14/02/16

風呂の思い出

なんだか冬将軍さまが調子に乗っているようで、関東でも大荒れの天候になっている。先週の雪が溶けきらないうちにまた雪が降ったりするから、足元が危なっかしくてしようがない。これも、地球温暖化の影響なのだろう。温暖化と大雪というのは、一見するとまったく逆の現象に思えるけれど、温暖化ではなくて気候の極端化と表現したほうがわかりやすい。

こういう寒いときには、風呂に入って温まるのが一番だ。いま住んでいる千葉市の超高級マンションの風呂は、ボタン1つでお湯を沸かすことができるフルオートバスだ。やっぱり、これほどの超高級マンションになると、設備も超高級グレードになる。いまどきフルオートバスなんて当たり前の設備だよ、なんていう外野の声は一切無視する。

いまでこそ、こうした便利な風呂に入れる身分になったけれど、実家の風呂は五右衛門風呂だった。というか、いまでも五右衛門風呂だ。五右衛門風呂がどういうものか知らない人もいるかもしれないので簡単に説明すると、風呂釜の下で薪を燃やしてお湯を沸かすという、なんとも原始的な風呂だ。ドラム缶風呂を思い浮かべてもらえればわかりやすい。

五右衛門風呂の場合、風呂釜自体を薪の火で直接温めるわけだから、風呂釜の底の部分がかなり熱くなり、そのまま腰を下ろしたりするとお尻がやけどしてしまう。それを防ぐために、底板(自分の実家では浮き蓋と呼んでいる)を踏んで湯船に入ることになる。こうすると、皮膚が風呂釜に直接触れることがないため、安心して湯船に浸かることができるというわけだ。

子供の頃は、学校から帰って風呂を沸かすのが自分の仕事だった。風呂場から一段下がった土間に風呂の焚口があり、その焚口に薪を入れて火をおこすのだが、薪が乾いていれば火をおこすのは簡単だけれど、生木のような薪を使うと、煙ばかりでなかなか火が付かないので苦労する。火吹き竹を必死に吹いて火をおこそうとするのだが、煙がもくもくと上がるばかりで、なかなか火がついてくれない。

両親が農作業から帰ってくるまでに風呂が沸いていないと、短気な父親に怒られるので、こちらとしても必死だ。いまから思うと、あの頃はなぜか薪の質が悪くて、なかなか火が付かなかった記憶がある。いまでも、実家に帰ると風呂焚きをするのは自分の仕事なのだが、薪がしっかりと乾いていることもあって、拍子抜けするくらい簡単に火をおこすことができる。

炊きつけとして使うのは、茶色く枯れた杉の葉だ。この杉葉(スギバと発音する)を一番下に敷き、その上によく乾いた軽い薪を何本か乗せる。自分の実家はシイタケ農家なので、散々使い倒してシイタケの原木としての寿命を全うしたものを薪として使っている。そして、その軽い薪の上に、密度の高いしっかりとした薪を乗せる。つまりは、燃えやすいものから順に三層構造になるわけだ。

このとき重要になるのが、各層の間になるべく空気が入るようにすることだ。火を燃やすためには酸素が必要になるから、その酸素を取りれるためにはなるべくふんわりとした感じで薪を積み上げる必要がある。面倒だからといって、何も考えずに薪をフラットに積み上げてしまうと、うまく火が付いてくれないのだ。

五右衛門風呂の最大の特徴は、風呂釜自体を直接温めるため、お湯の温度がなかなか下がらないということだ。夏場なんて、翌日の昼になっても十分に温かく、そのまま湯船に入って農作業の汗を流すのが当たり前だった。冬になるとさすがにそういうわけにはいかないが、翌日の朝になっても、短時間ならば湯船に浸かっても問題ないくらいの温かさが残っている。

ただし、風呂釜に水が入っているかどうかを確認せずに空焚きをしてしまうと、とんでもないことになる。いや、空焚きをしたとしても、風呂釜が冷めるまで冷静に待てば、大事には至らないのだが、あわてて水を入れたりすると、急激な温度の変化に風呂釜が耐え切れず、風呂釜の表面が割れてはがれてしまうという事態になる。

子供の頃に、こうした失敗を何度かやってしまい、父親にこっぴどく叱られた記憶がある。そういう父親自身も、同じ失敗をしたことがあるはずだから、お互い様ではあるけれど。そいうこともあって、実家の風呂釜は何度か交換されているはずだ。いまでは五右衛門風呂なんて珍しいだろうから、風呂釜もなかなか手に入らないだろう。

実家には給湯設備もあるのだけれど、風呂は薪で沸かすに限るという父親の意見で、いまだに1年365日、薪で風呂を沸かしている。父親によると、薪で沸かしたお湯は肌に当たる感触が柔らかくて、単純にお湯を張っただけの湯船とはまったく違うというのだが、正直なところ、自分にはそうした違いはよくわからない。

ということで、今回は実家の五右衛門風呂の話だけで終わってしまった。ここから先は、中学校の寮の風呂から、高校生のときの下宿の風呂の話へと展開していくつもりだったのだが、その話についてはまた次回に書いてみたい。とりあえず今回の結論としては、五右衛門風呂って意外にいいよ、ということだ。



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