AGATHA CHRISTIE 




 説明不要のイギリスの女流ミステリー作家。
1890年にデボン州で生まれた作者は、早くから小説を書き始め、1920年に発表された "The Misterious Affair at Style" で作家デビューを果たす。この作品で名探偵エルキュール・ポアロとパートナーのヘイスティングスを登場させ、一躍人気を博し、その後も数多くの名作を残し、20世紀を代表するミステリー作家と呼ばれるほどの活躍をする。純粋な「謎解き」を主題にした作品が中心で、後のミステリージャンルに多大な影響を与えた作家。
 英文のレベルとしては比較的易しい。1冊のボリュームも200〜300頁くらいの作品が大半なため、ペーパーバック初心者も気楽に読めるはず。ただ、ベルギー人のポアロがフランス語を連発するので、その部分はちょっとイライラしてしまうかも。




EVIL UNDER THE SUN  17/07/17更新

 読み易さ 
 面白さ   

避暑地の島で過ごすポアロは、同じホテルに滞在する旅行客たちと知り合い、穏やかな時間を過ごす。しかし、滞在客の一人であるアリーナという女性が、何者かに絞殺されるという事件が発生する。アリーナは、同じ滞在客のパトリックと不倫関係にあった。現地の警察は、アリーナの夫であるケネスに疑いを持つが、ケネスには完璧なアリバイが存在していた。ポアロは警察と協力して捜査を行うが、ケネスをはじめとして、怪しいと思われる人物にはいずれも完璧なアリバイが存在し、捜査は難航する。

 意外な真犯人という点では、クリスティ氏の作品の中でもかなり高いレベルに位置しているのではないだろうか。まあ、頭の悪い自分は一度も犯人を当てたことはないのだけれど、それを差し引いても、トリックのレベルはかなり高いと思う。ただ、現実的に考えるとかなり無理のあるトリックで、実際には不可能だろう。また、殺人の動機もかなり薄弱だ。どこをどう読んでも、なぜここまでの危険を冒してまで殺さなければならないのかがわからない。この状況であれば、絶対に殺人なんてしないだろう。それと、いつものことながら、ポアロの推理だけで事件が解決してしまうのもいただけない。確実な物証が何一つないというのでは、やっぱり説得力に欠ける。
 意外性の高いトリックを成立させることだけに汲々としているような感じで、ストーリー全体のリアリティや説得力がかなり犠牲になっているけれど、純粋にトリックだけを楽しむのであれば、その期待には十分に応えてくれる作品だと思う。



PERIL AT END HOUSE  17/05/14更新

 読み易さ 
 面白さ   

イギリスの保養地でヘイスティングとともに休暇を楽しむポアロは、ニックという若い女性と知り合う。最近になって3回も危険な事故に遭い、命を落としそうになったと話すニックは、去り際に帽子を忘れていく。その帽子に銃弾が貫通した穴を見つけたポアロは、何者かに命を狙われているニックを守るため、彼女が所有する「エンド・ハウス」を訪れる。ニックは、ポアロの勧めで、従妹のマギーをエンド・ハウスに呼び寄せるが、マギーのことをニックだと間違えた犯人により、マギーが殺害されてしまう。自分の責任を痛感するポアロは、必死の推理で犯人へと迫ってゆく。

 この作品は、現役を引退したポアロが旅先で事件に巻き込まれるという設定になっているが、これまでに読んだポアロシリーズとは違い、ポアロがヘマばかりするのが新鮮で面白かった。ポアロといえば、自分の頭脳に絶対的な自信を持ち、尊大な振る舞いで鼻持ちならないところが特徴なのに、この作品では犯人にいいように振り回されて、かなりヘコんでいるのが面白い。やっぱり、人間というものは謙虚にならなければいけないよ、ポアロ君。
 ストーリーとしても、意外な人物が犯人で、けっこう面白かった。とはいっても、自分はバカなので、いつも作者のミスリードに乗ってしまうのだが、ミステリーを読み慣れた頭のいい人であれば、途中で犯人の見当がつくのかもしれない。



THE SEVEN DIALS MISTERY  17/02/12更新

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 面白さ   

若い男女がどこぞの宿に泊まり、そのうちの一人がいつも昼近くまで寝ているので、驚かせてやろうと思って8個の目覚まし時計を枕元に置いたところ、翌朝その寝坊の男子が死んでいた。さらに、その男子の友人も殺害されたりして、そんなこんなで唐突に謎の秘密結社が出てくる。話の流れがよくわからないまま、若い女子を中心に謎解きが進んでいく、みたいな感じ。

 とにかく話の展開がわかりにくい。導入部はそこそこ面白かったけれど、そこから謎の秘密結社が登場してくるあたりの流れが唐突すぎて、ついていけなくなった。途中で何度も放り出そうかと思ったくらいにつまらなかった。これはミステリーというよりも、主人公の女子を中心とした冒険物語とでもいうべき作品で、通常のクリスティ氏の作品と比べてかなり異質な作品だと思う。ラストのどんでん返しは意外なオチだったけれど、そこまでの過程があまりにもドタバタすぎて、少しも面白くなかった。



CARDS ON THE TABLE  17/01/15更新

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 面白さ   

ポアロは、とあるパーティーで知り合ったシャイタナという人物の誘いに応じて、シャイタナの自宅で開かれたパーティーに出席する。ポアロを含めて8人の客が集まり、2組に分かれてブリッジが開始される。シャイタナはポアロたちとは別の組のブリッジを観戦していたが、いつの間にか胸にダガーを刺されて死亡していた。必然的に、容疑者は同じ部屋でブリッジをしていた4人に絞られ、別の部屋でブリッジをしていたポアロ、ロンドン警視庁のバトル警視、女流ミステリー作家のオリバー夫人、諜報部員のレイス大佐がそれぞれ独自の方法で捜査を開始する。ポアロが最初に注目したのは、なぜかブリッジのスコアカードだった。

 最初から容疑者が4人に絞り込まれているというのがわかりやすくていい。ポアロとバトル警視が容疑者を1人ずつインタビューしていくという形式でストーリーが進んでいき、特にこれとった山場もないままラストまで来るのだが、ラストはいきなり二転三転のどんでん返しが待っていて、なかなか面白かった。
 しかし、ラストのポアロによるミスリードはちょっとやりすぎで、読者をだまそうという意図しか感じられず、ストーリー全体で見た場合の必然性に欠けていて、ちょっとどうかなと思う。また、決定的な物証が皆無で、ポアロの独善的な推理だけで事件が解決するのも、相変わらずといえば相変わらずだ。ただ、こうしたことを除けば、よくできたミステリーだとは思う。



SLEEPING MURDER  16/08/21更新

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 面白さ   

21歳のグエンダは、新婚の夫であるジャイルズと住むための新居を探しにイングランドを訪れ、一目で気に入った家を購入する。しかし、その家はグエンダが3歳のときに住んでいた家だということがわかり、その家の中でヘレンという名前の女性が首を絞められて殺されたときの映像がグエンダの脳裏によみがえる。夫のジャイルズとともに18年前の事件を調べようとするグエンダに、ミス・マープルは「過去の事件を蒸し返さない方がいい」と忠告するが、二人は過去を知る人たちに会って当時の話を聞き出していく。その過程で、いまは亡きグエンダの父親が殺人犯なのではないかと疑い始める。

 これは、クリスティ氏が亡くなった後に出版された作品で、ミス・マープルシリーズの最後の作品ということになっているけれど、実際に執筆されたのはクリスティ氏の黄金期である1943年だったらしい。ポアロシリーズにしろ、このミス・マープルシリーズにしろ、クリスティ氏の書く作品には決定的な物証が登場することはほとんどないけれど、この作品も過去の殺人を調べるという設定になっているため、余計に物証など出てこない。相変わらず、ミス・マープルの独善的な推理だけが展開されるので、イマイチ納得できない。ただ、意外な人物が真犯人だったので、その点については面白かった。自分は頭が悪いのでコロっとだまされてしまったけれど、ミステリー好きの頭のいい人ならば、もしかしたら意外でもなんでもないのかもしれない。



POIROT INVASTIGATES  16/05/15更新

 読み易さ 
 面白さ   

ポアロとヘイスティングスが活躍する短編を14作収めた短編集。

 なんだかわかりにくい作品が多い。説明が不親切で、読み終わってからも何度か読み返してようやく納得する、といった感じの作品がいくつもあった。回収されていない伏線もいくつかあったような気がする。これは、自分の頭が悪いせいだとは思うけれど、読者は頭のいい人たちばかりではないわけだから、そういう人たちにもわかるように、もう少し丁寧に説明してほしい。
 ただ、ポアロとヘイスティングスの掛け合いは相変わらず楽しくて、これだけでも読む価値がある。ポアロに散々バカにされながら、それでもポアロを慕うヘイスティングスが愛しすぎる。



HALLOWE'EN PARTY  16/04/24 更新

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ハロウィンパーティーの準備を手伝っていた女性ミステリー作家のオリバーは、13歳の少女ジョイスが「以前に殺人事件を目撃したことがある」と話しているのを聞く。いつも嘘ばかりついているジョイスはだれにも信じてもらえないが、絶対に嘘ではないと言い張る。やがてパーティーが終了し、水の入ったバケツに顔を押し込まれて溺死しているジョイスが発見される。ジョイスの発言が事件に関係しているのではないかと考えたオリバーは、友人であるポアロを訪ねて詳細を説明する。話を聞いたポアロは調査に乗り出し、過去に起きた不審な事件とジョイスの発言との接点を見つけようと奔走する。

 この作品はクリスティ氏のキャリアの晩年に書かれたものらしく、登場するポアロもかなり歳をとっている。しかし、決定的な証拠がまったくないにもかかわらず、独善的な推理だけで強引に事件を解決するやり方は少しも変わっていない。まあ、そのあたりの強引さもストーリーが面白ければそれほど気にならないけれど、この作品では過去の事件をほじくりかえすだけで、ハロウィンパーティーで起きた事件とのつながりがまったく見えないので、読んでいて少しだけ退屈だった。それに、何人も殺しているわりに動機が弱いということも感じた。しかし、全体的な仕掛けはやっぱりさすがだと思う。



ABSENT IN THE SPRING  16/04/10 更新

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イラクに住む娘を訪ねたジョアンは、イギリスに帰る途中で足止めを食らい、荒涼とした砂漠の真ん中に建つ宿屋で数日を過ごすことになる。話し相手もおらず、読むべき本もないジョアンは、強い日差しが照りつける砂漠を歩きながら、あるいは暗い部屋のベッドに横たわりながら、これまでの自分の人生を振り返る。弁護士のロドニーと結婚して3人の子供に恵まれ、その子供たちもすべて無事に独立したこれまでの人生は幸せだったと信じて疑わなかったが、そう思っているのは自分だけで、夫や子供たちは独善的な自分に不満を持っていたのではないかと考え始める。妻として母親として正しいことをしてきたと信じていたジョアンだったが、それが家族にとって負担になっていたことに気付いたジョアンは、イギリスに帰ったら夫に謝って新しい人生を始めようと決意する。

 この作品はMary Westmacott名義で書かれたもので、ミステリーではない。それを知らずに、普通のクリスティ作品のつもりで読み始めたものだから、なぜ一向に事件が起きないのか不思議だった。途中まで読んで、ようやくミステリー作品ではないということに気付いたが、そこはさすがにクリスティだけあって、ミステリー的な要素を持たせながら最後まで読者を引っ張る展開になっている。
 こういう一見よくできた女性というのはどこにでもいそうな感じで、思い当たるフシがある人も多いだろう。しかし、実際にこういうタイプの人間がこれまでの自分を反省するなんていうことはまずないと思う。こういう人というのは、自分が絶対に正しいと確信しながら一生を過ごすものだ。なぜなら、それが一番楽な生き方だから。周囲の人間から愛されていないとわかったときに悲しい思いをするのはイヤだから。それはともかく、この作品は最後の一行が非常に効いている。この作品を読み終えて、いろいろと考えてしまった。



ELEPHANT CAN REMEMBER  15/07/27 更新

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ミステリー作家のミセス・オリバーは、とあるパーティーで見知らぬ女性から声をかけられる。その女性は、オリバーが名付け親になったセリアの婚約者であるデスモンドという青年の母親だった。この母親は、十数年前に起きたセリアの両親の心中事件について「夫が妻を殺してから自殺したのか、妻が夫を殺してから自殺したのか」を知りたいとオリバーに尋ねる。この話に興味を持ったオリバーは、友人であるポアロに相談を持ちかける。

 本作が、ポアロシリーズの最後の作品になるらしい。80歳を超えたアガサ・クリスティが書いた作品ということで、この歳になってもミステリーを書き続けるのは純粋にすごいことだと思う。しかし、肝心のストーリーはというと、残念ながらそれほど面白くない。ポアロとオリバー夫人の会話がダラダラと続くばかりで、あっと驚くような謎解きもないし、なんとも地味な印象だ。ポアロシリーズ最後の作品だとか、80歳を超えたアガサ・クリスティが書いた作品だとかいう付加価値がなければ、退屈なミステリー小説という評価になってしまう。



ENDLESS NIGHT  15/05/10 更新

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ジプシー・エーカーと呼ばれる土地を訪れたマイクは、自分が理想とする風景に出会い、そこに家を建てたいという夢を持つ。その土地でエリーという女性と知り合ったマイクは、自分の夢をエリーに語る。エリーもマイクの夢に共感し、やがて二人は結婚する。アメリカ人の大富豪の娘であるエリーのおかげで、二人が夢に描いた家をジプシー・エーカーに建てる。幸せな結婚生活が始まるかに思えたが、ジプシーの女性から「この土地は呪われている。いますぐこの土地から出ていかないと恐ろしいことが起きる」と言われ、エリーの不安が募っていく。そんなある日のこと、乗馬に出かけたエリーが森の中で死体として発見される。

 クリスティ氏の作品としてはかなり異色な作品で、最初はかなり戸惑った。文章もなんだか重い感じだし、ダラダラと物語が展開するだけで、肝心の事件が一向に起きる気配がない。本当にこれはミステリー作品なのだろうかと、読みながら何度も思ってしまった。なにしろ、全体の4分の3を越えたあたりでようやく最初の事件が発生するのだ。オチについても、あまりにもずるいオチで、読後感もよくない。ミステリー作品でこういうオチにするのは反則だと思う。
 クリスティ氏自身はこの作品のことを気に入っているらしく、自薦のベスト10にも入っているらしいが、単に読者をだまそうとするだけのオチというのは、読んでいてあまり愉快なものではない。それがフェアなオチならば大歓迎だけれど、反則技を使ってまでだまそうとするのは、それこそ反則だと思う。



4.50 FROM PADDINGTON  15/04/19 更新

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パディントン駅を午後4時50分に出発する列車に乗ったマギリカディ夫人は、並走する列車内で男性が女性の首を締めている現場を目撃する。友人であるミス・マープルにそのことを話し、警察にも捜査を依頼するが、死体は見つからない。線路沿いにあるクラッケンソープ家に死体が隠されていると推理したミス・マープルは、家政婦のルーシーにクラッケンソープ家の家政婦となって死体を捜すように依頼する。依頼を受けたルーシーは、納屋の中で女性の死体を発見するが、クラッケンソープ家のだれも、その女性に見覚えがない。被害者の身元もわからず、犯行の動機すらわからない状態で、さらに殺人事件が発生してしまう。

 車窓越しに殺害現場を目撃するという導入部は抜群に面白いけれど、それに対する謎解きがあまりにもしょぼい。ミス・マープルの勝手な推理ばかりで、決定的な証拠が何もない。ただ一つの証拠が、「車窓から見た犯人の後姿にそっくり」というマギリカディ夫人の証言だけなのだから、あまりにも説得力に欠ける。顔ならともかく、背中がそっくりってどうなんだろう。
 ということで、推理小説としては駄作ではあるけれど、こういうしょぼいオチでも最後まで読ませる技術は大したものだとは思う。自分もなんだかんだ言いながら、結局は最後まで面白く読ませてもらった。それだけに、謎解きの部分で裏切られてしまったという感じが大きく残るわけだけれど。



A MURDER IS ANNOUNCED  14/11/02 更新

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ある地元紙の広告欄に、殺人を予告する文章が掲載される。この文章に興味を抱いた近所の人たちが、殺人が予告されたブラックロック婦人の屋敷に集まる。皆、単なるゲームだろうと気軽に考えていたが、予告の時間になると屋敷の明かりが消え、拳銃を持った男が現れて発砲する。しかし、その男も自らの銃弾で倒れてしまい、謎だけが残る。まったく動機のわからない事件に手を焼く警察だったが、ミス・マープルの協力を得て事件の真相に迫っていく。

 ミス・マープル・シリーズの一作で、数あるクリスティー氏の作品の中でも代表作の一つとして挙げられるほど有名な作品らしい。たしかに、ミステリアスな導入部は読んでいてワクワクする。けれど、物語の中盤はなんだかダレてしまって、あまり物語に入り込むことができなかった。もちろん、物語の中盤に無駄な描写が多いというわけではなくて、細かい伏線がいろいろと張られているわけだけれど、自分の頭が悪いせいで、ラストになるまでいちいち覚えていられないので、そのあたりに少しばかりストレスを感じる。きっと、頭のいい人なら十分に楽しめる作品なのだろうと思う。



THE MURDER OF ROGER ACKLOYD  14/08/17 更新

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イギリスの小さな村で医者として働くジェームズ・シェパードは、友人であるロジャー・アクロイドから相談を持ちかけられ、アクロイドの屋敷を訪ねる。アクロイドは、自分が再婚を考えていた未亡人が何者かに脅迫を受け、そのことが原因で未亡人が自殺してしまったことをジェームズに打ち明ける。しかしアクロイドは、脅迫者の名を明かすことなくジェームズと別れ、その日の夜に刺殺体となって発見される。アクロイドの姪であるフローラから依頼を受け、エルキュール・ポアロが事件の捜査を開始する。アクロイドの義理の息子であるラルフ・ペイトンが犯人であることは、状況証拠からも疑いようがないとだれもが考えていたが、ポアロだけは別の可能性を探っていた。

 クリスティー氏の代表作として有名な「アクロイド殺し」だが、語り手が事件の犯人という構図は、斬新ではあるけれどやっぱりずるいと思う。たしかに意外性という意味では飛びぬけて意外な犯人だけれど、これはミステリー作品ではタブーの手法だろう。それに、納得できないトリックもある。遺体発見の現場にどうしても立ち会う必要があったジェームズは、自分の患者に頼んで離れた場所から事件を知らせる電話をかけさせるという手の込んだことをするのだが、こんな面倒なことをしなくても、アクロイドの屋敷にわざと忘れ物をするだけでいいはずだ。そうすれば、忘れ物を取りに来たという口実でだれにも怪しまれることなく、遺体の第一発見者になれる。これほど安全で確実な方法はないはずなのに、なぜ無理な方法をとったのかがわからない。
 いろいろと突っ込みどころはあるけれど、語り手が犯人であるということを知った上で読むと、また違った面白さがあると思う。そういう意味では、この作品は繰り返し読むのが正解だと思う。



THE BODY IN THE LIBRARY  14/02/16 更新

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ある日の早朝、バントリー家の書斎で若い女性の死体が発見される。その死体は、近くのホテルでダンサーとして働いていたルビー・キーンという女性のものであることがわかるが、バントリー家の人間とはまったく面識がない。警察の調べにより、ジェファーソンという富豪がルビーを養女として迎えるつもりであったことがわかる。ルビーが正式な養女になった場合、多額の遺産がルビーにわたることになるため、ジェファーソンと血縁関係にある人たちが疑いをかけられるが、いずれも明確なアリバイを持っている。夫の名誉を守りたいバントリー夫人は、友人であるミス・マープルに協力を求める。

 ミス・マープル・シリーズとしては、この作品が2作目の長編になるらしい。まったく予想していなかった結末で、トリックとしては見事だと思う。東野圭吾の「容疑者Xの献身」のトリックと少しだけ似ていると思った。もちろん、東野氏がこのトリックをパクったということではなくて、その発想に若干の共通点があるというだけのことだ。
 しかし、トリックの見事さに比べて、ミス・マープルの推理が強引なのがどうにもいただけない。まったく物証がないにもかかわらず、自分勝手な勘を頼りに頭の中でストーリーを組み立て、最後にはおとり捜査までやってしまうのだからタチが悪い。ミス・マープルに限らず、ポアロも同じように独善的な推理だけで事件を解決してしまう傾向がある。そんなこんなで、クリスティ氏の作品には、読後感はイマイチというものが多い。



THE THIRTEEN PROBLEMS  13/03/31 更新

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さまざまな経歴を持つ男女がミス・マープルの家に集い、それぞれが自分の知っている事件を語り出す。聞き手は自分の推理を披露していくが、だれも真相にたどり着くことはできない。しかし、ミス・マープルだけはすべての事件について見事に真相を突き止めていく。

 ミス・マープルを主人公とした、13の短編を収めた作品集。
 クリスティ氏のすべての作品に共通することだが、この短編集もやっぱりミス・マープルの推測だけで事件が解決していくのがいただけない。話の中に出てくる決定的な事実を基にして推理を組み立てていくのであればいいけれど、「私の経験からすると〜だから」みたいな勝手な理屈で推理を組み立てられてもなあ、と思ってしまう。そんな難点もあるけれど、単なる田舎のおばさんが見事な推理を披露していく様子は痛快ではある。普通に読めば普通に楽しめる短編集だと思う。



DEATH ON THE NILE  10/01/16 更新

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大富豪の娘で富と美貌を兼ね備えたリネットは、自分の欲しいものはすべて手に入れてきた。そんなリネットの親友ジャクリーンは、自分の婚約者であるサイモンの就職の世話をリネットに頼むが、一目でサイモンのことを気に入ったリネットは、ジャクリーンからサイモンを奪って結婚してしまう。新婚旅行にエジプトまで出かけた二人を待っていたのは、激しい怒りに燃えるジャクリーンだった。たまたま休暇で一緒に居合わせたポアロは、ジャクリーンの話を聞いて同情し、絶対に早まった真似だけはしないようにと説得するが、ジャクリーンの怒りは収まらない。そしてついに、ナイル河を渡る客船の船室で、リネットが何者かに銃で頭を撃ち抜かれるという事件が発生する。しかし、真っ先に容疑がかかるはずのジャクリーンには、完璧なアリバイがあった。早速捜査に乗り出すポアロをあざ笑うかのように、さらに2件の殺人事件が立て続けに発生する。複雑に絡み合う事件の真相に、ポアロの灰色の脳細胞が挑む。

 この作品はクリスティ氏の代表作の一つだが、相変わらずポアロの推測だけで事件が解決してしまうのが難点。決定的な証拠を出してくれればそれなりに納得できると思うのだが、クリスティ氏はどうしてもポアロの頭の中だけで事件を解決させたいらしい。それから、ストーリー内に手掛かりを出さずに、いきなり後出しでポアロが新しい事実の説明を始めるのもやめてほしい。ほんの少しでも伏線を張ってあるのならわかるが、いきなり「実はあなたはこれこれこうで〜」みたいな感じで新しい事実を説明されても困る。こういうのは、ミステリーにおいては反則技だと思うのだが、どうだろうか。
 そうは言っても、真犯人は最後までまったくわからなかった。このトリックは実際にはかなり無理があるとは思うが、読者の盲点を突いた秀逸なトリックであることは間違いない。現代の緻密なミステリーを読みなれている人にとってはいろいろと粗が見えるかもしれないが、こうした意欲的な作品の積み重ねがあって現在のミステリーの隆盛があるわけだから、そういう意味でも一読の価値はあると思う。



THE MURDER ON THE LINKS  08/11/01 更新

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フランスに住む資産家のルノー氏から、調査を依頼する手紙がポアロのもとに届く。ヘイスティングスを伴って早速フランスに渡ったポアロだったが、到着したときにはすでにルノー氏は殺害されていた。フランス警察の敏腕刑事であるジローが捜査を指揮し、ポアロに激しい対抗意識を燃やす。ポアロも負けじと独自の捜査を開始するが、そんな二人をあざ笑うかのように、第二の殺人事件が発生する。ルノー氏の遺産をめぐって複雑な人間関係が交錯する難事件を、ポアロはいかにして解決するのか。

 物語のラストはドンデン返しの連続で、ミステリー作品のプロットとしてはよくできているのだろうと思う。しかし、作品のボリュームの割にラストの展開がちょっとばかり複雑すぎて、込み入ったストーリーの苦手な自分にとっては、少々難しかった。作中で張られた伏線についても、いくつか未回収のものがあったような気がするが、これは自分の読み落としかもしれない。
 それはともかく、この作品の最大の読みどころは、愛すべきヘイスティングスの恋愛物語だろう。「The Mysterious Affair at Styles」でもいきなり 「Marry me」 と暴走したヘイスティングスだが、この作品でも突然「I love you」と告白してしまうお茶目さは健在だ。この暴走ぶりだけでも、読む価値は十分にある。 



BLACK COFFEE  04/01/04 更新

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ポアロのもとに、著名な科学者のエイモリーから調査の依頼が入る。その依頼内容は、戦争兵器に関する極秘書類を邸内の誰かが狙っている気配があるので、それを調べてほしいというもの。早速ヘイスティングスとともにエイモリー宅へと向かうポアロ。しかし、ポアロたちが屋敷に到着したときには、すでにエイモリーが何者かにより毒殺された後だった。それとともに、莫大な金銭価値のある極秘書類も金庫から盗まれていた。邸内の人間にインタビューをしながら、徐々に真相に迫っていくポアロの推理が冴え渡る。

 この作品は、クリスティのオリジナルではなく、戯曲のためにクリスティが書いた脚本を、Charles Osborne が小説の形に書き直したものらしい。事件の発生した部屋を中心に展開するストーリーは、いかにも戯曲的でわかりやすい。舞台上で演じる役者たちの姿が目の前に浮かんでくる感じで、なかなか臨場感がある。
 しかし、今回のポアロの推理はいつにも増して強引で、なおかつ思い切りわざとらしい。もともとが戯曲だからしかたない部分もあるのだろうが、小説としてはどうなんだろうか。 こういう作品をクリスティ名義で出版するのは、クリスティ氏としても不本意に思うかもしれない。



THE CLOCKS  03/10/13 更新

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ある日盲目の婦人の依頼で自宅を訊ねた若い女性タイピストが、居間に横たわる男性の死体を発見する。部屋に残された4つの時計がすべて4時13分を指しているという奇怪な事件を捜査するのは、ハードキャッスル刑事と友人のコリン。被害者の身元を特定できない状況に苛立ちを感じるコリンは、現役を引退して隠居生活を送るポアロに事件の相談をもちかける。はたしてポアロの推理は事件を解決へと導くのか、そして4時13分を指す時計に隠された意味とは?

 聞き込み調査は脇役に任せ、自分はアームチェア・ディテクティブを気取り、最後に美味しいところを持っていくという、ポアロファンにとってはたまらない展開の作品。しかしいつものことながら、ポアロの独善的な推理のみで謎解きが展開される部分はどうにも納得できない。やっぱり何作読んでもポアロは好きになれない。それにしても、この時計のミステリーについての謎解きはどうだろう。 いくらなんでも、このオチはないと思う。



FIVE LITTLE PIGS  03/05/01 更新

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ある日ポアロのもとを訪れた若い女性。彼女の依頼は、16年前に夫を毒殺した罪で有罪判決を受けた母親キャロラインの無実を証明することだった。当時の関係者にインタビューを行い、徐々に真相に迫って行くポアロ。状況証拠は明確にキャロラインの有罪を示していたが、ポアロ一流の推理でついに真犯人が明らかになる。

 お話の展開はうまいと思うが、いつもの通りにポアロの推論だけで成り立っているので、説得力があまりない。特にこの作品は過去の事件を調査するという設定なので、物証は皆無だ。とはいえ、そのあたりにあまり神経質にならなければ、よくできた作品だとは思う。しかし、ポアロの独善的な推理がどうにも鼻についてしかたない。人間の心理は、パズルを解くみたいに簡単なものではないはずだ。



THIRD GIRL  03/04/02 更新

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ある日ポアロを尋ねてきたのは、ノーマという若い女性。「殺人を犯してしまったかも知れない」とだけ告げて姿を消したノーマに興味を抱いたポアロは、調査を開始する。被害者すら不明な事件に手を焼くポアロの推理はいかに?

 思い切りつまらない。こういう本格的かつ古典的ミステリーの醍醐味というのは、まず最初に事件が起こって、一体誰が犯人なのかと推理しながら読むところにあるのに、この作品では肝心の事件が発生しないので、どうにも楽しみようがない。この作品は著者の晩年に書かれたものなので、それまでのパターンを覆して新しいパターンの作品を書きたかった、という目論見があったのかも知れないが、やっぱりつまらないものはつまらない。



THE MYSTERIOUS AFFAIR AT STYLES  03/03/26 更新

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スタイルズ荘の所有者であり、地元の富豪であるイングルソープ夫人が、何者かに毒殺されるという事件が発生する。スタイルズ荘に滞在していたヘイスティングスは、偶然に再会したポアロにこの事件の調査を依頼する。状況証拠は、夫人の夫であるアルフレッドが犯人であることを示していたが、ポアロは先入観にとらわれることなく調査を進める。

 ポアロシリーズの第1作。ということは、著者のデビュー作ということになるのだろうか。
 構成自体はよくできていると思うが、ちょっと詰め込みすぎという気がしなくもない。この作品では、いわゆる「ワトソン役」のヘイスティングスがいい味を出している。トンチンカンな推理で読者を巧みにミスリードしていく展開はお約束だが、何の前振りもなく突然女性キャラクターに "Marry me" とプロポーズしてしまう場面が最高に素敵だ。いきなりアクセル全開でヘアピンカーブに突っ込んでいくヘイスティングがたまらない。あまりのインパクトに、この作品では "Marry me" しか記憶に残ってない。その無謀な勇気を称えて、ヘイスティングスには100点をあげたい。



THE BODY IN THE LIBRARY  03/01/29 更新

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ある朝、バントリー夫妻宅の書斎で若い女性の死体が発見される。その女性に見覚えのない夫妻は、警察に知らせると同時に、友人の素人探偵であるミス・マープルに調査を依頼する。やがて、夫妻の友人であるジェファーソン氏がその女性を養女に迎えようとしていたことがわかり、遺産をめぐる複雑な人間関係が明らかになってくる。はたして、ミス・マープルの推理はいかに?

 ミス・マープルシリーズの一作。
 その豊富な人生経験を武器にして華麗な推理を展開して行くミス・マープルは、噂話好きな近所のおばさんといったキャラクター設定で、ポアロよりは親しめる。ただ、ポアロよりはまだマシだというだけで、それほど魅力的なキャラクターでもない。トリック自体は本当に使い古されたものだが(この当時はまだ使い古されてはいなかったのかもしれないが)、最後までそれと気付かずに読まされてしまった。きっと自分みたいに学習しない読者のおかげで、現在のミステリー業界の隆盛があるのだと思う。



DUMB WITNESS  02/08/22 更新

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裕福な年老いた未亡人が病死するところから物語は始まる。残された親族である二人の姪と一人の甥は、死の一週間前に書き直された未亡人の遺書の内容に驚く。親族である彼らには全く財産分与はなく、代わりに指名された受取人は、知り合って間もない未亡人の友人だった。未亡人の死に不自然なものを感じたポアロは調査を開始する。はたして未亡人の死は単なる病死なのか、それとも遺産目当ての殺人なのか?

 いかにも古きよきミステリーという感じの作品。
 ストーリーのラストで、登場人物を一堂に集めてその場で謎解きをする、という展開はやっぱりいい。ワクワクする。これぞミステリーの醍醐味だろう。しかし、同じことをポアロがやると、なぜか鼻につく。偉そうに講釈を垂れるだけならまだしも、他人の前でその人の人間性のことにまで言及するのはいかがなものか。それに、「自分は事実しか信じない」なんて偉そうに言っている割には、謎解きのほとんどが自分の推論だけで成り立っているのもどうかと思う。唯一の物証の説得力があまりにも弱い。結論としては、「ポアロってやなヤツ」ということだ。



AND THEN THERE WERE NONE   01/05/26 更新

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U.N.オーウェンと名乗る未知の人物からの招待状を受け取った、それぞれに一面識もない10人の男女がインディアン島に集まった。しかし、肝心の招待主の姿はない。孤島に閉じ込められた10人の男女は、マザーグースの童謡の通りに次々に殺害されて行く。法律に触れない方法でそれぞれに人を死に追いやったという共通の過去を持つ彼らは、次第に疑心暗鬼に陥り、お互いを疑い始める。はたして最後に生き残るのは誰なのか、そしてU.N.オーウェンの正体は?

 下記2作と並び称される、著者の代表作。邦題は言わずと知れた「そして誰もいなくなった」。
 下記2作で著者の強引な場面設定にはある程度の免疫が出来ているつもりだったが、この作品はさらにその上を行くリアリティのなさだ。大体、見ず知らずの人物から招待状を受け取って、何の疑問も持たずにのこのこと孤島まで出かける人なんているだろうか。自分としては、こちらの方がよっぽどミステリーだ。
 殺人のトリックにしてもあまりにも都合がよすぎ。とはいえ、この当時のミステリー作品はいかにして新しいトリックを成立させるか、ということに主眼が置かれていたから、こういうストーリーも当時としてはごく普通に受け入れられていたのだろう。ほとんどのトリックが出尽くした感のある現在、こういうミステリーの古典を読むのも新鮮だ。



MURDER ON THE ORIENT EXPRESS  01/05/20 更新

 読み易さ 
 面白さ   

シリアからロンドンへ帰るためオリエント急行に乗りこむポアロ。真冬にもかかわらず満席となった車両内で殺人事件が発生する。被害者は巧みに死刑判決を免れた、誘拐殺人事件の犯人だった。殺害現場の状況から、犯人は車両内の乗客以外には有り得ないと判断したポアロは、乗客一人一人に対してインタビューを行うが、すべての乗客にアリバイがあり、かつ殺害動機が見つからないという八方塞がりの状態に陥る。精緻なまでに企まれたこの犯罪を、ポアロはいかに解決するのか?

 下記の「ABC殺人事件」と並び称される著者の代表作。本作が1934年、「ABC殺人事件」が1936年に書かれているから、1930年代が著者の黄金期なのだろう。
 この作品を知らない人はいないくらい有名な作品だが、恥ずかしながら自分は今回が初めてだった。しかし、納得できない部分が多々あった。謎解きの部分がすべてポアロの推測だけで構成され、物証が皆無なので、説得力に欠ける気がする。実際にはそんなに都合よくはいかないだろうと思う部分もかなりあった。一から十までリアリティを求めたらミステリー小説は成立しないとは思うが、多少はリアリティを持たせて欲しいような気がする。



THE ABC MURDERS  01/05/20 更新

 読み易さ 
 面白さ   

ある日"ABC"と名乗る人物からの犯罪の予告状がポアロのもとに届く。予告状に指定されたその日に、アンドヴァーでアリスという名の女性が殺害される。それから同じように、ベクスヒルでベティという名の女性が殺害され、チャーストンでカーマイルという名の男性が殺害される。殺害現場も被害者も共にABC順で発生するこの事件に共通する手掛かりは、ただひとつ、現場に残される「ABC鉄道案内」のみ。名探偵ポアロの推理はいかに?

 いまさら粗筋を記す必要もないくらいの、著者の代表作。邦題は言わずと知れた「ABC殺人事件」。
 小学生の頃に児童向けの訳本を読んだことがあるが、改めて読んでみると、やはり面白い。こんなに都合よくはいかないだろうと突っ込みを入れたくなる部分もかなりあるが、一から十までリアリティを求めたら、ミステリー小説は成立しない。「なるほど、そうなんだ」と素直に感心する姿勢こそが、ミステリー作品を楽しむ秘訣だと思う。



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