そこそこお勧め作品 




 面白さの評価では を付けることが圧倒的に多いのですが、同じ2つ星でも限りなく1つ星に近いものもあれば、限りなく3つ星に近いものもあります。そんな限りなく3つ星に近い2つ星の作品まですべて でまとめてしまうのは忍びないので、このページで紹介してみることにしました。




AFTER THE BANQUET  by Yukio Mishima  Translated by Donald Keene 16/12/11 更新

 読み易さ 
 面白さ   

大物政治家などが利用する高級料亭の「雪後庵」を経営する福沢かづは、毎日充実した生活を送っていた。そんなある日のこと、元大臣の野口雄賢と知り合い、その誠実で無骨な人柄に惹かれ、ついに結婚することになる。結婚してからも雪後庵の経営を続け、週末だけ野口の自宅に戻るという「通い婚」をしていたかづだったが、野口が革新党から都知事選に立候補することになり、革新党の選挙対策を担当する山崎とともに精力的に選挙運動を展開していく。これまでに蓄えた貯金をつぎ込み、それも足りなくなると雪後庵を抵当に入れて選挙資金を確保するかづだったが、そうしたやり方を嫌う野口に叱責されてしまう。ライバルである保守党は、その圧倒的な資金力にものをいわせて強引な選挙運動を展開し、最初は野口優勢かと見られていた情勢が次第に危うくなっていく。

 プライバシー裁判ばかりが有名になってしまった感じがする「宴のあと」だけれど、純粋に一つの作品として読んでみると、非常に面白い小説であることがわかった。バイタリティにあふれた情熱的なかづと、融通の利かない謹厳実直な野口との対比が鮮やかに描かれていて、奥行きのあるストーリーになっている。政治家のくせに、あまりにも潔癖すぎる野口よりも、かづのような女性の方がずっと政治家に向いているのにと読者に思わせるところがうまい。かづのモデルになった実際の女性がどのような人間だったのかは知る由もないけれど、こういう女性に愛されたらいろいろな意味で大変だろうなと思ってしまう。



THE SOUND OF WAVES  by Yukio Mishima  Translated by Meredith Weatherby 16/11/20 更新

 読み易さ 
 面白さ   

物語の舞台は、伊勢湾に浮かぶ三重県の歌島。島の高校を卒業したばかりの新治は、漁師として毎日のように海に出ていた。そんなある日のこと、浜で見知らぬ少女と出会い、好意を抱くようになる。初江と名乗るその少女は、島一番の実力者である宮田照吉の娘で、幼い頃に養女に出されていたのを引き取られ、島に戻ってきたのだという。やがて人目を忍んで二人きりで会うようになるが、その現場を目撃されて島中の噂になってしまう。それを耳にした照吉は激怒し、二人を引き離そうとする。秘密の手段で毎日やり取りする手紙だけが二人の心をつないでいたが、照吉の所有する貨物船に見習い船員として乗らないかという話が新治のもとに来る。その船には、初江を自分の妻にしようとたくらむ川本安夫も乗り組むという。ライバルである二人を同じ船に乗せようとする照吉の意図は何なのか。

 三島由紀夫の代表作の一つである「潮騒」だが、三島らしからぬ明るい雰囲気の小説で、非常に面白かった。小さな漁村で生きる人たちのたくましさや、島ならではの閉塞感などもリアルに描かれていて、歌島のさまざまな情景が浮かんでくるようだ。ストーリー展開も、若い二人が出会って恋に落ち、お互いの気持ちを確認し合うが、やがてライバルが登場し、父親に交際を反対され、島中の噂になりながら、それらの試練を耐えて最後にはハッピーエンドという、恋愛小説の王道を行くような展開で、安心して読むことができる。難解な三島や妖しい三島もいいけれど、明るい三島というのもかなりいい。



THE HUSBAND  by Dean Koontz 16/03/21 更新

 読み易さ 
 面白さ   

主人公は、友人と二人で造園業を営む27歳のミッチ。愛するホリーと結婚して幸せな生活を送るミッチだったが、ある日、作業中のミッチの携帯電話が鳴り、「ホリーを誘拐した。解放してほしければ200万ドルを用意しろ」と脅迫される。突然の電話に驚くミッチに対し、警察に知らせたらホリーの命はないと警告する誘拐犯。単なる脅しではないことを証明するため、ミッチの目の前を歩いている男性がいきなり銃殺されてしまう。なんとしてもホリーを無事に救出したいミッチは、だれの力も借りず、たった一人で凶悪な犯罪組織に挑んでいく。

 かなり面白かった。いきなりホリーが誘拐される場面から始まり、その後は息もつかせぬ緊迫したシーンが連続する。この作品は、ホラーでもミステリーでもなく、純粋なサスペンス小説で、難しいことを考えることなく、ストーリーに入り込んで一気に読むことができる。とにかく、最初から最後までミッチに不利な状況ばかりが続き、ずっとハラハラしながら読み進めることになる。
 しかし、それまでのストーリー展開のわりに、ラストが少しばかりあっけない。それに、後日談があっさりしすぎているのも気になる。これだけ多くの人間が死んでいて、ミッチにとって不利な証拠ばかりが残っているわけだから、その後どうやってミッチの容疑が晴れたのかというあたりをきちんと書いてほしかった。



HUNGER  by Knut Hamsun  Translated by Sverre Lyngstad  14/07/06 更新

 読み易さ 
 面白さ   

主人公の男は、職にも就けず、その日の食べ物にも苦労するという極貧生活を送っていた。記事を書いて新聞社に持ちこみ、その記事が採用されればいくらかの金がもらえたが、その金も長くは続かず、やがて飢えに苦しむという繰り返しだった。しかし、そんな極貧生活を送りながらも、精神の高潔さだけは保ち続けようと努力する。

 一説によると、これは作者の自伝的な作品らしいが、たしかに、極貧生活を経験した本人でなければ書けないようなリアリティがある。それにしても、この主人公の情緒不安定さには笑った。せっかく手にした金を見ず知らずの人にあげたり、かと思えばいきなり逆切れしたりで、何がしたいのかわけがわからない。何日も食べていないのにいきなりステーキを食べたため、胃が受け付けずに嘔吐しまっくたり、飢えをしのぐために牛骨を手に入れ、骨に付いた生肉を食べようとして、あまりの生臭さにやっぱり嘔吐しまくったりと、とにかくやることが無茶苦茶で面白い。それで、精神的な高潔さは保たれているのかといえばまったくそんなことはなく、思わず卑屈になったり、かと思えば傲慢な態度をとったりで、結局はグダグダになってしまう。読みながら、もうちょっとうまくやれよと思うのだけれど、そういう不器用さというか無茶苦茶さが非常に面白い。



KISS KISS  by Roald Dahl 14/01/05 更新

 読み易さ 
 面白さ   

11の短編を収めた短編集。

 笑える作品あり、背筋が寒くなる作品ありと、非常にバラティに富んだ短編集。どの作品も面白いが、ベストを選ぶとしたら「Parson's Pleasure」と「Mrs. Bixby and the Colonel's Coat」になりそうだ。どちらもストーリーの展開が抜群にうまくて、本当に一気に読めた。どちらの作品も、あと一歩のところで主人公の計画が成功しそうになるけれど、最後の最後でどんでん返しが待っていて、最後まで楽しく読むことができる。「Pig」はまったく予想外のラストで、こういう無慈悲なブラックさが、良くも悪くもダールらしいところだと思う。とにかく、非常に粒ぞろいの短編集で面白い。



THE LONG WALK   by Slavomir Rawicz  13/02/03 更新

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 面白さ   

ポーランド人のスラヴォミールは、1940年に無実の罪でソビエト軍に逮捕されてしまう。刑務所での過酷な取り調べと、理不尽な裁判により、懲役20年の判決を受けたスラヴォミールは、他の受刑者たちとともにシベリアの収容所に送られる。過酷な環境で懲役生活を送るスラヴォミールは、収容所の責任者であるソビエト将校からラジオの修理を依頼されたことがきっかけで、将校の夫人と知り合う。幾度か夫人と会話を重ねていくうちに、収容所から脱走してはどうかと夫人が切り出す。スラヴォミールは、6人の仲間を集め、夫人の協力を得て、真冬のシベリアへと脱出する。脱走の途中で、集団農場から逃げ出した少女に出会った一行は、総勢8名となり、はるか南のインドを目指して過酷なロングウォークを続ける。

  実際の体験を基にしたノンフィクションで、映画化もされているらしい。実は、何年か前に翻訳本を読んだことがあって、そのときはあまり面白いとは思わなかった。これは、訳文がヘタクソだったことが原因で、改めてペーパーバックを読んでみたところ、激しく面白かった。
 いや、面白いと言ったら失礼かもしれない。とにかく、あまりにも過酷な道のりで、これが本当に事実なのか、にわかには信じがたいくらいだ。真夏のゴビ砂漠横断や真冬のヒマラヤ踏破のくだりは、人間の精神力とはこれほどまでにすごいものかと改めて感じた。集団農場から脱走してきた少女がゴビ砂漠で力尽きる場面は、涙なしには読めない。
 それ以上に感動したのは、モンゴルやチベットの人たちの優しさだ。ホームレス並みの悲惨な外見をした一行を、嫌な顔ひとつせずに暖かくもてなすなんて、なかなかできるものではない。こうした人情がなかったら、彼らはインドにたどり着くことはできなかっただろう。貧弱な装備でシベリアからインドまで歩きとおした力強さと、悲惨な外見をした初対面の外人を暖かく迎え入れる優しさに触れて、まだまだ人間も捨てたもんじゃないなと感じた。



BALL OF FAT  by Guy De Maupassant  12/02/12更新

 読み易さ 
 面白さ   

物語の舞台は、普仏戦争に敗れたフランス。プロシア軍による占領を嫌い、フランス軍が駐留する街まで行こうと、10人の男女が1台の馬車に乗り合わせる。ブルジョア、貴族、修道女のほかに、「脂肪の塊」とあだ名される売春婦を乗せた馬車は、旅の途中でプロシア軍に足止めを食らってしまう。足止めの理由がわからない一行は憤慨するが、プロシア軍の将校が売春婦を買おうとして断られたことがその理由だと知る。先を急ぐ一行は、この売春婦をなんとか説得しようとする。

 これはモーパッサンが30歳のときに発表したもので、作家としての地位を不動のものにした作品らしい。「女の一生」と並ぶモーパッサンの代表作ということだが、なるほど、面白い。馬車の中では娼婦から親切を受けたのに、自分たちの都合だけで手のひらを返したように冷たくするというラストは、人間のわがままさがよく描かれている。あまりの身勝手さに、読み終わったときには少しばかり怒りに震えたが、自分だって同じようなことを気付かないうちにしているのかもしれない。そんな自分には、この人たちのことを批判する資格はないのだろう。
 それにしても、この「脂肪の塊」というタイトルはひどいと思う。このタイトルからは、もっとおどろおどろしい内容を想像していたのだが、実際に読んでみたらまったく違った。あまりにも直訳すぎて、作品の内容も雰囲気もまったく伝わってこないタイトルというのは問題があると思う。読み終わったいまでも、このタイトルには激しい違和感が残る。このタイトルを訳した人には、なぜこんな訳にしたのか小一時間問い詰めたい気分だ。(もっと詳しい感想はこちら



A WOMAN'S LIFE   by Guy De Maupassant  12/01/07 更新

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 面白さ   

修道院での生活を終えて実家に帰ってきた17歳のジャンヌは、これからの新しい生活に胸をふくらませていた。貴族の両親とともに別荘に移り住んだジャンヌは、同じ貴族のジュリアンと知り合い、すぐに結婚してしまう。最初こそ優しかったジュリアンだったが、女中のロザリーに手を出して子供を産ませたり、近所の伯爵夫人と浮気をしたりで、ジャンヌの愛情はすべて一人息子のポールへと注がれていく。ジャンヌに溺愛されて育ったポールは、親元を離れて進学するが、放蕩の限りを尽くしてあちこちに借金を重ね、ついには娼婦の恋人と夜逃げ同然に姿を消してしまう。すべてに絶望したジャンヌに救いの手を差し伸べたのは、ジュリアンとの浮気が原因で屋敷を追い出された女中のロザリーだった。

 この作品は、モーパッサンの長編小説の中でおそらく最も有名な作品だと思うが、その評判通りの面白さだった。夢見る少女のジャンヌが、夫に浮気され、家族の死を経験し、放蕩息子の借金整理に巻き込まれるという、まさに悲劇の連続が描かれているのだが、非常によくできたストーリー展開で、一気に読むことができた。たしかにジュリアンは、かわいそうと言えばかわいそうなのだが、あまりにも自分の思い描く夢だけを追いかけて、現実を直視できていないからこんなことになるのだという気もしなくもない。まあ、浮気者の男と結婚したのが運の尽きではあるけれど、自分の愛情の対象を常にだれかに求めずにはいられないジャンヌの弱さも、一連の悲劇の原因の一つにはなっているのだろうと思う。
 それに比べて、女中のロザリーのなんとたくましいことか。この作品のラストを締めるロザリーの「人生って、思うほど良くもないけど悪くもない」というセリフが素晴らしい。



HOW STARBUCKS SAVED MY LIFE   by Michael Gates Gill  11/07/30 更新

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 面白さ   

主人公のマイクは、大学を卒業して入社した大手広告会社で順調に出世して重役にまで登りつめるが、53歳のときに自分が育てた部下から突然解雇を言い渡される。その後は自分のコンサルタント会社を立ち上げるが、次第に仕事が減っていき、さらに不倫が原因で妻とも離婚し、来月の家賃にさえ困るという苦境に陥る。そんなとき、たまたま入ったスターバックスで女性店長のクリスタルに出会ったことから、マイクの人生が大きく変わっていく。63歳にして一から人生をやり直した自分の体験を綴ったノンフィクション。

 大手広告会社の重役としてエリート人生の頂点を極めた作者が、解雇をきっかけに転落し、還暦を過ぎてから人生を一からやり直すというお話で、なかなか面白かった。ケネディ大統領夫人やらエリザベス女王やらヘミングウェイやら、超ビッグネームが次々と出てきて、広告会社というのはやっぱり仕事内容も華やかだということがわかる。そんな華やかな世界から、一転してコーヒーショップの店員としてトイレ掃除から始めたわけだから、さぞかし大変だったことだろう。しかし、そうした辛さは表に出さず、目の前の仕事を懸命にこなしていく姿が素敵だ。
 人間というものは、その気になれば年齢がいくつになっても変われるものだということを知った。自分の場合も、こんなに素直な気持ちになれるだろうかと考えたが、おそらく無理だろう。でも、こういう人生もあるのだということを知っただけでも、なんだか救われたような気がする。



THE GRAPES OF WRATH by John Steinbeck 11/07/16更新

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物語の舞台は、不況にあえぐ1930年代のアメリカ・オクラホマ州。殺人の罪で4年間服役したトム・ジョードは、久しぶりに帰った自分の家が空き家になっているのを見て驚く。たまたま居合わせた友人に話を聞くと、このあたり一帯の小作農たちは、大地主に土地を追われて散り散りになってしまったという。伯父のジョンを訪ねたトムは、いまにもカリフォルニアに出発しようとしている家族と再会する。途中で知り合った元宣教師のケイシーも含め、総勢13人がおんぼろトラックに乗り込んでカリフォルニアを目指すが、期待に胸を膨らませてたどり着いたカリフォルニアは、ジョード一家の期待を大きく裏切る場所だった。

 スタインベック氏の代表作である「怒りの葡萄」。以前から読みたいと思いながら、その圧倒的なボリュームになかなか手が出せないでいたが、いざ読んで見ると期待にたがわず面白かった。さしずめ、アメリカ版の「蟹工船」といったところだろうか。実際に、時代的にも「蟹工船」とほぼ同じだし、スタインベックが1902年生まれ、小林多喜二が1903年生まれと、共通する部分も多い。
 しかし、「蟹工船」では、資本家が悪で労働者が善という構図の下に労働者が団結するまでを描いているのに対し、この作品ではジョード一家の絆を中心に描かれているところが大きな違いだろう。もちろん、資本家の横暴ぶりも描かれてはいるのだが、それよりも、どんな過酷な状況でも誇りを失わずに生きていく人間の強さを描きたかったのだろうと思う。そういう意味で、この作品の中で一番強い人間は母親だ。どんな状況でも家族をまとめて前に進もうとする強さはすごい。しかし、この後のジョード一家に、はたして幸せは訪れたのだろうか。(もっと詳しい感想はこちら



PRIDE AND PREJUDICE by Jane Austen 11/02/26更新

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 面白さ   
  
5人姉妹の次女のエリザベスは、娘たちの結婚に躍起になる母親と、自分の趣味にふけるマイペースの父親とともに、イングランドの田舎町で静かな生活を送っていた。そんなある日のこと、近所に資産家の独身男性ビングリーが引っ越してくる。母親は早速娘たちをビングリーに引き合わせるが、ビングリーは従順で美しい長女のジェーンとたちまち親しくなる。エリザベスは、ビングリーの友人であるダーシーと知り合うが、ダーシーの高慢で横柄な態度に激しい反感を抱く。そんなエリザベスの前に、遠縁の親戚にあたるコリンズという青年牧師が現れる。コリンズが結婚相手を探していることを知った母親は、なんとかコリンズとエリザベスを結婚させようとするが、エリザベスはコリンズのプロポーズをきっぱりと断ってしまう。ダーシーは、そんなエリザベスに対して密かな恋心を抱くようになる。

 非常に面白かった。「エマ」を読んだときにも感じたことだが、オースティン氏はとにかくキャラクター設定が巧みだ。主人公のエリザベスは勝気、姉のジェーンはお人好し、ジェーンの恋人のビングリーは陽気な社交家、ビングリーの友人のダーシーは無愛想で高慢という、なんとも類型的だがわかりやすい設定で、読んでいて楽しい。ストーリー展開にしても、特に何が起きるわけでもないのに、つい先へ先へとページをめくってしまう面白さがある。あのサマセット・モームも「世界の十大小説」にこの作品を挙げ、「大した事件が起こるわけでもないのに、ページをめくる手が止まらない」と絶賛しているが、まさにその通りだ。
 結局のところ、面白い小説とはこういう作品のことを言うのだろう。高尚で崇高なテーマなど特になくても、読んでいるときは夢中になれて、読み終わったあとに何かが残るような、そんな作品が本当に面白い小説なのだろう。そういう意味で、この作品は非常に優れた小説だと思う。もっと詳しい感想はこちら



ONE FLEW OVER THE CUCKOO'S NEST   by Ken Kesey  10/02/21 更新

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 面白さ   

物語の舞台は、1960年代のアメリカのとある精神病院。この病院では、婦長のラチェッドが絶対的な権力を握り、患者たちは婦長の顔色をうかがいながら日々を過ごしていた。そんなある日のこと、刑務所の強制労働から逃れるために精神病を装ったマクマーフィーという男が入院してくる。管理されることを嫌うマクマーフィーは、ことあるごとに婦長と対立し、病院内の待遇改善を要求していく。最初は及び腰だった患者たちも次第にマクマーフィーに感化され、自分の意見を主張するようになる。病院内のヒーローとして患者たちから慕われるマクマーフィーだったが、深夜に女友達を連れ込んで大騒ぎをしたことが原因で、悲劇的な結末を迎えることになる。

 アカデミー賞を受賞した「カッコーの巣の上で」の原作。
 なんだかいろんなことを考えさせられる作品だが、最初から最後までとにかく悲しかった。ラスト以外は悲しい要素などほとんどないのに、傍若無人にふるまうマクマーフィーがなぜか悲しくてしかたなかった。自分勝手に行動しているように見えるが、患者たちを勇気付けるためにわざと自分を犠牲にしているように感じたからかもしれない。
 ラストは、かなり衝撃的で強く心に残る。ラストでこれほど強い印象を残すのは、それまでのマクマーフィーが非常に魅力的な人物として描かれているからだろう。普通に考えれば、病院内で好き勝手にふるまうマクマーフィーはどうしようもないヤツだし、最後の悲劇を招いたのも結局は自業自得だ。それでも、男としてカッコいいと思えてしまう魅力がある。ただ、客観的に考えた場合、こうした人間が自分の周囲にいたらやっぱり迷惑だろうと思う。フィクションの中でだけ、ヒーローとして収まっていてくれればいい。



THE BROOKLYN FOLLIES  by Paul Auster  10/01/31 更新

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癌のために保険セールスの仕事を早期退職したネイサンは、一人で余生を静かに過ごすためブルックリンに移り住む。そこで、長年連絡の途絶えていた甥のトムと再会する。以前は優秀だったトムも、いまではタクシーの運転手を経て古書店の店員として働き、以前の面影はなくなっていた。そして、トムが勤務する古書店の店主であるハリーと知り合ったネイサンは、ハリーが古書を利用したサギを計画していることを知る。そのお金が入ったら、ブルックリンを抜け出して理想のホテルを買おうと盛り上がる3人だったが、思わぬことからその計画は頓挫してしまう。さらに、若い頃に家出をした姪のオーロラの娘であるルーシーが突然訪ねてきて、ネイサンの周囲は思わぬ形でにぎやかになる。

 なんだろう、この暖かな読後感は。これまでに読んだオースター氏の作品の中では、間違いなく一番わかりやすくて心温まる作品だと思う。まさかオースター氏がこんなにわかりやすい作品を書くとは思わなかった。
 登場人物たちは、主人公のネイサンを含めてみんなお世辞にも立派な人間とはいえない。トムは大学を中退してタクシーの運転手にまで落ちるし、ハリーはサギの前科があってゲイだし、オーロラはヌードで生活費を稼いでドラッグに溺れるしで、だれ一人として立派な生活を送っている人はいない。だからこそ、それぞれが抱える悩みや葛藤に感情移入しながら読むことができる。一度は家族を失った初老の男が、思わぬ形でもう一度家族を作り上げていくというストーリーだが、ともすると嘘っぽくなりがちなこうしたテーマも、オースター氏の筆にかかると生き生きとしたリアリティに満ち溢れた作品になる。いい作品に出会えた幸運に感謝しよう。



THE BEAUTIFUL AND DAMNED by F. Scott Fitzgerald 09/12/19 更新

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物語の舞台は1910年代のニューヨーク。大富豪のアダムを祖父に持ち、ハーバード大学を卒業して何不自由なく暮らすアンソニーは、絶世の美女グロリアと出会い恋に落ちる。やがて結婚した二人は、仕事もせずに毎晩のように友人たちを集めてはパーティーを開く。一向に定職に就こうとしないアンソニーを心配したアダムが突然訪ねてきたときも、運悪くパーティーの真っ最中だった。その様子を見たアダムは何も言わずに帰ってしまい、その後間もなく死亡するが、アダムの遺書にはアンソニーへの遺産の譲渡については何も書かれていなかった。莫大な遺産を当てにしていた二人は慌てて不服申し立てを行うが、これをきっかけに二人の生活は荒れ始め、グロリアは衰えていく美貌を嘆き、アンソニーはさらにアルコールに溺れていく。

 デビュー2作目となるこの作品は、邦訳されていないこともあってあまり知られていないが、フィッツジェラルドの作品では"The Pat Hobby Stories"と同じくらいに面白かった。わがままなグロリアと、甘ったれのアンソニーがよく描けていて、特にラストのアンソニーの壊れっぷりが見事だと思う。
 これは、作者が25〜26歳くらいの作品だが、この頃から自分の晩年を予想していたのかと思うくらいのリアリティがある。特に、アンソニーがアルコールに溺れていく描写は見事だ。25〜26歳の頃といえば、目の前には無限の可能性が開けて希望に満ち溢れた時期のはずなのに、ここまで陰鬱な作品を書くというのはある意味ですごいことだと思う。きっとフィッツジェラルドは、作中のアンソニーに自分を重ね合わせながらこの作品を書いたのだろう。そう思いながら読んでみると、なんとも言えない気分になる。



DON'T CRY NOW   by Joy Fielding  09/11/28 更新

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高校で英語を教えるボニーは、優しい夫のロッドと可愛い娘のアマンダに囲まれて幸せな生活を送っていた。そんなある日のこと、ロッドの前妻のジョアンから電話があり、ボニーとアマンダに危険が迫っていると告げられる。詳しい話を聞こうとジョアンに会いに出かけたボニーは、銃で無残に撃ち抜かれたジョアンの死体を発見する。残された16歳のサムと14歳のローレンを引き取ったボニーは、自分に心を開いてくれない二人に振り回されながらも、事件の手がかりをつかもうとジョアンの知り合いたちを訪ねて話を聞く。そうして話を聞くうちに、自分の周囲の人間がすべて怪しく感じられるようになり、ボニーは次第に疑心暗鬼に陥っていく。

  ミステリー作品ではあるが、家族の絆という大きなテーマが全体を通じて描かれていて、単純なミステリー作品というわけではない。特に作品の中盤は、血の繋がらない二人の子供に苦労しながら、自分の両親に対して複雑な思いを抱くボニーの葛藤が描かれていて、はたしてこれはミステリー作品なんだろうかと感じてしまうほど、家族というテーマが綿密に描かれている。
 しかし、肝心のミステリーについても充分に満足できるレベルに仕上がっていて、結局自分は最後まで犯人がわからなかった。最初のうちはあまり面白いとは感じなかったが、読み進めるにつれてどんどんと引き込まれ、最後はノンストップで読んでしまった。ただ、ラストがちょっと淡白すぎる気がしないでもない。ここまで盛り上げたのだから、後日談をエピローグなどの形でもう少し丁寧に書いてほしかった。



IN COLD BLOOD  by Truman Capote  08/07/05 更新

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1959年の11月、カンザス州の農場主一家4人が惨殺される事件が発生する。残忍な手口でありながら、有力な手がかりがほとんどなく、捜査は最初から暗礁に乗り上げる。しかし、ある囚人からの情報提供により、捜査は一気に展開し、2人組の犯人が逮捕される。取り調べに対する 2 人の供述から、この不可解な事件の真相が明らかになっていく。事件発生から逮捕、裁判、死刑執行まで、実際に発生した事件を題材にしたノンフィクション・ノベル。

 取材開始から出版まで6年の歳月を要したという労作。実際には、登場人物である死刑囚たちの死刑執行を待っていた結果、6年が経過してしまったということらしい。とはいえ、相当に綿密な取材を重ねたのだろうということが容易にわかる内容になっている。
 徹底した三人称で語られるため、客観的に読めるところがいい。普通のノンフクションの場合、作者のどうでもいい主観が入ってしまって興ざめすることがよくあるが、この作品に限ってそういうことはまったくない。なぜ冷静なペリーが突然切れてしまったのか、そのとき何を考えたのかなど、すべての解釈は読み手自身に委ねられる。すべてが淡々と描かれていて、それが逆にこの凄惨な事件の異常さをより際立たせている。
 読んでみた結論として、なぜ冷静なペリーが突然切れてしまったのか、そのとき何を考えたのかについては、よく理解できなかった。理解できないほうがきっと幸せなのだろう。



THE HEART OF THE MATTER by Graham Greene  08/02/09 更新

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物語の舞台は、第二次大戦中のイギリス植民地であるアフリカの国。その国の警察署で副署長を務めるスコービーは、土地の生活に慣れない妻のルイーズが南アフリカに移住したいと繰り返し訴えることに頭を悩ませていた。金策に困ったスコービーは、何かと悪い噂の多いユーゼフから金を借りてルイーズを南アフリカへ送る。その後、船の遭難で夫を失ったヘレンという親子ほどに歳の離れた若い女性と知り合い、愛し合うようになる。しかし、ヘレンに宛てた手紙がユーゼフの手に渡ってしまい、スコービーは窮地に陥る。そんなとき、ルイーズが南アフリカから戻って来たため、スコービーの苦悩はさらに深くなる。破滅へと向かうスコービーが選択した解決策とは。

 なんとも救われないお話だ。スコービーのように誠実で真面目な人間が救われないとは、なんとも悲しい。いや、誠実で真面目だからこそ救われなかったのだろう。そして、そんな誠実な人間がキリスト教を信仰していたからこそ、さらに救われなかったのだろう。もっといい加減な人間なら、適当にワイロをもらって私腹を肥やし、若い女性を妾にしてそれなりに人生を楽しむことができるのだろう。そんな人間にとっては宗教など邪魔なだけで、何の救いにもなりはしない。宗教のために救われなかったスコービーのなんと哀れなことか。
 その人によって救いにもなれば破滅にもなり得る、それが宗教というものなのだろう。



MAURICE  by E. M. Forster  06/12/02 更新

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物語の舞台は20世紀初頭のイギリス。主人公のモーリスは上流階級に生まれ育ち、ケンブリッジ大学に通う。大学の1年先輩のクライブと仲良くなったモーリスは、ある日突然クライブから愛の告白をされる。戸惑いながらも、自分は同性しか愛せないことに気付いたモーリスは、クライブの気持ちを受け入れる。幸せな日々を送るモーリスだったが、クライブからまたも突然に別れを告げられる。男性に興味がなくなったクライブは、それから間もなく女性と結婚してしまい、モーリスは失意の底に落ちる。そんなモーリスの目の前に現れたのは、クライブの家で使用人として働くアレックだった。まったく身分の違う二人は、偏見に満ちたイギリス社会で愛を貫くことができるのか。

 文章は難しかったけど、面白かった。当時のイギリスでは同性愛は犯罪だったらしく、今よりもっと偏見の目で見られたのだろう。藁にもすがる思いでモーリスが精神科医や催眠術師を訪ねるところは、なんとも哀れで胸が詰まった。どうやら作者自身も同性愛者だったらしく、そうした作者の思いも反映されているのだろう。
 しかし、どうしても納得できないのは、あまりにもクライブの変心が突然なこと。いくらなんでも、同性愛者がある日突然異性愛者になれるとは思えない。同性愛者の心理はわかりすぎるほどわかっているはずなのに、フォースター氏がどうしてこういう展開にしたのかが疑問。残念ながら、この展開がこの作品の傷になっていると思う。でも、全体的なトーンとしては甘く切ないので、女性には受ける作品だと思う。



BURNED ALIVE  by Souad  06/04/29 更新

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中東ヨルダンにある小さな村に生まれた少女スアドは、毎日の過酷な労働に耐えながら父親からの虐待を受けていた。一人で外出することも、男性と言葉を交わすことも許されないスアドは、結婚して家から出ることだけを夢に見る。結婚をあせるスアドは、隣に住む青年と肉体関係を持ち子供を身ごもってしまうが、スアドの父親を恐れた青年は彼女の前から姿を消してしまう。スアドの妊娠を知った両親は激怒し、「家族の名誉」のためにスアドを殺害しようとする。ガソリンを頭からかけられて火をつけられながらも一命を取り留めたスアドは、人権団体の助けによってヨーロッパに移住する。これまでの悪夢に悩まされながらも、新しい人生を生きていこうとするスアドの姿を描いたノンフィクション。

 大昔の話ならいざ知らず、現代でもこんな理不尽な社会が存在するということに驚く。女性に生まれてきたら家畜以下の扱いで、男性に生まれてきたら暴君のごときふるまいが許されるとはどういうことか。家庭では父親から虐待され、結婚したらしたで夫から虐待され、結局誰からも愛されない女性たちはどうすればいいのか。家族の誰からも愛されないことがどんなに辛いことか、想像するだに恐ろしい。
 こうした過激な例が存在するのはアラブ社会の中でもごく一部なんだろうけど、人種としての根っこの部分は共通するものがあるはず。偏見はいけないとは思いつつ、アラブ人にはやはり恐ろしさを感じる。



OF MICE AND MEN  by John Steinbeck  06/03/31 更新

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物語の舞台は1930年代のカリフォルニア。主人公のジョージとレニーは、農場を渡り歩きながら生活をする農場労働者。体が大きくて知恵遅れのレニーは、その怪力が原因である農場でトラブルを起こし、ジョニーとともに別の農場へと移るが、そこでも農場経営者の息子のカーリーとトラブルを起こしてしまう。さらにカーリーの妻も誤って殺してしまったレニーは、農場から逃げ出してしまう。森の中に逃げ込んだレニーを見つけたジョージは、辛い決断を迫られる。

 いつかは自分たちの土地を持つことを夢見ながら、毎日の辛い労働に耐える男たちの姿が悲しい。いつまでもかなわぬ夢を見ながら、農場を渡り歩くジョニーとレニーも孤独なら、同じ農場で働く仲間たちもまた孤独だ。そして、カーリーとその妻も同じように孤独なんだと思った。当時のアメリカは生きていくには辛い時代だったということがよくわかる。
 そしてラストもまた辛い。最後まで自分たちの農場を持つことを信じて疑わなかったレニーの無邪気さが、読んでいて辛かった。悲しさの中にも人間の優しさやたくましさを感じさせる佳作。



THE PAT HOBBY STORIES  by F. Scott Fitzgerald  05/08/03 更新

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 面白さ   

落ち目の脚本家パット・ホビーを主人公にした、17編からなる連作短編集。無声映画の時代には派手な暮らしをしていたパットも、今では仕事にありつくのさえやっとという状態。過去の栄光を懐かしみながら、その日暮らしで生きていくパットの日常をコミカルに、そして切なく描きだす。

 落ち目のパットがなんとも情けなくていい。小銭目当てにいろんなセコイことを計画しては失敗するその情けなさが素敵だ。基本的にはコメディだが、読んでいてふと切なくなる部分もあって、そのあたりのバランスが絶妙だ。読む前はそれほど期待していなかっただけに、これは意外な掘り出し物だったかもしれない。
 この作品は作者の晩年に書かれたもので、アルコールに溺れて自堕落な生活を送る自分と主人公のパットとを重ね合わせて書いたものであろうことは容易に想像できる。フィッツジェラルド氏の作品はどれも「情けない自分」というものを色濃く出していて、読んでいて少しばかり痛々しい。



A WIDOW FOR ONE YEAR  by John Irving  05/02/16 更新

 読み易さ 
 面白さ   
  
作家志望の16歳の少年エディは、著名な童話作家のテッドのもとで夏休みの間アルバイトをする。やがてテッドの妻であるマリオンと深い仲になるエディ。そんな二人がベッドの上で抱き合う姿を、4歳の娘ルースに見つかってしまい、マリオンはテッドとルースを残して姿を消してしまう。それから三十数年後に、エディとルースは再会をはたす。売れない作家のエディと売れっ子作家のルースの心には、恋人としてのマリオンと母親としてのマリオンが、それぞれ消えずに残っていた。

 この作品は三部構成になっていて、第一部は文句なしに面白い。とにかく各キャラクターが生きていて、「これは久しぶりに面白さの評価で つけられそうだな」と感じるくらいに面白かった。しかし、その後がイマイチ。まず、とにかく長い。主要な登場人物は何人もいないのに、ここまでストーリーを引っ張られると、読んでいる途中でダレてくる。それに、ストーリー展開も後半になるにつれて失速している感じがする。
 ただ、このラストはいい。ラストと言うより、最後の一行がいい。このラストの一行を書きたいがために、ここまで引っ張ったのかと思うくらいに効果的な一行だと思う。ただ、このラストを味わうためには、かなりの時間を費やさないといけないのが少しだけ困る。



JONATHAN LIVINGSTON SEAGULL  by Richard Bach  05/01/08 更新

 読み易さ 
 面白さ   

説明不要の「カモメのジョナサン」。

 なるほど、いいお話じゃないの。食べることよりも、より高くより速く飛ぶことに人生の価値を見出すジョナサン。この気持ちには共感できる。人生の意味については誰もが漠然と考えていることだろうが、こういう寓話の形で読むと、「そうそう、そうなんだよ」と思わず膝を打ちたくなる。
 しかし、途中の「瞬間移動」の修行のくだりはいかがなものか。ちょっと「あちらの世界」って感じで、一歩間違うと精神世界の領域に踏み込んでしまいそうな危うさがある。かのオウム○理教の故村井君の愛読書だったというのもわかる気がする。この部分さえなかったら面白さの評価は  だったのに、ちょっと残念。



THE MOON AND SIXPENCE  by Somerset Maugham  04/04/01 更新

 読み易さ 
 面白さ   

40歳にして画家を志し、それまでの安定した生活や家族を捨ててロンドンからパリに渡ったストリックランド。赤貧にあえぎながらも自分の理想とする絵を描き続けるストリックランドは、その傲慢な性格のために、周囲の人間とさまざまな衝突を繰り返す。やがてタヒチに渡ったストリックランドは、病に侵されながらも最後の情熱を壮大な壁画にぶつける。

 画家ゴーギャンをモチーフとした、モームの代表作。あくまでもモチーフにしただけであって、内容はまったくのフィクションらしい。
 それにしても、このストリックランドの傲慢さと言うか、冷徹さは徹底している。自分の命の恩人である友人の妻を奪っただけでなく、その女性を自殺に追い込んでも、まったく良心の呵責を感じないという冷徹さ。まったく、芸術家ってのはそんなに偉いのか。周りの人間を不幸にしてまでも追い求めなければいけないくらいに、芸術ってのは価値のあるものなのか。などと、思わず熱くなってしまうくらいにストーリーに入り込んでしまった。つまりはそれだけ面白かったということだ。



THE LONG WALK  by Richard Bachman  02/10/12更新

 読み易さ 
 面白さ   

全米から選抜されたティーンの少年100人が参加する「ロングウオーク」は、カナダとの国境をスタート地点として、ひたすら歩いて南下するだけの単純な競技。しかし、歩行スピードが時速4マイル以下になると警告を受け、4回目の警告を受けた瞬間に容赦なく射殺され、最後の一人になるまで続けられるという残酷な競技。幾日にも渡って過酷な条件下でのウオークが続き、次々と命を落としていく少年たち。この異常なレースを制するのは一体誰なのか?

 この作品は、キングが大学生の頃に書き上げた最初の長編らしい。出版年こそ「キャリー」の方が古いが、実質的には本作が彼の処女作になるのだろう。はっきり言って、かなり面白かった。
 もちろん、なぜこんなに危険な競技にいとも簡単に参加するのかという動機の部分の書き込みが浅いとか、ラストがあまりにも弱いとか、いくつか不満もあるが、そんなことが些細なことに思えるくらいにプロットが強烈。
 とにかく昼も夜も歩くのみ。足を止めればその場で射殺される。自分が生き残れる確率はわずかに1%。自分以外の人間は皆んな敵。それでも仲間の危機には命を投げ出して救出する。こんなに単純でしかも強烈なプロットを書くことができるのは、キング以外にいないだろう。やっぱりキングは凄い。



DIFFERENT SEASONS  by Stephen King  02/07/10更新

 読み易さ 
 面白さ   

タイトルの通り、春夏秋冬のそれぞれをタイトルに冠した、4篇の中篇からなる作品集。

 どの作品もキング一流のストーリー展開で面白いけど(ただし、「冬の章」はイマイチ)、4篇のうちのベストを選べと言われたら、映画「スタンド・バイ・ミー」のタイトルでヒットした"THE BODY"を挙げたい。12歳の少年4人が、列車事故に巻き込まれて死んでしまった少年の死体を探しに冒険に出かける、というストーリーは、成年男子にはたまらないものがある。こんなにドラマチックな体験ではないにしても、「秘密基地ごっこ」や、「探検ごっこ」は誰しも経験していることだから。それぞれのキャラクターに、自分の子供時代の周りの人間をオーバーラップさせながら読むと、かなりハマること請け合い。作中のメインキャラクターでは、特にクリスがカッコいい。
 テーマはホラーなのにも関わらず、ノスタルジックな気分にさせてしまうキングの力量には、改めて脱帽。



INTENSITY  by Dean Koontz  01/03/13 更新

 読み易さ 
 面白さ   

心理学を専攻する女子学生の主人公チャイナは、休日を利用して親友の実家に泊まりに行く。暖かいもてなしを受けたその日の深夜、何者かが侵入し家族全員を惨殺してしまう。危うく難を逃れたチャイナは犯人の運転するキャンピングカーに密かに乗り込み、犯人の家をつきとる。そこでチャイナが見たものは、地下室に閉じ込められている美しい少女の姿だった。少女を助け出そうとするチャイナだが逆に犯人に捕らえられてしまい、手足に枷をはめられ身動きの出来ない状態になってしまう。はたしてチャイナは無事に脱出して少女を救うことができるのか?

 読み始めて30ページも経たないうちに、いきなり犯人が侵入して殺人を犯す、という導入部に始まり、それ以降は息をもつかせぬ展開で一気に読ませる。ミステリー小説のように、途中でさまざまな伏線が張られラストでその謎が解き明かされる、という構成ではないので、途中で多少難解な部分があっても気にせずに読み飛ばしてオッケー。難しいことは考えずに、頭を空にして楽しめる作品。



THE DEAD ZONE  by Stephen King  01/02/12更新

 読み易さ 
 面白さ   

大学を卒業したばかりの新米高校教師ジョニー・スミス。恋人のセーラと出かけた地元のお祭りで、ふと立ち寄った屋台のルーレットに大勝したジョン。その帰り道に乗ったタクシーが事故に巻き込まれてしまい、ジョンは植物状態に陥る。誰もがあきらめかけていたそのとき、ジョンは奇跡的に息を吹き返す。4年半という長い眠りから目覚めたジョンには、相手の身体や持ち物に触れただけでその人の過去や未来が見えてしまうという超能力が備わっていた。この望まぬ能力のために、ジョンは悲劇の人生を歩むことになる。

 ホラー小説ということで、きっとおどろおどろしい内容なんだろう、と思って読んだけど、いい意味でこの予想は裏切られた。恋人との悲しい別れや、父親との愛情溢れる交流などがしっかりと描写されていて、かなり胸に迫る。ラストはあまりにも主人公が哀れで、深く感動。
 ジョニーから恋人のセーラへ宛てた手紙が本作のラストシーンなんだけど、この手紙がまた泣ける。2回繰り返し読んで、2回とも思いきり泣かされた。最近なんだか涙腺が弱くなってきてるなあ。これからは大胸筋や腹筋だけでなく、涙腺も鍛えないといかんな。まさかホラー小説で泣けるとは思っていなかったので、意外な収穫。



A TIME TO KILL  by John Grisham

 読み易さ 
 面白さ   

いまだに人種差別が色濃く残るアメリカ南部の小さな街で、2人の白人男性が10才の黒人の少女をレイプするという事件が起こる。逆上した少女の父親は裁判所内で犯人の2人を銃殺してしまう。この父親から弁護を依頼されたのは白人弁護士のジェイク。黒人教会とKKK をも巻きこみ、裁判はどんどんと人々の関心を集め、やがて全米中の注目の的に。KKK はジェイク本人や周囲の人間にさまざまな脅迫行為を行い、やがてジェイク本人の命も狙われる。この異常とも言える裁判で、はたしてジェイクは無罪を勝ち取ることが出来るのか?

 著者の記念すべきデビュー作。主人公のジェイクは著者本人がモデルとなっているらしい。
 これまでに読んだ著者の作品の中では文句なしに一番面白い。まず冒頭のレイプシーンが強烈で一気に引きこまれる。対立軸が明確なため感情移入がしやすいところもいい。他の作品のようなハラハラドキドキのストーリー展開は若干影を潜めてるが、その分各キャラクターが丹念に描かれている。本作ではアメリカの裁判の流れが一通り書かれているため、これからグリシャム氏の作品を読むという場合は、まずこの作品から読むのがいいと思う。




SPHERE  by Michael Crichton

 読み易さ 
 面白さ   

南太平洋の海底300メートルに沈んでいるスペースクラフトが発見され、天体物理学者、動物学者、数学者、心理学者から構成される調査隊が海底での調査に乗り出す。海底に不時着してから少なくとも300年は経過しているというその物体は、はたしてエイリアンクラフトなのか、それとも未来からのタイムマシンなのか?

 
さほど期待せずに読んだところ、面白かった。最初から引き込まれて、一気に読んだ。
 
SF物は時代設定が何百年も先のはるか未来であったり、自らの意思をもつスーパーコンピューターが登場したりと、突飛な設定が多く、あまり好きなジャンルではないが、この作品はリアルタイムの設定で、天体物理学、動物学、数学、心理学の各理論が分かりやすく展開されていて、突飛な設定でありながら説得力があり、違和感なく読める。著者の知識の広さ、深さは驚嘆の一言。面白さの評価はでもいいかなと思ったが、あんまり甘やかしてもいけないのでこのくらいにしておこう。



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