HARUKI MURAKAMI 




 説明不要の村上春樹。ということで、経歴の紹介は省略。
 村上春樹の作品は、学生の頃に読もうとしたことがあったけれど、あの独特の文体にどうしてもなじめず、途中で挫折してしまった経験がある。それ以来、村上春樹の作品はまったく読んだことがなく、読もうとすら思わなかったが、もしかして翻訳なら読めるかもしれないと思って読んでみたところ、意外にも面白かった。日本の作家なのに、日本語で読めなくて英語の翻訳なら読めるというのもなんだか面白い。
 村上作品を英語に翻訳しているのは、主にアルフレッド・バーンバウムとジェイ・ルービンの二人らしいが、どちらの訳文もとても読みやすい。




PINBALL, 1973 Translated by Ted Goossen  17/07/02更新

 読み易さ 
 面白さ   

大学を卒業した主人公は、友人と二人で翻訳会社を立ち上げて順調に仕事をしていた。私生活では、突然転がり込んできた双子の姉妹とともに、奇妙な共同生活を送る。そんなある日のこと、大学生のときに「ネズミ」と一緒に通っていたバーで遊んでいたピンボールのことを思い出し、それと同じモデルのピンボールを探し始める。一方、大学を中退したネズミは、毎日なじみのバーに通いながら、いまの生き方を変えたいと考え始める。

  図書館の新着コーナーを覗いたところ、この本を見つけたので思わず借りてみた。「Hear the Wind Sing」とセットで「Wind/Pinball」というタイトルで1冊になっていて、どうやら最近になって翻訳されたものらしい。
  ということで、「風の歌を聴け」の続編であるこの「1973年のピンボール」だが、何が言いたいのかさっぱりわからなかった。主人公のストーリーをメインとしながら、その脇でネズミのストーリーが展開していく構成になっているけれど、主人公とネズミは最後まで何の絡みもないので、わざわざネズミを出す意図がどこにあるのかよくわからない。頭の悪い自分に言わせてもらえば、単に雰囲気だけの作品で、一つも面白くなかった。



SPUTNIK SWEETHEART Translated by Philip Gabriel  16/02/21更新

 読み易さ 
 面白さ   

小説家を目指す22才のスミレは、週に何日かバイトをしながら、毎日創作活動に没頭していた。そんなスミレの唯一の話し相手は、小学校の教師で2才年上のK。Kはスミレに思いを寄せるが、そんなKの気持ちを知りながらスミレはKに対して一切の恋愛感情を抱くことができない。そんなスミレの前に17才も年上のミウという女性が現れ、たちまちスミレは恋に落ちてしまう。ワインの輸入会社を経営するミウのもとで仕事を始めたスミレは、ミウとともにヨーロッパへワインの買い付けに出かけるが、ギリシャの小島で突然行方不明になってしまう。ミウから連絡を受けたKは、すぐにギリシャへと向かう。

  年上の同性に思いを寄せる若い女子という設定が面白くて、物語の途中まではわくわくしながら読んだのだが、最後はいつものようにわけがわからないままに終わってしまった。すべてのことに白黒つけろとは言わないけれど、もう少し読者が納得できるような展開にできないものだろうか。まあ、大半の読者はこれで納得しているのだろうけれど、想像力と理解力に乏しい自分にとっては、あまりにも難解で不親切な小説だ。もうこのパターンにはうんざりなので、これ以上村上春樹の作品を読むことはないだろう。



AFTER DARK Translated by Jay Rubin  16/01/31更新

 読み易さ 
 面白さ   

深夜のファミリーレストランで本を読んでいる大学生のマリに、以前に一度だけ会ったことがあるタカハシが声をかける。これからバンドの練習に出かけるというタカハシは、マリと同じテーブルに座り、マリの姉であるエリについて話し始める。同じころ、エリは自分の部屋で眠っていた。エリはこのところずっと、家族のいないときに起き上がり、家族が家にいるときにはずっと眠り続けるという生活を続けていた。

  深夜の都会を舞台にした不思議な小説。不思議というか、何が言いたいのかさっぱりわけがわからない。ストーリーの途中では、中国人の売春婦が日本人の男性にボコボコに殴られたり、ベッドで眠り続けるエリを見つめる顔のない男が登場したりと、それなりに興味を惹く仕掛けはあるけれど、そうした伏線はまったく回収されないまま、唐突にラストを迎える。これまでそれほど多くの作品を読んだわけではないけれど、村上春樹って、こういう書きっ放しでほったらかしというパターンがあまりにも多いような気がする。もう少し読者が納得できるようなストーリー展開にならないものだろうか。



UNDERGROUND Translated by Alfred Birnbaum and Phillip Gabriel  16/01/10更新

 読み易さ 
 面白さ   

地下鉄サリン事件の被害者を村上春樹が直接インタビューしてまとめた作品。

  最初こそ、当事者だけが語ることのできる臨場感あふれた描写に引き込まれたが、同じ形式のインタビューが何十人も続くため、被害者の方々には申し訳ないが途中から飽きてしまった。それに、作家である村上春樹が淡々とインタビューの内容だけを書くというのも、その必然性があるのだろうかと疑問に感じた。その中で思ったのは、とんでもない事故現場に遭遇しながら、自分はその事故とは関係ないと思い込んでしまう人たちがなんと多いのかということだ。道端に何人もの人が倒れているのを目にしながら、自分にも体調の変化が起きていることを感じているにもかかわらず、そのまま会社にたどり着こうとする人が多いということに驚いた。などと言いながら、自分も同じような行動をしてしまいそうな気がする。なにしろ、危機感というものが欠如している人間なので、自分がテロや天災の被害者になるという思考回路がないのだ。
  それはともかく、海外でテロが頻発している現代で同じ事件が起きた場合、人々の反応はまったく違ったものになっただろうし、被害者の数ももっと少なくて済んだと思う。



DANCE DANCE DANCE Translated by Alfred Birnbaum  15/12/06更新

 読み易さ 
 面白さ   

物語の舞台は、「羊をめぐる冒険」から4年後の東京。フリーのライターとして仕事をしていた主人公は、4年前に付き合っていたキキという女性が自分のことを呼ぶ夢を繰り返し見るようになる。仕事で北海道を訪れた主人公は、キキと泊まったことがある札幌のドルフィンホテルを訪ねるが、その場所には26階建ての巨大なホテルが建っていた。札幌の映画館で観た映画に中学校の同級生であるマキムラが主役として出演し、ベッドシーンの相手役がキキであることを知った主人公は、東京に帰ってからマキムラに連絡を取ってキキの消息を尋ねるが、映画に出演した後はまったく消息がわからないという。やがて、キキの友人だった女性の殺人事件が発生し、主人公は参考人として警察での事情聴取を受けることになる。

  この作品は「羊をめぐる冒険」の続編ということだが、そんなことはまったく知らずに読み始めたところ、すぐに「羊をめぐる冒険」の続編だということがわかり、嫌な予感がした。ヒツジ男が出てきたときには、ああ、この作品もきっとつまらないんだろうなと確信したのだけれど、けっこう派手な展開もあったりして、それなりに楽しく読むことができた。特に、完璧なルックスと物腰を備えた俳優のマキムラが、一般人である主人公を相手に素直な感情を吐露して友情を育てていくところなんかはいいと思った。
  しかし、ミステリーっぽい雰囲気で物語が進んでいくにもかかわらず、最後は何も解決しないまま終わるというのはどうかと思う。結局最後まで、何が言いたかったのかよくわからない。それなりにドラマ性を持たせているのだから、それなりの結論を提示する必要があるんじゃないだろうか。



SOUTH OF THE BORDER, WEST OF THE SUN Translated by Philip Gabriel  15/11/08更新

 読み易さ 
 面白さ   

一人っ子のハジメは、12歳のときに同じ一人っ子のシマモトという女の子と仲良くなり、お互いに淡い恋心を抱くが、ハジメが隣町に引っ越して別の中学に通うようになってから顔を合わせることがなくなった。高校生になったハジメはイズミと付き合うようになるが、イズミの従妹と肉体関係を持ったことがバレてしまい、イズミをひどく傷つけてしまう。東京の大学に進学し、出版社に就職するが、毎日退屈と孤独に悩まされていた。しかし、ユキコと知り合って結婚してからは、二人の娘に恵まれ、2件のジャズバーの経営も順調にいき、幸せな毎日を送っていた。しかし、そんな暮らしの中でも、ハジメの心中にはいつもシマモトがいた。そんなある日のこと、雑誌で紹介されたハジメを見たシマモトが、ハジメのバーを訪れる。25年ぶりに再会したシマモトにどんどんと惹かれていくハジメは、現在の安定した生活や愛する家族までも捨てる決心をする。

  「ノルウェイの森」よりも少しだけ大人な感じのするラブストーリーで、嫌いな作品ではない。というか、むしろこういう雰囲気の作品は好きだ。いけないことだと頭では理解していながら、どうしようもなく惹かれていく気持ちが丁寧に描かれていて、同じ男子として大いに共感できる。しかし、シマモトさんに関するいろいろなことがあまりにもミステリアスすぎるのがどうも気に入らない。ミステリー作品のように、作中で張った伏線はすべて回収しろとは言わないけれど、せめて結婚しているのかどうかや、なぜそんなに裕福な生活ができるのかといったことくらいは明らかにしてほしい。あれこれと想像するのが楽しいという人もいるかもしれないが、自分は頭が悪くて想像力も貧困なので、こういう重要なことをあいまいにされると消化不良で思い切り不満を感じる。



A WILD SHEEP CHASE Translated by Alfred Birnbaum  15/10/18更新

 読み易さ 
 面白さ   

物語は、1978年の東京から始まる。友人とともに小さな事務所を経営する主人公のもとに謎の人物が訪れ、北海道の風景写真に写っている一頭の羊を探すように命じる。その写真は主人公の友人である「ネズミ」から送られてきたもので、その写真には背中に星の形をした印のある羊が写っていた。妻と離婚したばかりの主人公は、付き合い始めたばかりの彼女とともに北海道へ行き、一頭の羊を探す冒険を始める。

 この作品は、「風の歌を聴け」と「1973年のピンボール」と合わせて「ネズミ三部作」と呼ばれているらしい。この「羊をめぐる冒険」は、ネズミ三部作の完結編ということになるわけだけれど、「風の歌を聴け」とはまるで雰囲気が違う。出来の悪いおとぎ話みたいな感じで、少しも面白くない。よく言えば、現実と虚構を取り混ぜた不思議な作品、悪く言えば、単に雰囲気だけの嘘くさい作品、ということになるだろうか。物語のラスト近くで、羊の着ぐるみをかぶったヒツジ男が登場したときには、あまりのバカバカしさに読んでいる本を投げ出したくなった。
 それと、この作品に限ったことではないけれど、登場人物がソフトドリンクとアルコールをちゃんぽんで飲むシーンがよく出てくるのが気になる。ジンジャエールとビールみたいな組み合わせならまだしも、コーヒーを飲んでからビールだとか、ビールを飲んでからコーヒーだとか、そういう無茶な取り合わせが多いのだ。アルコールを飲んだ後にコーヒーで締めるというのはわからなくもないけれど、酒飲みの自分に言わせてもらえれば、コーヒーを飲んでからアルコールというのは絶対に無理。



AFTER THE QUAKE Translated by Jay Rubin  15/10/04更新

 読み易さ 
 面白さ    

阪神淡路大震災をなんとなくテーマにからめた6つの短編を収めた短編集。

 阪神淡路大震災がテーマになっているとはいっても、実際には作中にそうした記述がちょこっとあるだけで、阪神淡路大震災自体が重要なテーマになっているわけではない。どの作品も雰囲気だけはあるけれど、自分が大嫌いな「雰囲気だけの小説」という感じで、特にこれといった読後感はなかった。というか、何が言いたいのかよくわからなかったというのが正直なところだ。



NORWEGIAN WOOD Translated by Jay Rubin  15/09/13更新

 読み易さ 
 面白さ    お勧め

東京の大学に通う19歳のワタナベトオルは、ある日偶然に高校時代の同級生であるナオコと再会する。ナオコは、トオルの親友であるキズキの彼女で、高校生のころはいつも3人で遊んでいたが、キズキが突然自殺してからは会うことがなくなっていた。偶然の出会いをきっかけに交際を始め、ナオコの20歳の誕生日に一夜を共にするが、それを最後にナオコはトオルの前から姿を消し、京都にある療養所に入院してしまう。その後、同じ大学のミドリと知り合い、友人として付き合うようになる。京都の療養所を訪ねたトオルは、ナオコと同室のレイコと知り合い、3人でさまざまな話をする。ナオコの回復を願いながら東京に戻ったトオルに、レイコから悲しい知らせが届く。

 おそらく、村上春樹作品の中でこれが最も有名な作品だろう。どうせスカしたことばかり書いてある雰囲気だけの小説なんだろうと思って読んだところ、意外にも面白かった。もちろん、スカした感じで現実感に乏しい部分もあるけれど、なぜか作品の持つ独特な雰囲気に引き込まれてしまった。主人公が通う大学が早稲田大学をモデルにしているということもあってか、学生時代のなつかしさも感じることができた。物語の舞台が1970年の東京ということもあって、通信手段として手紙が使われているのもいい。彼女からの手紙を心待ちにするという時代が、いまからわずか30年前まではあったということだ。主人公のトオルに自分を重ね合わせて共感するということはまったくないけれど、ちょっとした憧れを抱いてしまう感じはある。なんだかんだ言いながら、やっぱりカッコいいのだ。主人公をとおして、ちょっとカッコいい自分を夢見ていたいのかもしれない。
 それにしても、ナオコもミドリも面倒くさいタイプの女子で、現実的にはどちらともお付き合いはしたくない。



HEAR THE WIND SING  Translated by Alfred Birnbaum 15/08/23 更新

 読み易さ 
 面白さ   

東京の大学に通う20歳の主人公は、夏休みに実家に帰省し、友人の「ネズミ」とともにバーでビールを飲む日々を送っていた。そんなある日のこと、バーのトイレで酔いつぶれている少女を見つけ、介抱して自宅まで送り届ける。夏の終わりを感じながら、変わり映えのしない毎日が過ぎてゆく。

 村上春樹のデビュー作である「風の歌を聴け」の英訳版。
 特にこれといったストーリーもなく、淡々とした描写が続くだけで、退屈といえば退屈だが、なんとなく気持ちいいといえば気持ちいい。何が書きたいのかよくわからないけれど、夏特有のけだるい雰囲気がよく出ているとは思う。しかし、主人公が20歳のわりにはかなり退廃的な雰囲気が漂っていて、自分の若い頃に重ね合わて読むことはできなかった。雰囲気重視の軽い作品で、特に心に残る部分はなかった。関係ないけど、主人公の君はビール飲みすぎ。若いうちからそんなに飲んでいたら、アルコール依存症まっしぐらだ。



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