と呼ばれる仕事だろう。「手元」とは、職人から指示を受けていろいろな雑用をこなすという仕事で、現場では一番の下っ端が受け持つことになる。この爺さんはだれかれかまわず声をかけているのだろうから、経験のないド素人にでもできるような単純な仕事なのだろう。

そういう仕事だから、日当9,000円というのは妥当な金額なのかもしれない。しかし、さらに話を聞いてみると、その日当から住居費と食費という名目で毎日3,000円引かれるらしい。ということは、手元に残るお金は6,000円ということになり、一日8時間労働と仮定すると、実質的な時給は750円ということになる。千葉県の最低賃金は時給817円だから、それよりも大幅に低い。かなりバカにした金額だ。

などと考えていたら、怒るべきポイントは時給750円ということではなくて、「住居費」というところで憤慨すべきだということに気付いた。つまり、この貧相な爺さんは、休日の昼間にパチスロ雑誌を顔にかぶせてベンチで寝ていた48歳男子のことを宿なしのホームレスだと思って声をかけたわけだ。無職だと思われただけならまだしも、ホームレスだと思われたことにはさすがに腹が立つ。

あまりにも腹が立ったので、自分にはちゃんと住居があること、そんなボッタクリみたいな日当で仕事をするつもりはないことをかなり激しい口調で伝えて、貧相な爺さんを思い切り邪険に追い返した。こんなに素敵な48歳男子のどこがホームレスに見えるんだと怒ったら、「いや、ベンチで寝ていたもんでね、すみませんね」と言いながら、ボロいママチャリに乗って走り去っていった。

そうか、昼間から公園のベンチで寝ていると、世間の人からはホームレスに見えてしまうのか。いやいや、そんなわけはないだろう。公園のベンチで昼寝している人なんていっぱいいる。きっと、パチスロ雑誌を顔にかぶせて寝ていた自分には、ものすごくホームレスっぽい雰囲気が漂っていたのだろう。そう考えると、なんだかすごく落ち込む。

しかし、改めて冷静に考えてみると、ホームレスにとっては悪くない条件だと思う。雨風をしのげる場所を確保できるだけでもありがたいのに、食事も出してもらえて日銭も入る。おそらく、住居費や食費のほかにもあれこれと理屈をつけて日当から引かれるのだろうが、いくらかでも手元に残るのであれば、ホームレスにとってはありがたいことだろう。

同じ手配師に2回も声をかけられたということは、この業界は慢性的に人手不足なのだろう。新しい国立競技場の建築費用が大きな問題になったけれど、人件費の高騰も建築費用が膨らんだ大きな要因らしい。とにかく人手不足で、職人に対する日当が跳ね上がっているようだ。これまでは2万円だったのに、いまでは3万円でも人が集まらず、4万円にまで高騰しているケースもあるというからすごい。

ということで、今回の件では、会社をクビになって転職もできず、貯金も底をつき、いよいよという事態になったら、公園のベンチで昼寝をしていれば貧相な手配師が声をかけてきて、タコ部屋に押し込まれて理不尽な理屈で日当をピンハネされながらも、寝る場所とメシだけはなんとかなりそうだということはわかった。



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