KAZUO ISHIGURO 




 日本生まれのイギリス人作家。
 1954年に長崎に生まれた作者は、5歳の時に海洋学者の父親の都合により一家揃って渡英する。1983年にイギリス国籍を取得した作者は、ケント大学卒業後一度は音楽家の道を志すも、その後小説を書き始める。デビュー作から3作続けて大きな文学賞を受賞した作者は、瞬く間にイギリスを代表する作家へと登りつめる。
 作者が綴る作品の最大の特徴は、その「格調高い本格的英国式文体(?)」にあると言えそう。こういう格調高い文体が好きな人にはたまらないかもしれないが、自分のようにまだまだ読解力不足の人間にとっては、読んでいてかなり辛いものがある。




NEVER LET ME GO  10/10/30 更新

 読み易さ 
 面白さ    お勧め

「介護師」として働く31歳のキャシーが、これまでの人生を回想しながら物語が進む。キャシーは、イギリスののどかな地方の私立学校で学んでいたが、そこは外界からは隔絶された世界だった。親友のルースは気の強い少女だが、二人でいるときには何でも話せる間柄だった。周りからなにかとからかわれている少年のトミーも、なぜかキャシーにとっては気になる存在で、いろいろな話をするようになる。やがて思春期を迎える頃になってルースとトミーが交際を始め、それまでの3人の関係が微妙に変化していく。そんな3人には、「ドナー」として臓器を提供するという、クローン人間としての過酷な運命が待っていた。

 激しく面白かった。クローン人間として生まれた子供たちをメインにストーリーが展開していくのだが、特にSFやミステリー、あるいはホラー作品ということではない。キャシーの回想を軸にして物語が展開され、ごくありふれた出来事が淡々と語られていくだけなのだが、懐かしくてどことなく切ない感じが妙に心に響く作品だった。
 イシグロ氏の作品はこれまでに何冊か読んだだけだが、正直なところ雰囲気だけの作家だと思っていた。しかし、この作品に関する限りは、その雰囲気も含めて非常に素晴らしい出来だと思う。何気ない会話や仕草から、相手の気持ちを推測するシーンが随所に出てくるのだが、このあたりの描写が実に細やかでリアリティがあって、どんどんストーリーに引き込まれていった。早く先が読みたいと思いながらも、残りのページ数が少なくなってくるのが寂しいという、なんとも悩ましい気持ちになった。クローン人間の是非や倫理観などといった難しいことは考えなくても、この悲しくも美しい世界を読むだけで、読書の快楽を十分に堪能できる作品だと思う。



AN ARTIST OF THE FLOATING WORLD  07/03/24 更新

 読み易さ 
 面白さ   

物語の舞台は、戦後間もない1948年の日本。著名な画家である主人公の小野鱒二は、戦争で妻と長男を失うが、二人の娘と孫が残された。そんな鱒二の気がかりは、戦争のために結婚が遅れた次女の範子のことだった。一度破談になった苦い経験から慎重に次の縁談を進める鱒二は、自分の過去が原因で破談になったのではないかと思い悩む。鱒二には、戦意高揚のための絵を描いていたという過去があった。時代の変化に翻弄されながらも自分を見失うまいとする主人公の心の内を繊細なタッチで描き出す。

  時代に取り残された人間の悲哀を描いた作品、とでも言うべきか。戦後の日本という舞台と、主人公の回想でストーリーが展開していくところは、デビュー作の "A Pale View of Hills" と同じだ。特に「主人公の回想」というのは、これまでに読んだイシグロ作品すべてに共通するキーワードになっている。これがイシグロ氏の得意なスタイルということだろう。
 この作品では、主人公の微笑ましいキャラクターが光っている。カウボーイごっこをして遊んでいる孫を見て「吉宗将軍のマネか?」と尋ねたり、8歳になったばかりの孫に「そろそろ酒でも飲んでみるか」と言ってみたりと、頑固オヤジの鱒二さんがかなりいい味を出している。



A PALE VIEW OF HILLS  04/07/18 更新

 読み易さ 
 面白さ   

物語の舞台は第二次世界大戦後の長崎。現在はイギリスに住む悦子が、長崎での暮らしを回想しながらストーリーが進んでいく。戦争で大事な家族を失い、すべての価値観が崩壊する中で、けなげにたくましく生きていく人たちの姿が、主人公悦子の視線を通して淡々と語られる。

 著者の記念すべきデビュー作。まず特筆すべきは、その読みやすさ。以前に読んだ2作とは比べ物にならないくらいに読みやすい。
 ストーリーの方はと言うと、淡々としたタッチで淡々とした切なさが描かれていく感じで、なかなかに味わい深い。"The Remains of the Day" も同じように淡々としたタッチだが、とにかく文章が難くて作品自体を味わう余裕はなかった。しかし、これくらい易しい文章で書いてあれば、充分に作者の世界を楽しむことができる。
 それにしても一つ気になったのが、主人公がイギリスに渡ることになった理由がまったく書かれていないということ。最後まで期待しながら読んだのだが、結局なにも種明かしはないままに終わってしまった。なんだか肩透かしを食らったような感じで、少しだけ後味の悪さが残った。



WHEN WE WERE ORPHANS  03/07/11 更新

 読み易さ 
 面白さ   

幼少期を上海で過ごす主人公のクリストファーを、両親の相次ぐ失踪という悲劇が襲う。叔母を頼ってロンドンに移り住んだクリストファーは、やがてイギリスで最も有名な探偵になる。両親の失踪はアヘンの取引にからんで誘拐されたものと考えたクリストファーは、上海に渡り当時の記憶を頼りに調査を開始する。第二次世界大戦直前の中国で調査を進めるクリストファーは、無事に両親を救い出すことができるのか?

 最初からなんだかダラダラとした展開で、このままダラダラとしたまま終わるのかと思って読んでいたら、残り100ページくらいのところでいきなり主人公が自分勝手に暴走を始めたので驚いた。あまりにも唐突な暴走なので、理由がよくわからなかった。特に、重傷を負った友人のアキラを自分の捜査に協力させるところは、まったく理解できない。友人だったら、まずは病院に連れていくのが当たり前だと思うのだが。
 こういう独特な雰囲気を持った作品というのは、好きな人は好きなんだろうと思う。しかし、自分にとっては雰囲気だけの作品で、少しも面白くなかった。



THE REMAINS OF THE DAY  01/12/04 更新

 読み易さ 
 面白さ   

舞台は1952年のイギリス。アメリカ人の雇い主に執事長として仕える主人公のスティーブンスは、それまではイギリス人貴族に仕えていた。雇い主が変わると同時に何名かのスタッフも辞めてしまい、人手不足による小さなミスが邸内で度々起きるようになる。そんなある日、以前の部下のミス・ケントンからの手紙がスティーブンスのもとに届いた。その手紙を読み、ミス・ケントンはあまり幸せな生活を送っていないのでは、と感じたスティーブンスは、休暇を取り数十年ぶりに彼女に会いに行く。

 よく言えば格調高い、悪く言えばくどい文章で、かなりストレスを感じた。こういう作品を読むには、自分の力ではまだ100万年くらい早いということを痛感した。
 ストーリーは、主人公が旅の途中で自身の経験を回想しながら語っていくという形式。ストーリーの途中で、イギリス人の主人公がアメリカ人の雇い主のジョークに戸惑う場面があり、これを気にした主人公はラジオのバラエティ番組でジョークの勉強を始めるというところが面白かった。同じ英語ネイティブであっても、イギリス人とアメリカ人とではまったく気質が違うことだろう。



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