15/03/15

辞書について考えてみる

いつものように図書館で面白そうな本を探していたら、三浦しをんの「舟を編む」が目に留まった。知っている人も多いと思うが、これは2012年に本屋大賞を受賞して、その後映画化もされたヒット作だ。早速手に取って奥付を確認してみると、2011年9月20日が初版発行で、2012年2月20日の時点で8刷発行となっている。半年足らずで8刷とは、出版不況の現代にあってはすごい数字だ。

まだ新しい話題作が図書館で借りられるなんて、かなり珍しいケースだ。世間で評判になっているベストセラーが図書館に入ると、たちまち予約が殺到して何十人待ち、ひどいときには何百人待ちなんていう状態になる。そんなに読みたければ金を出して買えよ、この貧乏人が、などと思ったりするけれど、実は自分もめったに本を買わない貧乏人だったりする。

自分が興味を持っている分野の雑誌やノンフィクションなら、たまに買ったりするけれど、小説となるとまず買わない。金を出してまで小説を読みたいとは思わないからだ。この覚書でも何度か書いているように、小説に対してそれほど大きな価値を感じていないから、ブックオフで100円均一の文庫本を買うことはあっても、ハードカバーの新刊本を買うことはめったにない。

「舟を編む」については以前から興味があったので、早速借りて読んでみた。これは、出版社に勤務する馬締(まじめ)という名前の真面目な男子が辞書の編集に取り組む姿を描いた小説で、全体的にはコメディタッチながら、ときどきホロリとさせるところもあったりで、なかなか面白かった。辞書の編集という、一般人には知りえない世界が丁寧に描かれているのがいい。

中型の辞書だと、完成までに10〜20年、大型の辞書になると20〜30年くらいかかるらしい。いつも辞書を引きながら、これほど膨大な情報が詰まったものを作るのは大変だろうなと思っていたが、まさかこれほど長い時間がかかるものだとは思っていなかった。さすがに1年や2年で完成するとは思っていなかったけれど、5年もあればできるのかな、くらいに考えていた。

でも、これだけのお金と時間をかけて辞書を作ったところで、儲けは出るのだろうか。出版社としては、辞書というのはその会社の信用を表すための商品であって、辞書自体では儲けは出ないけれど、質の高い辞書を作ることによって会社の信用を上げるという意味があるのかもしれない。少なくとも、儲けだけを考えたら、とても辞書なんて作っていられない。

この小説に出てくる馬締くんや荒木さんや松本先生にはとてもかなわないけれど、自分もそれなりに辞書が好きだったりする。初めて国語辞典を引いたのは、小学3年くらいの頃だったと思う。辞書を引くという行為自体が、なんだか大人になったような気がして楽しかった。中学生くらいになると、大抵の男子がそうするように、性に関する言葉を興味本位に引いたりしていた。

高校生になると、国語辞典よりも英和辞典を引くことの方が多くなり、兄貴のお下がりの英和辞典を使っていた。少しでも引きやすくするために、ページを一枚ずつクシャクシャにしていたことを思い出す。こうすると、ページをめくるときに何枚ものページがくっついてくるということがなくなる。いまから考えると、くだらないことに時間を使ったものだと思う。

「舟を編む」を読んで知ったのだが、ページのめくりやすさというのも辞書の重要な部分で、指に吸い付くような感触を保ちながら、一枚ずつ確実にページがめくれるような工夫がなされているらしい。なるほど、言われてみればそのとおりかもしれない。これまでほとんど意識したことはなかったけれど、いい辞書というのは中身だけではなく、紙の質にも現れるということだろう。

大学に入学してからは、ほとんど辞書に触れることはなくなった。いまから考えても、この時期が一番頭が悪かったような気がする。いまさら後悔してもしかたがないけれど、若いときにもっと勉強しておけばよかったといつも思う。勉強だけでなく、もっと何かに打ち込んでいれば、いまごろはもう少しまともな人間になれていたような気がする。

それを後悔して英語の勉強を始めて、いまに至るわけだ。本格的に英語を勉強しようと思って買ったのが、リーダーズの英和辞典だ。26万語収録という圧倒的なパフォーマンスに惹かれて買ったこの辞書には、当然ながら愛着がある。引いた単語にはすべて赤ペンで線を引き、赤線の付いた単語を引いたときには青ペンでさらに線を引き、赤線と青線の付いた単語を引いたときにはオレンジの蛍光ペンで線を引いた。

電子辞書を買ったいまとなっては、この重い紙の辞書を使うことはあまりないが、気持ち的にはやっぱり紙の辞書の方が好きだ。何と言うか、連続性があるところがいい。電子辞書の場合は、一つの単語を引いてそれで終わりだけれど、紙の辞書の場合は、その前後の単語もつい読んでしまい、さらにその関連語なども調べたりして、どんどんと深みにはまっていくところが楽しい。

「無人島に何か一つだけ持っていくとしたら何を持っていく」という問題があるけれど、自分の場合は迷わずリーダーズの英和辞典を持っていくと答える。現実的なことを考えれば、ナイフとかライターなどを持っていくべきだろうが、自分には無人島でサバイバル生活を送れるほどの能力はない。どうせ死ぬのであれば、辞書を枕に死ぬのも悪くない。



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