GUY DE MAUPASSANT 




 フランスの自然主義文学を代表する文豪。
 1850年にフランス北西部のノルマンディー地方で生まれた作者は、パリ大学で法律を学ぶが、在学中に普仏戦争に召集される。戦争に敗れて敗走する際につらい思いをした作者は、それ以後戦争を憎むようになり、後の作家活動において反戦的な作品を数多く残すことになる。戦後は公務員として勤務するかたわら、詩や小説などの創作活動を始め、1880年に処女作である「脂肪の塊」を発表する。1883年には代表作となる「女の一生」を発表して作家としての地位を不動のものとし、それ以降は専業作家として活動を続ける。短編小説を中心に多くの作品を発表するが、若い頃から患っていた梅毒が原因で徐々に精神に異常をきたすようになり、1892年に喉を切って自殺を図る。そのまま精神病院に入院するが、その病院で42歳の若さで息を引き取った。
 原語はフランス語であるため、読むのは英語に翻訳されたものになるが、翻訳を読む限りでは、それほど難しい文章ではない。19世紀に書かれたことを考えると、驚くほど読みやすい文章と言えるかもしれない。ドライで厭世的な作風は、一読の価値があると思う。




SELECTED SHORT STORIES  12/03/04更新

 読み易さ 
 面白さ   

30の短編を収めた作品集。

  この短編集を読んで、モーパッサンといえどもけっこう駄作はあるのね、と感じた。まあ、300からの短編を書いているわけだから、すべてが面白いわけではないだろうし、駄作の方がずっと多いのかもしれない。その中でも、「The Jewels(宝石)」という作品はなかなか面白かった。これは、モーパッサンの短編で最も有名な「首飾り」の内容をちょうど逆にしたような作品で、イミテーションだとばかり思っていた宝石が実は本物だったというオチは、なかなか面白い。なんだかわざとらしい「首飾り」よりも、オチに余韻を持たせた「宝石」の方がモーパッサンらしいような気がする。



BEST SHORT STORIES  12/02/19更新

 読み易さ 
 面白さ   

17の短編を収めた作品集。

  モーパッサンは300を超える短編を遺しているが、「Ball of Fat(脂肪の塊)」を除けば、一番有名な短編は「The Necklace(首飾り)」というのが一般的な評価らしい(「脂肪の塊」は、短編ではなく中篇という見方があるようだ)。そうした予備知識を持って読んだのがよくなかったのか、「首飾り」はそれほど面白いとは感じなかった。たしかに、最後にどんでん返しが待っているのはいかにも短編らしいけれど、なんだかモーパッサンらしくないというか、わざとらしいというか、うまく説明できないが、読んでいて少しばかり居心地の悪さを感じた。ただ、ほかの作品はそれほど印象に残らないのに比べて、「首飾り」は良くも悪くも印象に残る作品ではあるから、評価される理由もそのあたりにあるのかもしれない。



BALL OF FAT  12/02/12更新

 読み易さ 
 面白さ    そこそこお勧め

物語の舞台は、普仏戦争に敗れたフランス。プロシア軍による占領を嫌い、フランス軍が駐留する街まで行こうと、10人の男女が1台の馬車に乗り合わせる。ブルジョア、貴族、修道女のほかに、「脂肪の塊」とあだ名される売春婦を乗せた馬車は、旅の途中でプロシア軍に足止めを食らってしまう。足止めの理由がわからない一行は憤慨するが、プロシア軍の将校が売春婦を買おうとして断られたことがその理由だと知る。先を急ぐ一行は、この売春婦をなんとか説得しようとする。

 これはモーパッサンが30歳のときに発表したもので、作家としての地位を不動のものにした作品らしい。「女の一生」と並ぶモーパッサンの代表作ということだが、なるほど、面白い。馬車の中では娼婦から親切を受けたのに、自分たちの都合だけで手のひらを返したように冷たくするというラストは、人間のわがままさがよく描かれている。あまりの身勝手さに、読み終わったときには少しばかり怒りに震えたが、自分だって同じようなことを気付かないうちにしているのかもしれない。そんな自分には、この人たちのことを批判する資格はないのだろう。
 それにしても、この「脂肪の塊」というタイトルはひどいと思う。このタイトルからは、もっとおどろおどろしい内容を想像していたのだが、実際に読んでみたらまったく違った。あまりにも直訳すぎて、作品の内容も雰囲気もまったく伝わってこないタイトルというのは問題があると思う。読み終わったいまでも、このタイトルには激しい違和感が残る。このタイトルを訳した人には、なぜこんな訳にしたのか小一時間問い詰めたい気分だ。(もっと詳しい感想はこちら



PIERRE AND JEAN  12/02/04更新

 読み易さ 
 面白さ   

物語の主人公は、ロラン家の兄弟であるピエールとジャン。医師のピエールは激情的で野心家、弁護士のジャンは物静かで温厚と、性格のまったく異なる二人は、内心では密かなライバル心を燃やしながらも、表面的にはおだやかな毎日を送っていた。そんなある日のこと、両親の旧友であるマレシャル氏が死亡したというしらせが届く。マレシャル氏の遺言は、遺産の全額をジャンに与えるという驚くべき内容だった。降ってわいたような幸運に、ロラン一家は喜びにひたるが、兄のピエールは、弟に対する嫉妬心を募らせてゆく。やがてピエールは、ジャンの実の父親はマレシャル氏ではないかと疑い始める。自分の愛する母親が、夫とは別の男性と不倫をしていたのかもしれないと思い悩むピエールは、その苦悩に耐え切れず、ついにジャンに向って自分の苦悩を爆発させてしまう。

 会話文が少なく、ピエールやジャンの心理描写が延々と続くあたりは、読んでいて少し退屈だったが、全体的にはなかなか面白かった。お金の問題が絡んでくると、たとえ肉親であっても、その関係にヒビが入ってしまうというのは、いまも昔も変わらないものらしい。ただ、このお話しでは、両親ともにジャンの幸運を喜ぶばかりで、ピエールに対して何の配慮もないのはおかしい。普通は、兄弟のどちらにも不公平にならないように配慮するのが親としての務めだと思うが、この両親はそんなことにはまったく頓着しない。これでは、ピエールが気分を害するのも無理はない。
 世の中、お金がすべてではないけれど、お金さえあれば、ほとんどの悩みは解決するというのも事実だ。その大事なお金のせいで、家族の関係が壊れていく様子がよく描けていて、古さを感じさせない面白さがある。



A WOMAN'S LIFE  12/01/28 更新

 読み易さ 
 面白さ    そこそこお勧め

修道院での生活を終えて実家に帰ってきた17歳のジャンヌは、これからの新しい生活に胸をふくらませていた。貴族の両親とともに別荘に移り住んだジャンヌは、同じ貴族のジュリアンと知り合い、すぐに結婚してしまう。最初こそ優しかったジュリアンだったが、女中のロザリーに手を出して子供を産ませたり、近所の伯爵夫人と浮気をしたりで、ジャンヌの愛情はすべて一人息子のポールへと注がれていく。ジャンヌに溺愛されて育ったポールは、親元を離れて進学するが、放蕩の限りを尽くしてあちこちに借金を重ね、ついには娼婦の恋人と夜逃げ同然に姿を消してしまう。すべてに絶望したジャンヌに救いの手を差し伸べたのは、ジュリアンとの浮気が原因で屋敷を追い出された女中のロザリーだった。

 この作品は、モーパッサンの長編小説の中でおそらく最も有名な作品だと思うが、その評判通りの面白さだった。夢見る少女のジャンヌが、夫に浮気され、家族の死を経験し、放蕩息子の借金整理に巻き込まれるという、まさに悲劇の連続が描かれているのだが、非常によくできたストーリー展開で、一気に読むことができた。たしかにジュリアンは、かわいそうと言えばかわいそうなのだが、あまりにも自分の思い描く夢だけを追いかけて、現実を直視できていないからこんなことになるのだという気もしなくもない。まあ、浮気者の男と結婚したのが運の尽きではあるけれど、自分の愛情の対象を常にだれかに求めずにはいられないジャンヌの弱さも、一連の悲劇の原因の一つにはなっているのだろうと思う。
 それに比べて、女中のロザリーのなんとたくましいことか。この作品のラストを締めるロザリーの「人生って、思うほど良くもないけど悪くもない」というセリフが素晴らしい。



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