11/04/24

自転車のタイヤがパンクしたまま70キロほど走ってみた

その悲劇は、先週の日曜日に起こった。少し肌寒いが、空はきれいに晴れている。風も穏やかだし、絶好のサイクリング日和だ。こうなると、いてもたってもいられない。パソコンに電源を入れ、やっつけ仕事で「今週の覚書」を片付けると、急いでジャージに着替えてヘルメットを被り、相棒のビアンキ君にまたがった。

最近は自転車ブームということもあって、都内の自転車交通量はかなり多い。別に競争する気はないのだけれど、後ろからサーッと抜かれるのはやっぱりあまり気持ちのいいものではないから、あえて交通量の少ない房総を走ることにする。房総の山の中なら、サイクリストの人口密度はまだまだ低い。

あまりの気持ちのよさに自分の貧脚のことも忘れ、つい調子に乗ってペダルを回してしまう。本当にこの時季のサイクリングは最高だ。相棒のビアンキ君と一緒なら、このままどこまでも行けそうな気持ちになる。帰りのことなんて気にせずに、このままどこまでもペダルを回し続けてみようか。

などと快調に走っていられたのも、最初の2時間くらいのことだった。上り坂でもないのになんだかペダルが重いなと思って視線を落としてみると、前輪のタイヤが少し沈んでいる。ああ、やっちまったか、と思ってバイクを歩道に乗り上げる。指でタイヤを押してみると、やっぱりパンクしている。

パンクはこれまでに何回も経験しているが、何回経験してもやっぱりヘコむ。作業が面倒だということもあるが、バイクから降りなければいけないというのがイヤなのだ。サイクリストというのは、可能な限り自転車に乗っていたいと願う人種で、信号待ちのような短い時間ですら、自転車を止めることを嫌う。だから、パンクなんて論外だ。

などと言ってもしかたないから、おもむろに作業に取り掛かる。ロードバイクのパンク修理というのは、基本的にはチューブを交換する作業になる。ママチャリのように、パンクした箇所にゴムパッチを当てるなんて面倒なことはしない。パッチを当てると乗り味が変わってしまうという理由もあるが、基本的にサイクリストはせっかちだということだ。

タイヤを外して調べてみると、細いワイヤー状の針金が一本突き刺さっている。運が悪いと、こういう細い針金でもタイヤを貫通してしまうものらしい。いつも携帯しているピンセットで抜いてから、新しいチューブに交換してタイヤをリムに嵌めていく。しかし、この作業がなかなか大変だ。

自分がヘタクソなのか、あるいはホイールとタイヤの相性が悪いのか、タイヤが硬くてなかなかリムに収まってくれない。タイヤレバーを使って押し込めば楽に入ることはわかっているのだが、下手をするとチューブに傷がついてしまうので、この作業だけは道具に頼らずにやらなければいけない。

悪戦苦闘の末、なんとか無事に作業を終えてまた走り出した。思わぬところで時間をロスしてしまったので、コンビニですばやく昼飯を済ませて時間を稼ぎ、また急いで走り出す。別に距離のノルマがあるわけではないのだが、せっかちな自分は、バイクにまたがっていない時間がもったいなくてしかたない。

しかし、走り出したのも束の間、ふと前輪が気になって視線を落とすと、またタイヤが沈んでいるではないか。またかよと、心の中で大きく舌打ちをしながらバイクを止める。前輪のタイヤを外して確認すると、さっきワイヤーが刺さっていた場所から10センチくらいのところに、同じような細いワイヤーが刺さっている。

どうやら、原因はさっきのパンクと同じらしい。最後まで念入りにチェックしなかったから見逃してしまったのだろう。もちろん自分が悪いのだけれど、なんだかこういうときは無性に腹が立つ。何かに八つ当たりしたい気分だ。しかし、そんなことをしていても時間がもったいないだけだから、さっきと同じ作業を黙々と繰り返すしかない。

ただし、今回はどう頑張ってもタイヤがリムに収まってくれない。さっきの作業でかなり無理をしたから、もう握力が残っていないのだ。しかたがないから、最後の手段としてタイヤレバーを使ってタイヤを押し込んだ。この段階で何度か痛い目を見ているから、慎重に作業した。なにしろ、予備のチューブはこれで最後だ。絶対に失敗は許されない。

空気を入れて恐る恐る走り出してみる。とりあえず大丈夫そうだ。しかし、予備のチューブがもうないから、今日はこれで引き返したほうがいいだろう。まだまだ日は高いからもったいない気がするが、ゴムパッチなどのパンク修理キットは持っていないから、万が一もう一度パンクしたらお手上げだ。

そう考えて、ユーターンした直後のことだった。信号待ちで止まって念のために前輪のタイヤを指で押してみると、明らかにさっきよりも空気が抜けている。あれほど慎重に作業したのに、どうやらタイヤレバーでチューブに穴を開けてしまったらしい。絶望的な気持ちになりながら、もう一度タイヤを外して確認してみる。

案の定、タイヤに異常はないのにチューブにだけ穴が開いている。ああ、やっぱりやってしまった。自分はなんて不器用な人間なんだろう。もう万事休すだ。いまの自分には、このパンクを修理する術はない。サイクルメーターの距離表示を見ると、68キロになっている。家に帰るためには、この距離をどうにかしなければいけないということだ。

いくらなんでも、この距離を歩いて帰るのは不可能だ。とすれば、とにかくこのバイクをなんとか走れる状態にしなければいけないということになる。自転車屋が近くにあればすぐに問題は解決するのだが、あいにく周りは田んぼと畑がのどかに広がっているだけで、自転車屋など影も形もない。

しかたがないから、ロードバイクに乗った人が通るのを待つことにした。ロードバイクでロングライドをする人ならば、間違いなく予備のチューブを2本くらいは用意しているだろうから、そのうちの1本を売ってもらおうと考えたのだ。サイクリストならば、こうした窮地を一度や二度は経験しているだろうから、きっと助けてくれるに違いない。

しかし、いくら待っても誰も通らない。サイクリストの人口密度が低い房総を今日のコースに選んだことが、とんだところで裏目に出たようだ。しかたないので、パンクしたタイヤに空気を入れて恐る恐る走り出してみた。とりあえず交通量の多い国道まで走って、そこで自転車屋なりサイクリストなりを探す作戦だ。

生まれて初めてパンクしたまま走ってみたのだが、意外と走れることに驚いた。もちろんパンクの程度によっても違うのだろうが、チューブに小さな穴が開いた程度のパンクならば、10キロくらいは走れるのではないだろうか。もちろんこれは非常手段で、パンクしたらすぐに修理したほうがいいのは間違いない。

そんな感じで国道に出て自転車屋を探すのだが、一向に見つからない。普段街を歩いているときにはあれほどたくさんある自転車屋なのに、肝心なときにまったく見つからない。それはサイクリストにしても同じで、信号待ちになるたびに後ろを振り返ってロードバイクの姿を探すのだが、これも不思議なくらいに見つからない。

そうこうするうちに前輪の空気が完全に抜けてしまった。ポンピングしてもまったく空気が入らない。おそらくチューブが完全に逝ってしまったのだろう。この状態で走ると、バルブの部分が地面と接するたびにゴツンという衝撃がハンドルに伝わってくる。当然、ペダルも重くなってくる。タイヤにもかなりの影響があるだろう。

しかし、一番心配なのがホイールだ。タイヤはそろそろ交換しなければと思っていたので、これでオシャカになっても惜しくはないが、ホイールはそういうわけにはいかない。これが原因でホイールがゆがんだりしたらと思うと、走っていても気が気でない。しかし、いまはとにかく走るしかない。

そうこうするうちに、タイヤからバリバリというものすごい音が出るようになってきた。ほとんどクッションのない状態で走っているわけだから、ホイールにはかなりの負担がかかっているだろう。路面からの衝撃で自分の手や腕もかなり疲れているが、自分の身体よりもホイールに申し訳ないという気持ちのほうが強い。

結局、最後まで自転車屋もサイクリストも見つからないまま、70キロ近くを走りとおして家に着いた。ゆがみが出ていないか、ホイールを回して確認したところ、どうやら大丈夫なようだ。タイヤは案の定悲惨な状態になっているが、ホイールさえ大丈夫ならば問題ない。ようやく安心して、大きな息を吐き出した。

ということで、パンクしたままでも自転車には乗れるという結論に達した。もちろん、これは緊急避難的な方法だから、よい子のみんなは真似しちゃダメだぞ。しかし、そんなバカなことをするのは自分くらいらしく、インターネッツで検索しても、「パンクしたままいっぱい走っちゃいました。てへっ」みたいな人はいなかった。

ということは、「パンクしたまま自転車に乗ってみた」というジャンルでは、もしかしたら自分が日本国内では第一人者ということになるのかもしれない。そうだとすれば、なんだか嬉しい。何事も、人より秀でているというのはいいことだ。まあ、パンクしたまま走るということが秀でていることなのかどうかは知らないが。



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