13/05/19

翻訳業界の現状についてダラダラと語ってみる

なんだかすごい勢いで株価が上がっているらしい。まったく実態を伴っていない株価上昇だと批判する声もあるようだが、とりあえずはいい傾向だと思う。実際には景気がよくなくても、日本中のみんなが景気がいいフリをすれば、少しはよくなっていくんじゃないだろうか。とりあえず、今年の流行語大賞は「アベノミクス」で決まりだと思う。

しかし、そうした浮かれムードとはまったく関係のない業界も少なくないわけで、自分が働いている翻訳業界もその一つだったりする。考えてみると、もうかれこれ10年も翻訳の仕事を続けていることになる。2003年に工作機械の製造メーカーに転職して、操作マニュアルや仕様書などの英訳業務を担当し、それからいまの会社に入って翻訳の仕事を続けている。

いまの会社に入って何年かは、多少景気のいい時期もあったりして、ほんの少しだけ給料が上がったこともあった。しかしそれも長くは続かず、リーマンショックを境にして、見事なまでに給料が右肩下がりになってきた。いまでは、「人間って、こんなに少ない給料でもなんとか生きていけるものなんだなあ」などと、妙なことに納得してしまうほどの薄給だ。

これはIT分野の翻訳についての話なので、他の分野ではどうなっているかわからないが、おそらく大差はないと思う。こういう悲惨な状況を生み出している一番の理由は、発注元からの相次ぐ単価引き下げだ。翻訳の単価は1ワードあたりで決まるが(英訳の場合は1文字あたり)、自分がいまの会社に入社してからというもの、この単価が下がることはあれど、上がったことなど一度もない。

発注元との定期的な契約更新のたびに、単価の引き下げをなかば強制的にお願いされ、こちらとしてはささやかな抵抗を見せながら、結局はそれに折れる形で単価の引き下げに同意する、という構図だ。こうした構図が延々と続いているわけだから、この業界の景気がよくなるはずがない。この先、発注元から単価の引き上げが提示される可能性はまずないだろう。

こうなると、利益を確保するためには、一層の業務合理化で対応するしかない。要は、時間あたりの処理量を増やすということだ。いろんな細かいことを工夫して、たとえばこれまでは1時間あたり300ワードのペースで翻訳していたものを、これからは330ワードに上げましょう、みたいな話だ。なんともセコい話で、書いていてイヤになるが、この業界はこうしたセコい部分で商売をしているわけだからしかたない。

こうした企業努力だけで単価の引き下げ分を吸収できればいいけれど、それでも利益を確保するのが難しい場合は、外注翻訳者の単価引き下げで対応することになる。外注さんとの契約も、基本的に1ワード単位で契約しているから、発注元からの単価引き下げ額に応じて、外注さんにも無理をお願いすることになる。

フリーランスで仕事をしている人にとっては、発注単価こそが自分の仕事を評価する絶対的な指標になるわけだから、これが下がってしまっては、仕事に対するモチベーションも下がってしまうのは当然だ。だから、翻訳会社としては、できれば発注単価は下げたくないというのが本音だ。単価を維持することで、外注翻訳者の品質を確保したいと考えるからだ。

しかし、背に腹は代えられないというのが正直なところだ。入ってくるお金が少なくなれば、それに応じて出ていくお金も少なくしないと、会社に残るのは利益ではなく借金だけということになってしまう。しかし、こうした構図が延々と続くというのも、正直なところ疲れる。いったい、いつまでこうしたギリギリな感じで仕事をしていけばいいのだろう。というか、こんな感じで、いつまで仕事を続けられるのだろう。

単価が下がった分を処理量を上げてカバーしようとすると、やっぱりどこかに無理が出て品質にも影響してしまう。それを理由に、発注元からはさらなる単価の引き下げを要求され、さらにモチベーションが低下して品質にも影響する、という負のスパイラルに業界全体が陥っているような気がする。こういう仕事のしかたには、絶対に無理がある。

いまは電気料金の値上げが話題になっているが、小さな工場の経営者がインタビューに応じて、「企業努力も限界で、これ以上電気料金が上がったら閉鎖せざるを得ない」みたいなことを言っているのをニュースで見るたびに、ものすごく同意してしまう。企業努力なんていっても、それにはやっぱり限界がある。企業努力だけではどうにもならないことだってあるのだ。

なんだか後ろ向きなことばかりになってしまった。本当はもっと前向きなことも書こうと思っていたのだけれど、実際には明るい材料なんてほとんどないから、どうしてもこんな感じになってしまう。まだまだ書きたいことはたくさんあるので、翻訳業界の話題につては、また改めて書いてみたい。おそらく、少しくらいは明るい材料もあると思う。



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