15/10/18

メジャーデビューを目指して頑張っている若手のお笑い芸人に思いをはせてみる

NHKのBSでつい最近まで放送していた「笑けずり」という番組が非常に面白かった。これは、多くの若手芸人の中から9組を選び、富士山のふもとのペンションで合宿生活をさせるという番組だ。毎週なんらかのテーマでネタ作りを行い、みんなの前でそのネタを発表し、一番面白くなかったコンビが強制的に帰らされるというシステムになっている。

そうして9組から3組にまで減らし、残った3組が最終回でネタ見せを行い、優勝したコンビが年明けの地上波のお笑い番組に出演する権利を獲得するというわけだ。毎週1組を減らしていくことを「削る」という言葉で表現し、それが番組タイトルの「笑けずり」につながっている。この「けずる」シーンが番組の最後に放送されるわけだけれど、なかなかシビアだ。

特に、初回はすごかった。9組のコンビが期待と不安が入りまじった表情で集まるわけだけれど、そこでいきなりネタ見せが行われ、一番つまらなかったコンビがその場で即刻退場となる。しかも、第三者的な立場の人間が判定するのではなく、9組のコンビがお互いを評価して投票するというのだから厳しい。さらに、誰が誰に投票したのかも発表されるから、どちらの立場であっても、精神的にキツイだろう。

その最初のネタ見せでは、大阪からやってきた最年長のコンビが落とされた。30歳で時給800円とか900円のバイトをしながら、メジャーになることを夢見てお笑いを続けてきた二人にとっては、あまりにも残酷な結果だった。去り際に、また頑張ります、みたいなことを言っていたけれど、そろそろあきらめて定職に就いたほうがいいと思ったのは、自分だけではないだろう。

人気者になることを目指して頑張っているお笑い芸人は、1万組だったか1万人だったか忘れたが、とにかくそれくらいいるらしい。それほど多くの若者が時給の低いバイトをしながらお笑いを頑張っているのかと思うと、なんともいえない気分になる。お笑いに限らず、役者やミュージシャンを目指している人を入れたら、いったいどれくらいの若者が無茶な夢を見ているのだろうか。

芸能界は椅子取りゲームみたいなものだということをどこかで読んだことがある。芸能界にはいろいろなポジションがあって、そのポジションを早く奪った人がそのままそれを独占し、そのポジションが空くまで他の人は割り込むことができない。つまりは、早い者勝ちだということだ。自分が目指している椅子が見つからなければ、そこが空くまで待つか、別の椅子を探すしかない。

現在のお笑い界のトップに君臨しているのはダウンタウンやウンナンあたりだろうが、彼らにしても単に運が良かっただけのことだ。当時はまだまだお笑い芸人が少なくて、ちょっと面白ければすぐに人気者になれた。その人気をずっと維持していくのは大変なことだとは思うけれど、いまみたいな飽和状態のお笑い界で一から地位を築いていくよりは簡単だろう。

お笑い界のトップを夢見て頑張る大勢の若者という構図は、アムウェイなどのマルチ商法に似ているとも思う。マルチ商法というのは、そのねずみ講的なシステムのせいで、最初に始めた人がどうしても有利になるようにできている。最初にビジネスを始めた人は、それほど苦労しなくても成功できるのに対して、後から参加した人は、よほど頑張らないと儲からない仕組みになっている。

マルチ商法なんていうインチキな商売はいい加減なところでやめればよさそうなものだけれど、一度始めてしまうとなかなかやめられないものらしい。可能性がある限り、自分だって成功するかもしれないと思い込んでしまうのだろう。冷静になって理論的に考えてみれば、成功する確率なんてほとんどないにもかかわらず、ポエムみたいな言葉で自分をだまして現実を直視しようとしない。

それと同じように、お笑いもなかなかやめられないのかもしれない。サンドイッチマンやバイきんぐなどのように、お笑いのコンテスト番組で優勝して一気にスターになった例もあるから、自分たちも一発当てて大逆転だ、なんて考える人が出てくるのはしかたのないことだろう。ただ、それは宝くじに当たるようなもので、現実的に期待できるようなことではない。

「笑けずり」では、テレビで活躍している中堅どころのお笑い芸人が講師として登場し、漫才の授業をする。そこでは、前向きなアドバイスをして若手を励ますのだけれど、中途半端に励ますのもどうかなと思ったりする。頑張れば成功するという保証があればいいけれど、そんな保証もないのに頑張れというのは、少し無責任なような気もする。

それはともかく、真剣に漫才に取り組んでいる若者たちを冷酷にふるい落としていく「笑けずり」は非常に面白かった。長い間寝起きをともにするわけだから、お互いに情が移り、毎週1組のコンビが落とされるたびにみんな悲しむのだけれど、それと同時に自分たちは勝ち残ったという気持ちもあったりして、なんともいえない複雑な表情が浮かぶのも見どころの一つだ。

そうした過酷なシーンだけでなく、ちょっとした恋愛が芽生える場面もあったりして、ドキュメンタリーならではの面白さが満載されている。最後は、自分が最初から応援していたコンビが優勝したので、いろいろと考えることはあったけれど、後味の悪さは残らなかった。これから頑張ってほしいと思う。YouTubeなどに動画がアップされているので、興味があれば見てください。面白さは保証します。



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