15/02/15

傍聴メモより

まだまだ真冬の寒さが続くけれど、確実に日が延びているのがわかるのが嬉しい。この時期の日の出はまだ遅くて、6時半くらいにならないと明るくならないが、日の入りは確実に延びていて、夕方5時半を過ぎてもまだ明るさが残っている。体感的には真冬だけれど、春が近いことを感じさせてくれるこの時期は嫌いではない。

ということで、寒さに負けてネタ枯れ気味なので、今回は去年の有給消化期間に通っていた千葉地裁での傍聴メモから、面白そうな裁判を拾って書いてみたい。途中から傍聴したものや、途中で退席したものも含めると、全部で15回くらいは傍聴しただろうか。それほど数は多くないけれど、覚醒剤、傷害、詐欺、強盗殺人未遂と、バランスよく傍聴してきたつもりだ。

今回は、詐欺事件の裁判について書いてみよう。被告は42歳の男子で、身長165センチ、体重70キロくらいのちょっと小太り体型。特にこれといった特徴はなく、良くも悪くも平凡で地味な感じだ。街ですれちがっても印象に残らない種類の人間といえばいいだろうか。まあ、強盗や殺人といった凶悪犯ではないから、いかにも悪人顔の被告を期待するのは無理がある。

罪状は、タクシー運転手からの寸借詐欺で、3万円前後の金を言葉巧みに運転手からだまし取っていたらしい。被害者は6人で、被害総額は約20万円だが、同じ罪状で前科があり、そのときは2年4か月の実刑判決をくらって服役している。要するに、タクシー運転手を狙った寸借詐欺の常習犯というわけだ。

詐欺の手口としては、タクシーに乗っているときに彼女から電話がかかってきたフリをして、「いま彼女がどこぞの店で飲んでいるんだけど、お金がないから貸してほしいと言っている。申し訳ないが3万円くらい貸してもらえないだろうか」と運転手にお願いするというものだ。まんまとお金を受け取ったら、店にタクシーを乗り付けてそのままドロンする。

検察官の話を聞きながら不思議に思ったのは、なぜタクシー運転手はお金を貸す代わりに担保を取らなかったのかということだ。身分証明書なりキャッシュカードなりクレジットカードなり、何かしらの担保を取らなければ、見ず知らずの人間にお金なんて貸せないと思うのだが。まあ、そのあたりはよほど言葉巧みにだましたということなのだろう。

しかし、証言台に立つ被告は、どう見ても頭の切れそうなタイプには見えないし、言葉巧みに相手をだますようなタイプにも見えない。こういう詐欺というのは、それなりに頭の回転が速くなければできないと思うのだが、この被告はそういう感じが一切ない。それに、なんだかオドオドしていて、度胸が据わっているようなタイプにも見えない。

詐欺事件を起こす前は、工場のラインでアルバイトをしていたらしい。手取りは月8〜10万円で、家賃は4万6千円。当然アルバイトの収入だけでは生活できないから、生活保護を受けていた。しかし、ベルトコンベアから流れてくる荷物が重くて腰を痛めてしまい、アルバイトを辞めてしまう。その後は生活保護を受けながら、たまに居酒屋やキャバクラに行って気晴らしをしていた。

ここで、検察官が「キャバクラ」というキーワードで被告を責めていく。「生活保護を受けていながらキャバクラに行っていたなんて、悪いことだとは思わなかったのですか?」とか、「あなたがもらっている生活保護のお金はどこから出ているか知っていますか?」など、子供に対してするような質問で42歳の男子を責めていく。

このキーワードには裁判官も食いついて、検察官と裁判官の二人がかりで被告を責める。いやいや、キャバクラに行っていたとは言っても、せいぜい月に1〜2回だったらしいから、そんなに責めなくても。たしかに生活保護のお金で風俗に行くのは道義的に問題があるけど、たまの息抜きくらいは大目に見てやれよ。

検察官と裁判官によるキャバクラ責めを聞きながら、大学生のときに奨学金で雀荘や風俗に行っていた自分はそんなことを思った。それはともかく、裁判官から今後はどのように更生していくつもりかと聞かれた被告は、「今回の事件を起こしてしまったのも、すべては酒を飲んで気が大きくなってしまったことが原因なので、今後は一切酒を断ちます」と答えた。

酒と詐欺は関係ないような気もするが、心にもないような空々しい言葉を並べるよりも説得力があると感じた。終始うつむいてボソボソと話す被告に対して、初めて真剣さを感じた瞬間だった。もしかしたら、本気で更生するつもりなのかもしれない。でもなあ、酒をやめると言っても、それほど簡単なことじゃないんだよなあ、ということも同時に感じた。

裁判官も同じように感じたらしく、「お酒をやめると言っても、そんなに簡単なことではありませんよ。本当にやめられますか?」と聞いてきた。それに対して被告は、「今回ばかりは本当に自分がイヤになりました。出所したら断酒会に入って絶対に酒をやめるつもりです」と答えた。すでに実刑判決を覚悟しているところがちょっとおかしかったが、真剣さは伝わってきた。

それに対する裁判官の言葉が素晴らしかった。「お酒をやめても、それに代わる何かを見つけなければ、またお酒に逃げてしまうことになりますよ。何でもかまわないから、お酒に逃げずにすむような大事なものを見つけてください」と言ったのだ。同じ酒飲みの自分にも、重く響く言葉だった。まだ若いのに、なかなかやるじゃないか、この裁判官。

検察官の求刑は懲役5年だった。ということは、3年6か月〜4年の実刑判決になるだろう。たかだか20万円くらいの詐欺で4年も刑務所に入るわけだから、やっぱり犯罪は割に合わない。刑務所から出てきたときには46歳くらいになっているわけだから、まともに再就職もできず、すぐに困窮する。そしてまた犯罪に走る。こうして常習犯が生まれていくわけだ。



今週の覚書一覧へ

TOP