PAUL AUSTER 




 ポストモダン的な作風で知られるアメリカの作家。
 1947年にニュージャージー州で生まれた作者は、幼い頃から多くの本を読んで文学に親しむ。コロンビア大学に進学してからは、大学の雑誌に記事を書いたり、さまざまなフリーランスの仕事をこなしながら1970年に大学を卒業する。卒業後はパリに渡ってフランス小説の翻訳で生計を立て、その後アメリカに戻ってきてからは、エッセイや詩や小説などの創作活動を開始する。1976年にポール・ベンジャミンというペンネームで発表した推理小説が一応のデビュー作となっているが、実際に作家としての地位を確立したのは、1985年から1986年にかけて発表された「ニューヨーク三部作」と呼ばれるニューヨークを舞台とした連作である。この作品で高く評価された作者は、現代アメリカ文学の旗手とまで呼ばれる存在になる。その後は映画にも興味を示し、映画の脚本執筆や監督なども手がける。
 作風こそシュールだが、文章は読みやすい。こうしたシンプルで読みやすい文章だからこそ、この独特な世界がより一層引き立つのだろう。ペーパーバック初心者からベテランまで、幅広くお薦めしたい作家のひとり。




ORACLE NIGHT  13/03/10 更新

 読み易さ 
 面白さ    お勧め

物語の主人公は、34歳の作家のシドニー。重病を患って生死の境をさまうが、なんとか回復して退院する。そんなある日のこと、街で見かけた文房具屋に立ち寄り、青いノートに一目ぼれして買ってしまう。ノートを開くと、創作意欲が湧き起こり、夢中で小説のプロットを書いていく。そうして順調に回復していくシドニーだったが、妻のグレースの様子がおかしいことに気付く。情緒不安定になって突然泣き出したり、何の連絡もなく外泊したりで、何か秘密を抱えているのではないかと疑いを抱く。やがてその疑いは、家族同然の付き合いをしているジョンへと向けられていく。

 激しく面白かった。オースター氏の作品としてはかなりわかりやすい内容で、突飛な設定が出てきて戸惑うといったことはない。
 主人公のシドニーが青いノートに小説のプロットを書く場面があり、これが作中作となっているのだが、この作中作が非常に面白い。ある男が夜中にちょっとしたお使いに出かけるのだが、あることがきっかけとなり、それまでの人生をすべて捨てて、知らない街で新しい人生を始める。この男が、一目ぼれした女性に電話をかけ、留守電に告白のメッセージを残すシーンが出てくるのだが、これがすごくいい。自分でもどうにもできない感情を、留守電に向って吐き出していくという行為に、素直に感動してしまった。ただ、この作中作は途中で挫折してしまうのが残念だ。できれば最後まで読みたかった。
 また、シドニーが妻のグレースに向ける愛情もいい。グレースのことを疑いながらも、すべて自分の中に抱え込んだまま、グレースを許すことを選択するシドニーがいい。人を深く愛するほど、自分も深く傷つくことがあるわけで、ものすごく月並みな感想だけれど、人が人を好きになる感情ほどやっかいなものはないと思う。まあ、そうした感情こそが、人生に花を添えるのだろうけれど。(もっと詳しい感想はこちら



TRAVELS IN THE SCRIPTORIUM  11/10/29 更新

 読み易さ 
 面白さ   

窓がふさがれた部屋の中で老人が目を覚ますと、すべての記憶を失っていた。自分がだれなのか、ここがどこなのかもわからないまま、何人かの人間が老人を訪ねてくる。そのたびに記憶の断片がよみがえり、自分が過去に何かひどいことをしたらしいことがわかってくる。罪の意識にさいなまれたまま、老人は部屋の中での時間をただ過ごす。

  これまでに読んだオースター氏の作品の中でも、とびきり意味のわからないお話しだ。雰囲気としては、「The Newyork Trilogy」によく似ている。あまりにも意味がわからないものだから、ネットでほかの人たちの感想をチェックしてみたのだが、どうやらこの作品には過去の作品で登場したキャラクターたちがたくさん出てくるらしい。そんなこと、読んでいるときにはまったく気付かなかった。まあ、そのあたりはオースター氏のお遊びなんだろう。特にそのあたりのことを知らなくても読むのに支障はないが、この独特の世界になじめない人にとっては、まったくわけがわからないままに読み終わってしまうだろう。オチにしたって「は?」みたいな感じだし。
 よく言えば、オースター氏の独特な世界が展開する異色の作品、悪く言えば、読者を置いてきぼりにしたオースター氏の自己満足だけの作品、といったところか。



MAN IN THE DARK  11/10/23 更新

 読み易さ 
 面白さ   

主人公のオーガスト・ブリルは、一人娘のミリアム、孫娘のカチャと3人で静かに暮らす72歳の老人。オーガストは妻に先立たれ、ミリアムは夫と離婚し、カチャは恋人を戦争で失い、それぞれ心に深い傷を負っていた。ベッドに入っても眠りにつけないオーガストは、自分だけの物語のストーリーを考えたり、これまでの人生を振り返ったりしながら、暗闇の中での時間を過ごす。そして、カチャにせがまれて、亡くなった妻との思い出話を語りだす。

  特にこれといったストーリーはなく、主人公のオーガストの夢想や回想を中心にして物語が展開していく。家族が3人とも心に傷を負っているため、作品全体のトーンは暗く、「人生なんてそんなもの」というオーガストの言葉が妙にリアルに感じる。ただ、どんなに辛い人生でも、どんなにつまらない人生でも、やっぱり人間は生きていくわけで、そのあたりの無常さみたいな部分に共感しながら、この作品を読んだ。生きている限り、特別な理由がなくても生きていくのが人間であり、生き物なんだろう。
 それはともかく、ストーリーの途中で、小津安二郎の「東京物語」についてオーガストとカチャが語り合うシーンがあるのだが、オースター氏がどういった視点で映画を観ているのかがわかって面白い。オースター氏も、小津安二郎の映画に共感するところがあるのだろう。



TIMBUKTU  11/06/04 更新

 読み易さ 
 面白さ   

物語の主人公は、人間の言葉を理解する犬のミスター・ボーンズ。飼い主のウィリーは、若い頃にドラッグに溺れて精神を病んでしまい、母親の死をきっかけにホームレスになってしまう。自分の死期が近づいていることを悟ったウィリーは、高校生の頃にお世話になった教師を訪ねるため、ミスター・ボーンズとともに街をさまよう。しかし、途中で力が尽きてしまったウィリーは、警察に保護されて病院に運ばれる。夢の中で小さなハエに変身したミスター・ボーンズは、病室の天井からウィリーの最期を見守る。

 人間の言葉を理解する犬を主人公にもってくるとは、オースター氏もすごい荒業を出してきたものだと思う。それだけでなく、その犬が途中でハエに変身したり、夢の中で飼い主と人間の言葉で会話したりと、相当にありえないシチュエーションが次々に出てくる。しかし、それでも違和感なく読めてしまうのは、さすがにオースター氏といったところだろうか。
 ミスター・ボーンズにとって不幸だったのは、ウィリーというダメな人間を飼い主に持ったことだろう。最初の飼い主がもっと普通の人間だったら、犬としての普通の幸せを普通に味わっていたと思う。ただ、犬としての幸せとは何だろうと考えると、飼い主のウィリーと心を通わせることができたミスター・ボーンズはものすごく幸せな犬だったのかもしれないと思う。



THE BROOKLYN FOLLIES  10/01/31 更新

 読み易さ 
 面白さ    そこそこお勧め

癌のために保険セールスの仕事を早期退職したネイサンは、一人で余生を静かに過ごすためブルックリンに移り住む。そこで、長年連絡の途絶えていた甥のトムと再会する。以前は優秀だったトムも、いまではタクシーの運転手を経て古書店の店員として働き、以前の面影はなくなっていた。そして、トムが勤務する古書店の店主であるハリーと知り合ったネイサンは、ハリーが古書を利用したサギを計画していることを知る。そのお金が入ったら、ブルックリンを抜け出して理想のホテルを買おうと盛り上がる3人だったが、思わぬことからその計画は頓挫してしまう。さらに、若い頃に家出をした姪のオーロラの娘であるルーシーが突然訪ねてきて、ネイサンの周囲は思わぬ形でにぎやかになる。

 なんだろう、この暖かな読後感は。これまでに読んだオースター氏の作品の中では、間違いなく一番わかりやすくて心温まる作品だと思う。まさかオースター氏がこんなにわかりやすい作品を書くとは思わなかった。
 登場人物たちは、主人公のネイサンを含めてみんなお世辞にも立派な人間とはいえない。トムは大学を中退してタクシーの運転手にまで落ちるし、ハリーはサギの前科があってゲイだし、オーロラはヌードで生活費を稼いでドラッグに溺れるしで、だれ一人として立派な生活を送っている人はいない。だからこそ、それぞれが抱える悩みや葛藤に感情移入しながら読むことができる。一度は家族を失った初老の男が、思わぬ形でもう一度家族を作り上げていくというストーリーだが、ともすると嘘っぽくなりがちなこうしたテーマも、オースター氏の筆にかかると生き生きとしたリアリティに満ち溢れた作品になる。いい作品に出会えた幸運に感謝しよう。



THE NEWYORK TRILOGY  09/10/17 更新

 読み易さ 
 面白さ   

ある日の夜中、ミステリー作家クインのもとに間違い電話がかかってくるところから物語は始まる。スティルマンと名乗る電話の主は、クインを私立探偵のポール・オースターだと思い込んで仕事を依頼し、興味を抱いたクインはオースターになりすまして仕事の依頼を引き受ける。スティルマンが幼い頃に虐待を受けた父親が刑務所から出所するため、その動向を探るのがクインに与えられた仕事だった。毎日父親を尾行して記録をつけていくクインだったが、やがて徐々に精神的に追い詰められていく。追う者と追われる者との立場がいつしか逆転し、自我の崩壊にまでたどりつく。

 上で粗筋を紹介した「City of Glass」のほかに「Ghost」と「The Locked Room」の3作を収めた、オースター氏の出世作となった作品集。
 3作に共通するテーマとしては、追う者と追われる者との立場がいつしか逆転して自我の崩壊を招くという、人間という存在のあいまいさだと思う。こう書くといかにも作品の内容を理解しているように見えるが、実際のところは難しくてよくわからなかった。どの作品も、なんの説明もなしにいきなり主人公が壊れていくからだ。こうした展開はオースター氏のほとんどの作品に共通することで、特に「The Locked Room」は「Leviathan」とほとんど同じ内容といっていいくらいに似ている。いままで読んだ作品の中で唯一毛色が違うのは「Mr. Vertigo」くらいで、あとは同じようなテーマや設定が繰り返し出てくるため、そろそろ飽きてきたかもしれない。



HAND TO MOUTH  09/05/23 更新

 読み易さ 
 面白さ   

作家として身を立てることを夢見ながら、現実は生活費を稼ぐことに汲々としていた青年期を綴った自伝。この自伝のほかに、一攫千金を狙ってゲーム会社に持ち込んだ自作のカード式野球ゲーム、3本の戯曲、作家としての処女作となったミステリー小説も併せて収録されている。

  この自伝を読むと、この時期の経験がオースター氏の作品に色濃く影響していることがよくわかる。あの作品に出てくるエピソードはこのときの経験をヒントにしていたのか、といった記述がそこかしこに現れてきて面白い。ただ、せっかく経験した貧乏生活ぶりをもっとストレートに書いてほしかった。金がなくてドッグフードをかじって飢えをしのいだとか、同じ下着で1ヶ月間耐えたとか、貧乏人の自分としてはそういった具体的なエピソードが読みたかった。
 メインとなる自伝は全体の4分の1くらいしかなくて、あとはシュールすぎてまったく意味がわからない3本の戯曲と、主人公の独断的な推理だけでまったく物証のないまま解決する出来の悪いハードボイルド風味のミステリー小説が付録として収録されているが、この本の中で一番面白いのは、実は自作のカード式野球ゲームだったりする。これが本当によくできていて、運だけでなく、作戦を立てる余地があるところが素晴らしい。よくぞここまで緻密に考えたものだと感心する。オースター氏は本当に野球が好きなのだろう。
 貧乏ネタと野球ネタはオースター氏の作品の重要な要素になっているが、この自伝を読むとそのあたりのことが理解できると思う。



LEVIATHAN  09/05/03 更新

 読み易さ 
 面白さ   

売れない作家のピーターが同じ作家のサックスと知り合い、お互いの才能を認め合った二人は親友としての付き合いを始める。社交的で才能溢れるサックスを尊敬するピーターは、大学時代に密かな思いを寄せていたファニーがサックスの現在の妻であることを知ってとまどうが、ファニーも含めた付き合いを深めていく。そんなある日のこと、パーティーに招待されて酒に酔ったサックスが、屋上から転落して負傷するという事故が発生する。幸運にも命に別状はなかったものの、その事故を境にしてサックスの様子ががらりと変わってしまい、ピーターたちは心配する。やがてファニーと別居したサックスは、一人暮らしを始めて創作活動に没頭するが、不運な事件に巻き込まれて逃亡生活を送ることになる。そんなサックスが最後に人生を懸けたのは、自由の女神のレプリカを爆破するという行為だった。

 前半がちょっと退屈で、話に入っていくのに時間がかかった。ストーリー後半のサックスの壊れっぷりを読むと、前半部分のかったるい展開にはどんな意味があるのか、正直なところよくわからない。それはともかく、このサックスという男は困ったことがあるとすぐに逃げ出してしまう人間らしく、なんだか自分のことを見ているようで微笑ましかった。
 この作品で面白かったのは、物語の語り手であるピーターの客観的な態度だ。たとえば、ケンカ別れをしたカップルからそれぞれ別の話を聞かされたピーターは、どちらの話も本当だという態度を取る。話している当事者にしてみれば、自分を美化して相手を悪く言うのが当然で、そうしたことも含めてすべて真実だと判断するのは面白い考え方だと思う。真実はひとつだけではなく、その人がどうとらえるかにより、人の数だけ真実が存在するということだ。そう考えれば、刑事裁判などで検察側と弁護側の主張がまったく異なるのは当然のことだ。たったひとつの真実を追究しようというのは、とてつもなく不毛で限りなく不可能に近いことなんだろうと思う。



MOON PALACE  09/04/18 更新

 読み易さ 
 面白さ   

人類史上初の月面着陸成功に沸くアメリカで、大学生のマルコは憂鬱な日々を過ごしていた。唯一の肉親である伯父が亡くなって気力を失ったマルコは、仕事もせず大学にも行かずに、手持ちの現金がなくなるまで毎日をただ暮らしていた。やがてアパートを追い出されたマルコは、公園でホームレスとしての生活を始めるが、徐々に体力を失って衰弱していく。あわやのところで親友と恋人に助けられたマルコは、生きる気力を取り戻し、エフィングという老人の家で住み込みのアルバイトを始める。気難しいエフィングの世話に苦労するマルコだったが、やがて二人の間に奇妙な愛情が芽生える。自らの死が近いことを悟るエフィング゙は、これまでの人生をマルコに語り聞かせるが、その話からマルコの意外な生い立ちが明らかになる。

  手持ちの金がなくなるまで目的もなく過ごしたり、面識のない父親から突然多額の遺産を受け取ったりといった細かい設定は、「The Music of Chance」とよく似ている。しかし、全体を流れるテーマとしては、この作品のほうがずっとわかりやすくて読みやすい。思い切り乱暴にまとめると、自分が愛する人たちとの別れを次々に経験しながらも、人間は自分の人生を生きていかなければならない、というテーマだ(と思う)。
 マルコの生い立ちの設定があまりにも強引すぎる気がしないでもないが、それでも読ませてしまうところはさすがにオースター氏ということなのだろう。ただ、マルコが消極的な自殺ともいえる厭世的な生活を送る最初の部分だけはよくわからなかった。主人公は若くて優秀な人間なのに、なぜここまで厭世的になれるのかがどうしても理解できず、この部分だけ作品の中でぽっかりと宙に浮いたような違和感が最後まで残ってしまった。自分は、こういう甘えたヤツは勝手に死ねばいいと思ってしまう人間なので、イマイチ作品に入り込むことができなかった。



MR. VERTIGO  09/04/04 更新

 読み易さ 
 面白さ   

物語の舞台は1920年代のアメリカ。両親を亡くして孤児となった9歳のウォルト少年が、ユーディという男性に引き取られるところから物語は始まる。ウォルトの才能を見抜いたユーディは、訓練すれば空を飛べるようになると確信し、厳しい訓練をウォルトに課す。その甲斐あって12歳になったウォルトはついに宙に浮くことに成功する。やがて二人は、空中でのアクロバットショーを売り物に興行を重ね、ウォルトは全米のスターになっていく。この楽しい生活がいつまでも続くかと思われたその矢先、思春期を迎えたウォルトは、ショーが終わると激しい頭痛に襲われるようになる。それと同時にユーディも病魔に冒され、二人の楽しい旅は突如として終わりを迎える。空を飛ぶという特異な能力を失ったウォルトには、どんな人生が待っているのか。

 この作品はちょっと悲しいファンタジーといった感じで、先に読んだ「The Music of Chance」とはかなり異なる作風だ。ポール・オースターという人は、おそらくいろんな作風で小説を書ける人なのだろう。
 空を飛ぶ少年というファンタジー色の強い設定ではあるが、全体としては悲しく切ないトーンで、ただのファンタジーで終わっていないところがいい。ウォルトの師匠であるユーディも、ユーディの恋人であるマリオンも、ウォルトの友人である黒人のイソップ少年も、それぞれに優しくて悲しくて素敵だ。でも一番悲しいのは、やっぱりウォルト自身なんだろうと思う。空を飛ぶ能力を失い、大好きな師匠までも亡くしながら、それでも生きていかなければならない。人生とは、楽しいことや幸せなことがある反面、それと同じくらいに悲しいことや残酷なことが待ち受けているものなのだろう。最期になって、楽しいことや幸せなことのほうが多かったと少しでも思えれば、その人の人生は幸せだったと言えるのかもしれない。そういう意味で、ウォルトの人生は幸せだったのだろうか。柄にもなく、そんなことを考えてしまった。



THE MUSIC OF CHANCE  09/03/28 更新

 読み易さ 
 面白さ    お勧め

主人公のナッシュが、思いがけず20万ドルの遺産を手にするところから物語は始まる。新車のサーブを購入し、それまで勤めていた消防署を辞めたナッシュは、あてもなくアメリカ中をドライブして暮らす。最初は気ままに自由を謳歌していたナッシュだが、手元の現金が減ってくるにつれて不安も大きくなってくる。そんなときに出会ったのは、ポッツィというギャンブラーの若い男。ポーカーには絶対の自信を持つポッツィは、宝くじに当たった成金の二人とこれからポーカー勝負をするのだが、肝心の軍資金がないという。それを聞いたナッシュは、残りの1万ドルをすべてポッツィに託してその勝負に乗ることを決意する。しかし、最後の大勝負に敗れた二人は借金を作ってしまい、労働によって借金を返すことを約束させられてしまう。毎日重い石を積んで巨大な壁を作る二人の先に待つものは、希望かそれとも絶望か。

 激しく面白かった。最初から引き込まれて、ラストまでまさにノンストップで読んでしまった。
 特に派手なアクションや大きな事件が発生するわけではなく、あくまでも淡々と物語が進んでいくのだが、その静かなタッチがなんとも言えない雰囲気を出している。具体的にどこがどう面白かったかを説明するのは難しいのだが、あるときは悲しかったり、あるときは怒りを覚えたり、あるときは怖かったりと、いろいろな感情を刺激される作品だ。怖さという点では、安部公房の「砂の女」と似ている部分があるように思う。読んでいて、ふと現実感から遠く離れてしまいそうになりながら、作中のキャラクターに強く感情移入するといった、そんな独特の雰囲気を持つ作品だ。登場するキャラクターもいい。すべてのキャラクターが具体的な映像になって浮かんでくるほど、キャラクターが生きている。
 うまく説明できないのがもどかしいが、とにかく面白い。もちろん好みの問題はあるだろうが、ハマる人は強烈にハマる作品だと思う。機会があれば、ぜひご一読を。



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