12/11/11

万里の長城の遭難事故について思うこと

最近は女子やシルバー世代の間で山登りがブームになっているらしく、いろんなメディアでそうした話題をよく見聞きする。それにつれて、山での遭難事故のニュースも増えてきているような気がする。夏山でも遭難事故が起きることに驚くが、今回の万里の長城での遭難事故にも驚いた。最初にこのニュースを聞いたときには、万里の長城と遭難事故とが頭の中でうまくつながらなかった。

今回の事故については、ツアーを企画した旅行会社に非難が集まっているようだが、たしかに7日間で100キロを踏破するというのは、少しだけ無茶なコース設定だとは思う。しかも、ツアー参加者は年齢の高い人ばかりだったようだし、さらにこの会社には、以前にも夏山で死亡事故を起こしているという前科がある。かなり危険な旅行会社だということは間違いないだろう。

しかし、最近の旅行会社はどこも経営難で、中小の会社だけでなく、大手にしても、かなり経営が苦しいということをよく聞く。格安ツアーを企画して客を集めなければ、どうにもならないような会社も少なくないらしい。こんなパック料金で、どうしたら利益が出せるのだろうと不思議に思ってしまうような格安ツアーもあるが、このあたりはいろいろと裏の仕組みがあるようだ。

それはともかく、今回の事故ではいったいだれに責任があるのかを考えてみた場合、いろいろと難しい問題が出てくる。まずは、ツアーを企画した旅行会社は当然責められるべきだろうが、すべての非難をこの会社だけに押し付けてしまうのもどうかという気がする。たしかにコース設定には無理があったかもしれないが、あの天候の急変まで予想しろというのは無理な話だ。

自己責任ということから考えれば、ツアー参加者たちにもまったく責任がなかったとも言い切れない。自分の体力もかえりみず、少しばかり無茶なコースに参加してしまったという責任はあるかもしれない。しかし、現地ではガイドも付いていたわけだし、旅行会社からは安全性についての説明を事前に受けていたはずだから、参加者たちを責めるのは酷だろう。

それでは、現地のガイドについてはどうだろうか。個人的には、このガイドの責任が一番大きいと思う。結局、現地の地理や気候について一番詳しく把握しているのはこのガイドなわけだから、ツアー全体の行動に責任を持つべきだと思う。しかし、このガイドにしても、決められた日程の中でスケジュールを消化していかなければならないというプレッシャーがあったのだろう。

この遭難事故のニュースを聞いて頭に浮かんだのは、新田次郎の「八甲田山死の彷徨」という小説だ。有名な作品だから、だれでもタイトルくらいは聞いたことがあるだろう。詳しいあらずじについては、タイトルでググってもらえばいくつも見つかるが、話の都合上、以下に簡単なあらすじを書いてみる。

ロシアとの開戦が不可避となった1902年、日本陸軍はロシアとの戦闘の予行演習として、八甲田山における雪中行軍を計画する。計画は、徳島大尉と神田大尉が率いる2つの隊に分かれて実行され、少数精鋭部隊を編制した徳島大尉は、一人の死者も出すことなく、見事に計画を遂行する。一方、200名を超す大部隊を率いる神田大尉は、事前の計画の甘さのせいもあり、行軍の最初から混乱をきたしてしまう。さらに、途中から実質的な指揮権を山田少佐に奪われてしまい、厳寒の八甲田山で絶望的な迷走に陥ってしまう。

自分がこの小説を読んだのは、以前にシステムエンジニアとして勤務していた会社のリーダー研修に参加したことがその理由だった。リーダー研修の教材としてこの小説を使うから、事前に読んでおいて、徳島大尉と神田大尉の取った行動について、リーダーの取るべき行動という視点から評価するようにという宿題が出されたというわけだ。

正直なところ、憂鬱な研修だなあと思いながら「八甲田山死の彷徨」を読んだのだが、激しく面白かった。一応フィクションということになっているが、実際に起こった事故を基にしているので、ノンフィクション度はかなり高いらしい。もしまだ読んでいないという人がいれば、ぜひ読んでみてください。

それはともかく、研修では、非情なまでのリーダーシップを発揮した徳島大尉こそが理想のリーダー像で、気まぐれな上官に逆らえず、部隊の指揮権を失ってしまった神田大尉はダメなリーダーということになってしまった。講師によると、リーダーというものは、常に強い意志を持って行動すべきで、間違った指示であれば、たとえそれが上司からの指示であっても、断固として自分の意志を貫かねばならないものらしい。

これを聞いたときには、さすがにそれはどうかと思った。普通の会社組織でそんなことをしてたら、じきに目を付けられることは間違いない。これが経営者だったら、徳島大尉のリーダー像でもいいのかもしれないが、サラリーマンとして考えた場合、神田大尉の行動は間違っていないと思う。悪いのは、すべて頭の悪い山田少佐なんだから。

ということで、なんてくだらない研修なんだろうと思いながら話を聞いていた。いっそのこと、「でも、自分たちみたいな下っ端がそんなことしたら、会社内ではとんでもないことになっちゃいますよね。だいたい、そんなカッコいいリーダーが出てくるのは、小説やドラマの中だけですよ」と言おうと思ったが、もちろんやめておいた。そんなことを言ったら、自分こそがカッコいいリーダーになってしまう。

なんだか話が大きく逸れてしまったが、今回の遭難事故に関して言えば、現地のガイドは、徳島大尉のごとく行動すべきだったと思う。日本の旅行会社との契約のことや、無理なスケジュールのことなど気にせず、ツアーメンバーの安全を最優先して、勇気ある判断を下すべきだった。結論として、今回の事故の責任の配分は、旅行会社が4に対して、現地ガイドが6といったところだと思う。




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