13/06/23

弾丸登山の思い出(続き)

今年は空梅雨かと思っていたら、いきなりの雨続きだ。まあ、梅雨前線の影響による正しい梅雨というよりも、台風の影響による雨といったほうがよさそうだけれど、いずれにしても朝起きて雨が降っていると、いきなりやる気がなくなるから困り者だ。本当にそれは顕著で、窓の外の雨を見るだけで、なんとも憂鬱な気分になってくる。

元々、「仕事が大好きで毎日エネルギッシュに過ごしています!」みたいなタイプの人間ではないから、最初からやる気メーターの針はかなり低いところを指してはいるのだけれど、これが朝から雨となると、やる気メーターの針はピクリとも動かない。駅まで歩くうちにズボンのふくらはぎの部分がずぶ濡れになるのもイヤだし、クセ毛の髪の毛が湿気のせいで爆発するのも憂鬱だ。

朝からこういう気分だと、その日は一日中やる気が上がらないままになる。だから、梅雨は大嫌いだ。雨が必要な地域にだけ集中して降ってもらって、自分の行動範囲は常に晴天ということにならないものだろうか。いや、ならないよね、なるわけないよね。つまりは、そんなことを考えるくらいに雨が嫌いだということだ。

さて、前回は無事に富士山の頂上にたどり着いたところまで書いたので、今回はその続きを書いてみたい。

ようやくたどり着いた頂上はまだ真っ暗だったが、大勢の人が日の出の方角に向かって腰を下ろしてスタンバっている。自分たちもそれにならって、適当な場所に座ってご来光を待つことにした。一日の中で夜明け前が一番寒いというけれど、それはまったく本当で、日本で一番標高の高い場所で過ごす夜明け前というのは本当に寒かった。

やがて、東の空が白み始め、見事な朝日が雲の間から顔を見せた。その瞬間、周りから「おぉ〜」みたいな声が一斉にあがり、なんとも言えない雰囲気に包まれた。うまく説明できないが、その瞬間は何とも言えない一体感を感じることができた。周りはまったく見知らぬ人たちばかりだけれど、ご来光の瞬間だけは、皆が仲間のように感じられた。

さて、無事にご来光を拝むことができたので、後は一気に下山するだけだ。七合目までは、登りと同じルートを整然と下りていく。太陽がその高度を増すにつれて、気温もどんどんと上がってくる。山頂から少し下っただけで、あの寒さが嘘のように溶けてなくなっていくのがわかる。酸素の薄い高所だから、そうした変化にも敏感になっているのだろう。

七合目からは、下山ルート専用の道になる。俗にいう「砂走り」という道で、柔らかな砂地を直線的に一気に駆け降りることができる。もちろん、ゆっくり歩いて下りても問題ないけれど、急な下り坂だからどうしても駆け降りたくなる。慎重に歩いている母親は父親に任せて、自分たち若い者チームは、競うように砂埃を上げて一気に駆け降りた。

そのときにふと考えたのは、これだけの人たちが駆け降りると、それに伴って富士山の土砂も一緒に下へ下へと下がるわけだから、富士山はものすごい勢いで風化しているのではないかということだ。大きな山だから、これくらいの登山客では影響はないのだろうが、それにしたって、いつかは風化してしまうだろう。登るときには誰も石ころ一つ山頂に置いてくるわけでもないのに、下山するときには大量の土砂とともに下りてくるわけだから。

全員が五合目に着いたときにはまだ朝の8時か9時くらいだったと思うが、すっかり暑くなっていて、もう下界の気候とほとんど変わらない。しばらく休憩してから、クルマに乗り込んで岐路に着く。無事に登山を終えた高揚感で、みんな疲れているはずなのに、クルマの中では会話が弾んだ。それを聞きながら、なんとか無事に登れてよかったと思った。しかし、無事に終わったと思うのはまだ早かった。

高速のパーキングで昼食を摂ってしばらく走ったところで、突然、頭全体が靄にかかったような感覚に襲われた。あのときの感覚を文字にして表現するのは難しいが、頭全体が軽くしびれているというか、ぼんやりしているというか、とにかく普通の感じではない。このまま運転を続けていると、突然意識を失いそうでひどく危ない。

とにかく、一番近いパーキングでクルマを停めて、冷たいアイスを食べたり、眠気覚ましのガムを噛んだりしてみるが、頭全体にかかった靄は消えてくれない。しかたないので、クルマの運転は兄貴に任せて、助手席で休ませてもらうことにした。よく考えてみれば、出発前夜は一睡もできず、それから徹夜で登ったわけだから、もう丸二日以上も寝ていないことになる。

そんなこんなで、夕方の5時くらいに、なんとかアパートにたどり着いた。さすがにみんな疲れていたので、食事を作ったり、どこかに食べに行くというのも面倒で、近所のスーパーで適当に飲み物や食べ物を買って済ませた。普段は、自分が盛り上げ役となっていろいろと話題を振ったりするのだけれど、この日はとてもそんな元気はなく、食事を済ませるとすぐに横になった。

翌朝起きると、頭の靄は取れていた。身体にはまだ疲れが残っているような気がするが、頭がスッキリとしているので安心した。なにしろ初めての感覚だったから、これがこのまま続いたらどうしようと、少し不安だった。しかし、自分のせいで最後はイマイチ盛り上がらないままになってしまって、このときのことはいまだに家族に対して申し訳なく思っている。

ということで、ずいぶんと長くなってしまったが、これが弾丸登山の思い出だ。いまから考えると、やっぱり無謀な計画だったと思う。スケジュール的に余裕があれば、もっとゆっくりと登った方がいいに決まっている。でも、弾丸登山も悪くはないと思う。一気に登って一気に下りるというスタイルには、独特の達成感があるのは間違いない。あまり積極的にお勧めはしないが、それほど悪くはないとだけ書いておこう。



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