PHILIP K. DICK 




 多くのSF作品を残したアメリカの作家。
 1928年にシカゴで生まれた作者は、生後間もなく双子の妹を亡くし、幼い頃に両親の離婚を経験する。カリフォルニア大学に進学するが、2度の結婚と離婚を経て大学を中退し、その後、創作活動を始める。1952年に最初の作品が出版されてからは専業作家として創作活動を続け、多くの作品を発表する。しかし、商業的に成功したとは言えず、創作活動を続けるために新しい作品を次々に書くという自転車操業の状態が続いた。薬物に手を出して自殺未遂をするなど、精神的に不安定な状態になり、薬物中毒施設への入院なども経験する。1968年に出版した「Do Androids Dream of Electric Sheeps?」の映画化の企画が進み、作家としての成功がようやく見えてきたが、映画化された「ブレードランナー」公開直前の1982年に脳卒中で53年の生涯を終える。
 SF作品ということでいろいろな造語が出てくるため、それほど読みやすくはない。非常に多くの作品を残しているので、メジャーな作品だけでなくマイナーな作品を読んでみるのも面白いと思う。




A SCANNER DARKLY  10/08/07 更新

 読み易さ 
 面白さ   

物語の舞台は近未来のアメリカ。ここでは、「Substance D」と呼ばれる危険なドラッグが流行していた。このドラッグの供給元を突き止めようと、麻薬捜査官のフレッドが「ボブ・アークター」という名前で潜入捜査を行う。ドラッグ仲間とともに共同生活を送り、自らも「Substance D」を摂取しながら捜査を続けるフレッドだったが、ある日、上司からアークターの監視を命じられる。上司や同僚にすら自分がアークターとして捜査していることを隠していたフレッドは、自宅に仕掛けられた隠しカメラで自らを監視するという奇妙な立場に追い込まれる。ドラッグを続けながら自分自身を監視していくうち、フレッドの自我が次第に崩壊し始めてゆく。

 俗語がやたらと多くて、とにかく難しかった。ジャンキー同士の意味不明な会話がストーリーのかなりの部分を占めているため、こうした会話部分は読んでいてかなりストレスを感じた。
 そんな感じで、途中まではあまり面白くなかったのだが、物語の後半でフレッドが次第に壊れていくところの描写がなかなか面白かった。作者自身もドラッグに溺れていたことがあるから、おそらくこれに近いことは経験しているのだろう。後書きにも書いてあるが、ドラッグというものは、その一瞬の快楽という報酬に対して、その後の代償があまりにも大きい。作者のドラッグ仲間の大半がドラッグのせいで命を落としているという事実だけでも、その恐ろしさがよくわかる。この作品はSF作品というよりも、むしろドラッグの恐ろしさを描いた啓蒙書というべきかもしれない。



DO ANDROIDS DREAM OF ELECTRIC SHEEP?   10/07/24 更新

 読み易さ 
 面白さ   

物語の舞台は近未来のサンフランシスコ。世界大戦後の地球は死の灰に覆われ、多くの人間は火星の植民地に移住していた。地球上では生きた動物が非常に貴重な存在として扱われ、生きた動物を飼うことが人々のあこがれとなっていた。火星から逃亡してきたアンドロイドを処分する「賞金稼ぎ」のリックも、電気仕掛けのヒツジを飼いながら、生きた動物を飼うことを夢見る一人だった。そんなとき、同僚の賞金稼ぎがアンドロイドに襲われて入院し、6人のアンドロイドをリック一人が追いかけるというチャンスが巡ってくる。外見上は人間そっくりなアンドロイドだったが、他者に対する感情の持ち方だけが人間とは異なっていた。そんなアンドロイドを追いかけるうち、リックの心の中に自分に対する疑問がふくらんでいく。

  映画「ブレードランナー」の原作らしい。自分はこの映画は観たことがないのだが、この原作はかなり地味で、このままでは映画にはならないだろうから、原作とは大きく違った内容の映画になっているのだろうということは想像できる。
 ということで、SF小説としては少しばかり地味な内容だと思う。これは、派手なアクションよりも、各キャラクターの心理描写に重点が置かれているためだろう。リックがアンドロイドの女性と寝てしまい、思わず情が移ってしまうところや、物語のラストで鬱気味の妻がリックを思いやるところなどは面白かった。ただ、6人のアンドロイドを処分するシーンがあまりにもあっさりと描かれているため、少しだけ物足りなさを感じた。もう少し派手なアクションがあってもよかったと思う。



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