11/10/16

井上ひさしの短編集「四十一番の少年」の感想を語る

読書の秋ということで、前回に引き続き、今回も読書感想文を書いてみようと思う。

読書感想文といえば、小学生の頃に何度か書かされた記憶があるが、どうにも苦手だった。作文自体はわりと得意で、それほど嫌いでもなかったが、読書感想文だけは苦手だった。原稿用紙3枚にわたって長々とあらすじを書いて、最後に「面白かったです」みたいな感想を付けて提出していたような記憶がある。

正直なところ、大人になったいまでも、読書感想文はそれほど得意ではない。ひとりよがりで自己満足に浸るだけの文章ならば書けるけれど、その本を読んだことがない人に対しても、その作品の魅力を正確に伝えられるかということになると、途端に自信がなくなる。まあ、本を読んだ感想なんて人それぞれだから、自己満足でもいいことにしよう。

ということで、今回紹介するのは、井上ひさしの「四十一番の少年」という短編集だ。これは、掲示板でなぐも氏が書いていた作品だが、そのタイトルにおぼろげながら記憶があった。子供の頃に読んだような記憶があるのだが、どんな内容だったのかよく覚えていない。せっかくだから、読んでみようと思ったわけだ。

改めて読んでみたところ、子供の頃に読んだという記憶は間違いで、子供向けの本を、何年か前に図書館で読んだということを思い出した。それも、実際に読んだのは、タイトル作の「四十一番の少年」ではなく、「汚点(しみ)」という作品だったことも思い出した。なぐも氏の涙腺が決壊したというのは、この「汚点」という作品だ。

残念ながら、「汚点」を読んでも、自分の涙腺が決壊することはなかった。この本に収められた3編のうち、自分の泣きのツボに一番近いのは「あくる朝の蝉」という作品だが、この作品を読んでも涙を流すことはなかった。それなりにジーンとくるお話しではあるけれど、泣くほどではない。やっぱり、泣きのツボは人それぞれなんだなあと感じた。

この短編集は、子供の頃に孤児院に預けられた経験を持つ井上ひさしの自伝的要素の濃い作品らしく、いずれもキリスト教の孤児院に預けられた少年が主人公になっている。この短編集を読んで感じたのは、「やっぱり、宗教で人を救うのは難しいんだな」という、あまりにも当たり前のことだ。

「四十一番の少年」では、主人公の少年に対して陰湿ないじめを繰り返す年上の少年の悲劇が描かれ、「汚点」では、孤児院での待遇の違いに腹を立てる上級生が、主人公たち下級生に暴力を振るう様子が描かれ、「あくる朝の蝉」では、祖母を頼って孤児院から逃げ出した兄弟が描かれている。

いずれの作品でも、孤児院を運営している神父さんはみんないい人なのだ。そもそも、孤児院を運営するなんて、いい人でなければできることではない。それでも、孤児院の中で行われているいじめには気付かないし、子供たちが抱えている悩みにも気付かない。読んでいて、神父さん、もっとしっかりしなきゃ、と思ってしまうのだ。

キリスト教の孤児院だから、当然そうした宗教的なことも子供たちに教えているのだろう。ミサにも出させているのだろう。それでも、いじめや暴力が孤児院内で横行してしまう。キリスト教の教えなんて、何の役にも立たないということだ。余談だけれど、井上ひさしのDVも相当にひどいものだったらしい。

宗教が役に立つのは、衣食住が満たされた状態になってからのことだろう。食べるものもろくにない状態では、キリスト様にお祈りしたところで何の役にも立たない。暖かいものをお腹いっぱい食べ、暖かい服を着て、暖かい家に住んではじめて、心の余裕ができる。この状態であれば、さらなる心の豊かさを求めてお祈りを捧げることにも意味があると思う。

結局のところ、人間だって動物だから、まずは最低限の欲求を満たしてからでないと、心の余裕なんて持てないということだ。いくらキリスト様のありがたいお話しを聞かせたところで、住んでいる環境が劣悪であれば、何の意味もない。だから、貧しい人を救うのは宗教ではなくて、暖かい食べ物や清潔な衣服だと思う。

こんなことを書くと、クリスチャンの方からはお叱りを受けてしまいそうだが、無宗教の人間のたわごとだと思って許してやってください。そもそも、自分はまったく宗教には興味が持てない人間で、それは子供の頃から変わっていない。オカルト的なことには大いに興味があったのに、なぜか宗教となるとさっぱりなのだ。

小学生の頃、学校に外人さんが何人か訪ねてきて、紙芝居を見せてくれたことがあった。なにしろ田舎のことで、外人さんなんてそれまでに見たことがなかったから、わくわくしながら紙芝居を見た。しかし、その内容は聖書のあらましを紹介するもので、処刑されたキリストがその後に蘇るみたいな内容だったと思う。

いくら子供でも、一回死んだ人間が生き返るわけがないくらいのことはわかる。しかも、その外人さんたちは、「みなさんもキリスト様を信じれば、永遠の命が与えられます」みたいなことを言うではないか。この言葉を聞いて、完全に白けた。わざわざこんな田舎までやってきて、何をくだらないことを言っているんだと思った。

ただ、周りにはけっこう純粋な子もいて、なんだかその気になっているような雰囲気もあったから、その場では率直な感想を言うのは控えたが、心の中では「バカじゃないの」と思っていた。オカルトは大好物だったのに宗教はさっぱりというのは、おそらく宗教全体に漂う「押し付け感」みたいなものが好きになれなかったからだろう。

そんな感じで、子供の頃から宗教には興味がなかったわけだが、他人に迷惑さえかけなければ、宗教を信仰することには何の問題もないと思う。ただ、上にも書いたように、宗教では、衣食住に困っている人を救うことはできないということだ。それが、「四十一番の少年」を読んだ率直な感想だ。



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