11/02/20

いい美容院とよくない美容院

久しぶりに髪の毛を切った。この前切ったのはいつだったかと調べてみると、去年の9/18のことだった。ということは、5ヶ月も伸ばしっぱなしだったことになる。自分の場合、平均すると3ヶ月に1回の割合で髪を切っているのだが、この頻度は季節によって変動する。

空気が乾燥している冬の間は、今回のように伸ばしっぱなしにすることが多い。逆に、湿気の多い夏の間は、わりと頻繁に髪を切る。これは、自分の髪の毛が癖毛だからだ。空気が乾燥しているこの時季は、湿度が低いおかげで髪も落ち着いているのだが、湿度の高い夏になるととたんに髪が広がるので、こまめに切らざるを得ない。

髪を切るときには床屋に行くか美容院に行くかという選択になるが、自分は高校生の頃から美容院派だ。床屋の場合、最後のセットの段階でバカみたいにカッチリと仕上げられるのがどうしても好きになれない。油断していると、何も訊かれずにキッチリと七三にセットされることもあるから困る。

最初から、「セットはしなくてもいいです」と言えばいいのだが、それもなんだか失礼な気がしてなかなか言えない。そんなこんなでここ何十年も床屋には行っていないのだが、もしかしたらいまの床屋は昔とは変わっているのかもしれない。カッチリ仕上げは嫌いだが顔剃りは気持ちがいいので、機会があったらまた行ってみたい。

ということで、やむなく美容院に通っているわけだ。正直なところ、44歳にもなって美容院になど行きたくはないのだが、ほかに選択肢がないからしかたない。美容院にも大きく分けて2つのタイプがあって、ひとつは「○○美容室」みたいな、クルクルパーマのおばちゃんたちが集まりそうな老舗の雰囲気を醸し出している美容院だ。

もうひとつは、何と読むのかよくわからないような横文字の名前が付いた、いかにもオシャレそうな美容院だ。どちらのタイプの店にも行きづらいのだが、老舗の店に行ってクルクルにされても困るので、なるべくオシャレ度の低そうな横文字系のお店を選ぶことになる。

ただ、こうしたオシャレな美容院にはいまだにトラウマがある。あれは、上京して初めて都内の美容院に行ったときのことだ。思い切りオシャレな店に勇気を出して入って「カットお願いします」と言ったまではよかったが、「シャンプーは?」と訊かれて、「あ、昨日してきました」と答えて受付のお姉さんに失笑されてしまった。

そんな苦い思い出もあるせいで、美容院に行くときはいつも億劫でしかたない。まるで歯医者を怖がる子供みたいに、美容院に行くのをなるべく先延ばしにするという情けなさだ。さらに、最近になって行きつけの美容院が閉店したせいもあって、余計に気が重い。新しい店を探すというのは、結構気が滅入る作業だ。

その閉店した店というのは、自分としてはかなりお気に入りの店だった。何が素晴らしいかと言えば、カット中に余計な世間話が一切ないというところだ。普通の店では、接客サービスのつもりなのか、やたらと話しかけてくることが多いが、その店では、「今日はどんな感じにしますか」という質問に答えるだけでよかった。

ベタベタとした接客が大嫌いな自分にとっては、これは本当にありがたかった。何しろ自分は、行きつけのラーメン屋で「毎度ありがとうございます」と言われるだけでとたんに居心地が悪くなってしまうような人間なのだ。こちらの顔を見知っていたとしても、放っておいてほしい。「毎度」なんて言わないでほしい。

しかし、その美容院はいつも空いていた。一番混むであろう週末の午後に行っても、自分のほかにいつも客は1〜2人くらいしかいなかった。駅から近いビルの一階だから、場所も悪くない。なのにまったく繁盛していないのだ。予約なしで行ってもすぐに切ってもらえるというのは便利だったが、いつかはつぶれそうだなという予感はしていた。

その予感通りにつぶれてしまったので、しかたなくすぐ隣の美容院に行ったのだが、ここはかなり繁盛しているらしく、予約なしで行ったらかなりの時間を待たされた。店内の様子をそれとなく観察していると、なんだか賑やかだ。イケメンの店長さんをはじめとする男性スタッフたちが、常連客の奥様たちと途切れることなく世間話をしている。

その様子を見ながら、自分もイケメンの若い男子スタッフの世間話に付き合わなければいけないのかと思い、さらに気が重くなった。しかし幸いなことに、まだ入店間もないと思われる緊張気味の若い女子スタッフが付いてくれたおかげで、辛い世間話をすることなく終わることができた。

どちらの店も、サービス、料金、技術、立地といったものに大きな違いはないにもかかわらず、これだけ客の入りが違うというのは、接客態度の違いによるところが大きいのだと思う。自分のように放置プレーを望む人間は少数派で、大多数の人間は、ベタベタしたウェットなサービスのほうを好むということだろう。

しかし、美容院というのはなんだかホストクラブに似ていなくもないと感じる。一時期、「カリスマ美容師」なるものが流行ったが、あの連中にしてもなんだかホストみたいだった。きっと、美容院に通う女子たちには、イケメンがいるお店で会話を楽しみたい、という気持ちがあるのだろう。

自分のようなオヤジにはよく理解できない感情だ。しかし、この感情をオヤジの気持ちに置き換えてみると、どうせ飲みに行くなら、若い女子のいるキャバクラでバカっぽい会話を楽しみたい、みたいな感じになるのだろうか。なるほど、それなら理解できなくもない。というか、よく理解できる。

そんなキャバクラの話はともかく、自分にとってのいい美容院というのは、余計な世間話などせず、ただ黙々と作業してくれるような店だ。椅子に座るなり、どうでもいい世間話を始めるような店には行きたくない。そういう店は、いくら繁盛していても自分にとってはよくない美容院なのだ。しかし、そういう店がほとんどだから困る。



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