13/06/16

弾丸登山の思い出(続き)

ようやく梅雨らしくなってきた。鬱陶しい季節ではあるけれど、やっぱり梅雨は梅雨らしく、しっかりと雨が降るのが正しい姿だと思う。しかし、雨が降って困るのが、足元の跳ね返りだ。自分はどうも歩き方に問題があるらしく、雨の中を駅まで歩くと、必ずズボンのふくらはぎの部分が雨水の跳ね返りでぐっしょりと濡れてしまう。雨水跳ね返り選手権に出場すれば、おそらく入賞くらいはすると思う。それくらいにひどい。

他の人を見てみると、自分のように派手に濡れている人はほとんどいなくて、どの人のズボンもきれいなままだ。ネットで調べてみると、すり足のようにして歩くと効果的だ、みたいなことが書かれているけれど、これは自分も意識しているつもりだ。雨の日はなるべくやんちゃな感じは出さずに、おとなしめのキャラで歩いているにもかかわらず、ほとんど効果はない。いったいどうしたらいいのか、教えてエロい人。

さて、前回の覚書では、富士山頂を目指して土曜日の午前中に津田沼のボロアパートを出発したところまで書いたので、今回はその続きを書いてみたい。

富士山の登山ルートにはいくつかあって、最もポピュラーなルートは山梨県側から登る吉田ルートらしい。登山なんてまったくの素人だから、無難にこのルートにしようかと思ったのだが、その人気さゆえに、登山客でかなり混雑するらしい。できれば、自分たちのペースでゆっくり登りたいと考え、比較的マイナーなルートである須走口ルートから登ることにした。

このルートの難点は、登山の開始地点となる五合目の標高が低いことだ。吉田ルートと比べると、400メートルほどの差がある。この標高差こそ、多くの人が須走口ルートを敬遠する理由だろう。しかし、下山の際には砂地を直線的に駆け降りることができるので、登りで余分にかかった時間は、下りでほぼ相殺されるだろう。とにかく、登山客が少ないというのが大きな利点だ。

夕方に五合目に到着したが、クルマから降りるとかなり涼しい。下界では軽く30度を超えていたから、標高2000メートルというのはやっぱり高地なのだと感じる。富士登山のハイシーズンだから、マイナーなルートとはいえ、それなりに混雑していた。あまり広くない駐車場はあらかたクルマで埋まっている。

駐車場横の食堂で腹ごしらえをして、いよいよ頂上を目指して歩き出した。時間は、夕方の6時くらいだったと思う。ガイドブックには、須走口ルートの頂上までの所要時間は6〜7時間くらいと書いてあったから、その通りのペースで登れば日付が変わるくらいのタイミングで頂上に着く計算になるが、適当に休憩を取りながら、余裕を持ってご来光を迎えるためには、このくらいの時間がいいだろう。

まだ明るさの残る登山道を、下山してくる人たちと挨拶を交わしながら登っていく。7合目あたりまでは特に問題もなく、快調に登っていたのだが、7合目を過ぎたあたりで母親のペースが遅くなってきた。母親は丈夫な人で、毎日大変な農作業を軽々とこなしているから、体力的には問題ないだろうと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。

しばらくは、母親に合わせてゆっくりとしたペースで登っていたのだが、それでも辛いらしく、休憩を取る頻度がどんどん上がっていく。もしかしたら、高山病の症状が出ているのかもしれない。最初のうちは体力的に余裕があるから、調子に乗って知らず知らずのうちにオーバーペースになっていたのかもしれない。最初から母親のペースに合わせておけばよかったと後悔したが、もうどうにもならない。

あまり辛いようなら、このまま下山してもかまわないよと言うと、せっかくここまで来たのだから最後まで登るといってきかない。さすがに、このあたりの根性はさすがだと思う。自分だったら、とっくの昔に泣きながら下山していると思う。こういう母親から生まれてきたのに、どうして自分はこうも根性なしなのだろう。

8合目に着くと、母親は人混みから離れてどこかに行ってしまった。帰ってきてから聞くと、人目につかないところで吐いてきたらしい。やっぱり、高山病にかかっていたのだろう。しかし、吐いたことでスッキリして、元気が出てきたということなので、また頂上を目指して歩き始めた。無理をしていなければいいのだけれど、と思いながら、母親の後ろからゆっくりと登っていく。

8合目からは他の登山道と合流するため、登山道が一気に渋滞する。しかし、その方がペースが安定するため、かえって歩きやすい。後で聞いたところ、母親も8合目からは歩きやすかったと言っていた。これと似たようなことは、あの大震災のときにも経験していて、徒歩で自宅まで帰る間、自分と同じようなペースで歩いている人に合わせて歩くと歩きやすいということを発見した。

それはともかく、この夜中の登山で最も印象に残っているのは、あの星空だ。東京あたりでは、どんなにきれいに晴れた日でも、夜空には数えるほどしか星は見えないが、富士山の星空はとにかくすごい。何がすごいかと言えば、とにかく星が近いのだ。手を伸ばせば届きそうなくらい、星が近く感じる。きれいというよりも、ちょっと怖いくらいだ。

幸いなことに、母親も元気に登っていて、特に問題はなさそうだ。これなら、全員無事にご来光を拝むことができるだろう。それにしても寒い。もう気温は余裕で10度を切っているだろう。このくらいの気温になるということは、もちろん情報としては知っていたけれど、実際の下界は真夏だから、ついつい油断してなめた装備になってしまい、かなりの寒さを感じる。

寒さに震えながら周りを見渡してみると、頭から足先まですっぽりと防寒具で覆い、目だけを出しているような、ものすごい重装備の人もいる。なにもそこまでしなくてもと思うのだが、この寒さではこうした重装備が正解なのかもしれない。そんなことを考えているうちに、ついに頂上にたどり着いた。時間は、朝の3時半くらいだったと思う。

今回が完結篇のつもりだったが、なんだか長くなりそうなので、この続きはまた次回。



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