GRAHAM GREENE 




 キリスト教をテーマにした作品を多く遺したイギリスの作家。
 1904年にハートフォードシャーに生まれた作者は、オックスフォード大学在学中から詩や短編小説などを書き始める。この頃にカトリック宗に入信し、このときの体験が後の作品に影響を与えたと言われている。大学卒業後はロンドンのタイムズ誌でジャーナリストとして勤務し、1929年に作家としてデビューする。その後は純文学やミステリー、戯曲などのさまざまなジャンルの作品を発表し、1991年に亡くなる。生前に何度もノーベル文学賞の候補になりながら、結局この賞を受賞することはなかった。
 イギリス文学ということで難解な文章を想像しがちだが、作者の書く文章はそれほど難しくはない。純文学作品だけでなくエンターテイメント作品も書いているので、自分の好みのジャンルを選んで読んでみたい。




OUR MAN IN HABANA  13/05/05 更新

 読み易さ 
 面白さ   

物語の主人公は、キューバの首都ハバナで掃除機の販売店を経営するイギリス人男性のワーモルド。ある日、ワーモルドの店を訪れたイギリス人のホーソンは、自分がイギリスのシークレット・サービスの人間であることを告げ、ワーモルドをスパイとしてスカウトする。金に困っていたワーモルドは報酬目当てにこの話を受けるが、実際には何もスパイ活動をせず、架空のレポートを創作して本部に送っていた。しかし、本部ではこのレポートを信用し、ワーモルドの活動を支援するべく、ベアトリスという女性秘書をワーモルドのサポート役として付ける。自分の嘘がばれるのではないかと心配するワーモルドだったが、自分の周囲で次々に事件が起こり、やがてワーモルド自身も敵から命を狙われることになる。

 ワーモルドのあまりの能天気ぶりに、読んでいてかなり脱力した。なにしろ、まったく危機感を抱くことなく、適当に嘘ばかりをでっち上げているので、さすがにどうかと思った。こういう能天気な主人公の場合、作品全体をもっとコメディタッチにすれば面白くなると思うのだが、けっこうシリアスな展開もあったりするから、どうにも中途半端な印象だ。この作品は映画化もされていて、その映画はコメディ作品として仕上がっているらしい。機会があれば、その映画を観てみたい。



A BURNT-OUT CASE  13/04/14 更新

 読み易さ 
 面白さ   

クエリーという男が、船に乗ってアフリカの村にやってくるところから物語は始まる。クエリーは著名な建築家だったが、自分の仕事にまったく興味が持てなくなり、自分を知っている人間がだれもいないアフリカを自分の住処として選ぶ。その村には、カトリック教会が経営するハンセン病患者のための病院があり、クエリーは院長のコリンに頼んで新しい病院の建設に協力する。しばらくは平和な生活を送っていたが、新聞記者がクエリーの居所を突き止め、それまでの栄光を捨てて未開の地で病院建設に携わるクエリーを賞賛する記事を書く。クエリーは、本当の自分とはかけ離れた記事に憤慨するが、クエリーに対する周囲の評価はさらに一人歩きを始める。そんなクエリーは、ひょんなことから厄介なトラブルに巻き込まれてしまう。

 最初は退屈だったが、トラブルメーカーのライカーとその妻のマリエが登場したあたりからストーリーが動き始め、理不尽な結末を迎えるラストはなかなか面白かった。
 クエリーは、若いうちこそ、著名な建築家としての地位や名声に満足していたが、次第に嫌気がさしてきて、最後にはアフリカに逃げ出すくらいに辟易してしまうのだけれど、結局、アフリカでもそれまで経歴が邪魔をして過去の自分からは解放されないという皮肉さが面白い。それに、クエリーのキャラクターも、クールでカッコいい。実際にこういう人間がいるとは思えないけれど、自分も富と名声に辟易するような人間になってみたい。



THE LAST WORD AND OTHER STORIES  11/10/08 更新

 読み易さ 
 面白さ   

19歳のときに書いた作品から85歳のときに書いた作品まで、バラエティに富んだ12編の作品を収めた短編集。

 グリーン氏としては異色とも思えるミステリー作品まで収められているが、大半の作品は大して面白くない。というか、自分のように頭の悪い人間にはよくわからない作品が多い。しかし、"The Moment of Truth" は面白かった。
 癌に侵され、自分の死期が近づいていることを悟るウェイターが、店の常連客の夫人と親しく言葉を交わすようになり、この夫人に自分の病気のことを打ち明けようとするのだが、なんとも締まらないオチが待っているというストーリーだ。このウェイターの気持ちもよくわかるし、夫人の気持ちもよくわかる。こういう気持ちのすれ違いというのは日常的によくあることだ。この作品では、癌に侵されたウェイターの告白という重いテーマであるだけに、滑稽でありながら悲しくもある。結局のところ、人間というのは、自分が誰かにとっての特別な存在であると思いたがる生き物だということだろう。



THE HEART OF THE MATTER  08/02/09 更新

 読み易さ 
 面白さ    そこそこお勧め

物語の舞台は、第二次大戦中のイギリス植民地であるアフリカの国。その国の警察署で副署長を務めるスコービーは、土地の生活に慣れない妻のルイーズが南アフリカに移住したいと繰り返し訴えることに頭を悩ませていた。金策に困ったスコービーは、何かと悪い噂の多いユーゼフから金を借りてルイーズを南アフリカへ送る。その後、船の遭難で夫を失ったヘレンという親子ほどに歳の離れた若い女性と知り合い、愛し合うようになる。しかし、ヘレンに宛てた手紙がユーゼフの手に渡ってしまい、スコービーは窮地に陥る。そんなとき、ルイーズが南アフリカから戻って来たため、スコービーの苦悩はさらに深いものになる。破滅へと向かうスコービーが選択した解決策とは。

 なんとも救われないお話だ。スコービーのように誠実で真面目な人間が救われないとは、なんとも悲しい。いや、誠実で真面目だからこそ救われなかったのだろう。そして、そんな誠実な人間がキリスト教を信仰していたからこそ、さらに救われなかったのだろう。もっといい加減な人間なら、適当にワイロをもらって私腹を肥やし、若い女性を妾にしてそれなりに人生を楽しむことができるのだろう。そんな人間にとっては宗教など邪魔なだけで、何の救いにもなりはしない。宗教のために救われなかったスコービーのなんと哀れなことか。その人によって救いにもなれば破滅にもなり得る、それが宗教というものなのだろう。



THE POWER AND THE GLORY  06/07/22 更新

 読み易さ 
 面白さ   

物語の舞台は、社会主義政権下でキリスト教弾圧が行われているメキシコ。国家権力を行使し、すべての神父に対して還俗するように圧力をかける政府から逃れ、一人逃亡生活を続ける神父がいた。酒に溺れ、戒律を破って隠し子までも作ってしまったこの「不良神父」を捕らえようと、警察は村の住人を人質に取り、神父のあぶり出し作戦を展開する。特に信仰に篤いわけでもない自分がなぜこうしてまで神父を続けているのか、その意味を考えながら逃亡を続ける神父。逃亡の果てに見たものは、国家権力の横暴か、それとも神の栄光か。

 この神父がここまで神父の職にこだわったのは、つまるところプライドの問題らしい。プライドにこだわって神父を続けていくうちに、仲間の神父が次々に還俗し、気がついたら自分だけになっていた、ということか。なんとも間抜けな話ではある。このあたりの心理が読んでいてもよくわからないので、なんとも消化不良を感じた。そもそも自分は、宗教がらみの話になると体質的に受け付けないようだ。
 読んでいて唯一面白かったのが、この神父が法律で禁止されている酒を買うときのエピソード。ブランデーならあると言う相手に対して、ワインをくれとしつこく頼む神父。できればフランスワインがいいけど、カリフォルニアワインでもかまわないと言う神父には、酒飲みのくせに意外に好みがうるさくて、思わず笑った。



THE THIRD MAN AND THE FALLEN IDOL  06/07/01 更新

 読み易さ 
 面白さ   

売れない作家のマーティンズは、親友のハリーに会いに終戦後のオーストリアを訪れる。しかし、オーストリアに着いた早々に、ハリーは交通事故で亡くなったと知らされる。事故の現場に居合わせた人たちと会って話を聞いていくうち、マーティンズはハリーの死に疑問を抱き始める。ハリーは事故死ではなく殺されたのではないかと考えたマーティンズは、これまで明らかにされなかった「第三の男」が事故の現場にいたことをつかむ。それと同時に、生前ハリーが何かの密売に手を染めていたことも発見する。はたして、ハリーが関わって密売とは何か、そして第三の男の正体とは? 短編"The Fallen Idol"も併せて収録。

 おそらく映画の方が有名だろうと思われる「第三の男」。作者は映像化を前提にこの作品を書いたらしく、たしかに映画で観たら面白いのかもしれない。しかし、文字にして読むとイマイチ。特に意外な展開というわけでもないし、ドキドキハラハラのサスペンスというわけでもない。ただ、売れない作家のマーティンズが、同名の著名な作家と勘違いされる場面は面白かった。心の中で毒づきながら、ファンが持ってきた本にサインをするところなんかは笑える。
 そんなわけで"The Third Man"はイマイチだが、もうひとつの短編"The Fallen Idol"は面白かった。ちょっと怖くて、ちょっと哀れで、ちょっと悲しい。子供にとっての嘘と、大人にとっての嘘の違いとうものを考えさせられた。



THE END OF THE AFFAIR  06/06/24 更新

 読み易さ 
 面白さ   

作家のモーリスは、友人ヘンリーの妻であるサラと不倫関係を続けていた。お互いに深く愛し合う二人だったが、ある日モーリスが空襲に遭い、倒れてきたドアの下敷きになるという事故が起きる。この事故の翌日からサラはモーリスを避けるようになり、二人の関係は突然に終わりを迎えてしまう。自分のほかに男ができたのではと疑うモーリスは、私立探偵を雇い、サラの部屋から日記帳を盗み出す。その日記帳には、サラがモーリスの元を去った真の理由が書かれていた。

 先にネタばらしをしておくと、ドアの下敷きになったモーリスを見てもう手遅れだと思ったサラが、「神様、この人を生き返らせてくださったら、私はこの人とは二度と会いません」と神様に誓ったためにモーリスの元から去ったというのが真相。いや、そんなバカな。いくらなんでも、そんなことで大事な人と別れる人なんかいないだろう。もしお祈りをするにしても、「この人を生き返らせてくれたら、私はずっとこの人を大事にします」なんて祈ればいいわけだから。
 作者もカトリックに改宗した過去があるため、そうしたことも作品の背景になっているのだろうが、こういう宗教がらみの話になると、無宗教の自分は途端に興味が失せてしまう。最初はミステリアスな展開で面白かっただけに残念。



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