JEFFRY ARCHER 




 言わずと知れたイギリスの巨匠。
 1940年生まれの著者は1969年に史上最年少の若さでイギリス下院議員に当選するも、1973年に100万ドルという巨額の財産を詐欺により失い、一文無しになってしまう。このときの経験をもとに書いたのがデビュー作の「Not a Penny More, Not a Penny Less (邦題:百万ドルを取りかえせ!)」らしい。これがヒットしてからは作家と議員の二足のわらじを履いているという、何とも波乱万丈な経歴の持ち主。おまけに、法廷での偽証罪に問われて有罪判決を受けたというオチまでつくから素敵。
 イギリスの作家ということで本格的かつ難解な文章をイメージしがちだが、まったくそんなことはなく、比較的容易に読むことができるレベル。著者のストーリーテラーとしての能力は天下一品なので、どの作品を読んでも後悔することは少ないはず。




A PRISON DIARY  VOLUME 3: HEAVEN 17/11/26更新

 読み易さ 
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中程度の監視体制のウェイランド刑務所から、監視体制が最も緩やかなノースシーキャンプ刑務所に移送されたアーチャー氏が、釈放されるまでの日々を記した日記。

 ノースシーキャンプ刑務所は監視体制が最も緩やかな刑務所の1つということで、脱走しようと思えばいくらでも脱走できる環境になっている。実際に、毎月何人かは脱走しているものの、そのほとんどがすぐに捕まってしまい、半月ほどの刑期が加算されてしまうらしい。
 それにしても、この日記を読む限りでは、アーチャー氏は非常に不当な扱いを受けていると言わざるを得ない。事件の背景について詳しいことが書かれていないのでよくわからないのだが、政敵にかなり恨みを買っていたらしく、上の方からの不当な圧力があったのは間違いない。ただ、それほど恨みを買うということは、アーチャー氏もそれ相応のことをしたということなのかもしれない。詳しい事情はわからないが、イギリスという先進国でも、司法制度はけっこう腐っているんだなと感じた。また、どの国でも、マスコミはとことん腐っているんだなということも感じた。



A PRISON DIARY  VOLUME 2: PURGATORY 17/10/29更新

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イギリスで最も監視体制の厳しいベルマーシュ刑務所から、中程度の監視体制のウェイランド刑務所に移送されたアーチャー氏が、刑務所内で過ごした67日間の生活を記した日記。

 移送先のウェイランド刑務所では、模範囚たちと仲良くなり、いろいろと便宜を図ってもらって、それなりに快適に生活している様子が描かれている。まあ、快適とはいってもそれは刑務所の中のことだからいろいろと制約はあるが、日本の刑務所と比べたら自由度はかなり高い。テレビやラジオは部屋の中で自由に見ることができるし、音楽だって大音量で聴くことができる。そればかりか、部屋の内装まで変えたりしているのだから驚きだ。そんな調子だから、この刑務所でもやっぱりドラッグが蔓延していて、ほとんどの囚人がドラッグに手を出しているらしい。イギリスで最も監視体制の厳しいベルマーシュ刑務所でさえドラッグが蔓延していたわけだから、そうなるのは当然か。
 辛い刑務所生活でも、毎日ジムで体を鍛え、日々の出来事を克明に日記に記録し、規則正しい生活を送ろうと努力するアーチャー氏は、精神的にかなりタフな人なんだなと思った。



A PRISON DIARY  VOLUME 1: HELL 17/10/01更新

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議会での偽証罪によって有罪判決を受けた作者が、刑務所内での囚人生活をリアルに描いた日記。この Volume 1 には、最初に収監されたベルマーシュ刑務所での21日間の日記が収録されている。

 最初に収監されたベルマーシュ刑務所は、強盗や殺人など、重い罪を犯した囚人が収容される刑務所で、本来ならば偽証罪という軽犯罪を犯した作者が収監されるべき場所ではないのだが、刑務所側としてもいろいろな事情があったのか、とりあえずはということでこの刑務所に収容されることになったらしい。
 自分は刑務所に関する話が大好物で、日本の刑務所に関してはそれなりに知識があるけれど、日本とイギリスではやっぱりいろいろな面で違っている。特に面会については、金網越しではなく直接面会できるという点で、日本の刑務所とは大きく違っている。そのため、外からドラッグを持ち込むケースが後を絶たず、イギリスの刑務所ではドラッグ(特にヘロイン)が蔓延しているということに驚いた。
 それと、イギリスの刑務所の食事はクソまずいというのも、日本の刑務所とは大きく違う点だ。作者は、あまりのまずさに刑務所の食事はほとんど食べず、自費で購入した食べ物で腹を満たしているのだが、日本の刑務所の場合、食事の質を可能な限り上げることによって、囚人たちの不満を減らす努力をしている。どちらの刑務所がいいかということは一概には言えないが、毎日の食事がクソまずいのは辛いだろうなとは思う。



CAT O'NINE TALES  17/06/11更新

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刑務所で聞いた実話を基にした9編の短編と、実際の出来事を基にした3編の短編を収録した短編集。

 刑務所で聞いた話を基にした9編の作品には、1つだけ殺人の話が出てくるけれど、そのほかは、脱税、着服、密輸などの知能犯がテーマになっていて、けっこう面白かった。こういう知能犯というのは、普通の人間が思いつかないようなことを考え出すから、きっと頭がいいのだろう。その才能をほかのことに使えばいいのにと思ってしまう。
 一番面白かったのは、「In the Eye of the Beholder」だ。思い切りブラックなオチになるであろうことを強く予感させながら、その予想を裏切ってハッピーエンドで終わるのは、お見事というしかない。ただ、これが本当に実話なのかと考えると、かなり話を盛っているんだろうなという気がする。



NOT A PENNY MORE, NOT A PENNY LESS  11/12/10更新

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大富豪のメトカーフは、その天才的な頭脳でアメリカの裏社会をのし上がった詐欺師。そのメトカーフが仕掛けたのは、架空の油田開発事業への投資話だった。この投資話にまんまと引っ掛かったのが、アメリカ人大学教授のスティーブン、アメリカ人医師のロビン、フランス人画商のジャン・ピエール、イギリス人貴族のジェームズという4人だった。スティーブンの呼びかけで集まった4人は、自分たちが失った100万ドルを、1ペニーの多寡なく取り返そうと作戦を練る。天才詐欺師のメトカーフに対して、4人の作戦は通用するのか。

 アーチャー氏のデビュー作として有名なこの作品は、実際にアーチャー氏が同じような詐欺に遭ったことが執筆のきっかけになったらしい。そのエピソードは面白いのだが、肝心の作品についてはあまり面白くない。物語の前半はダラダラとして退屈だし、4人組が仕掛ける詐欺も、特に奇抜な作戦というわけでもない。ラストの意外な展開には少し驚いたが、かろうじて面白かったのはそのラストだけで、あまりの退屈さに途中で何度も挫折しそうになった。ストーリーに直接関係ないことをいろいろと書いているのも、読んでいて邪魔だった。



A QUIVER FULL OF ARROWS  06/05/07更新

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11の短編からなる短編集。

 11編のうち、まったくのオリジナルは1編だけで、後の10編には何らかのモデルがあるらしい。どの作品もそこそこに面白くてそこそこにつまらない。とりあえず、短編集はこんなものだろうと思う。気軽に読めればそれでいい。
 それにしても、"The Luncheon" だけはどうかと思う。これはサマーセット・モームの同名の作品のパロディだが、オチをちょこっと変えただけで、後はそのまんまという内容。これくらいのオチならば、別にアーチャー氏でなくとも書ける。極端な話、自分にだって書けると思う。プロ中のプロであるアーチャー氏が、こんな素人芸で手抜きをしたらダメだろう。



TWELVE RED HERRINGS  05/05/03更新

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12の短編からなる短編集。

 12編のうち、9編が事実を基にしたものらしい。しかし、どれもオチがイマイチなような気がする。ストーリー自体はどれも面白くて、どんどん引き込まれるが、ちょっと考えないとわからないオチだったり、オチそのものが弱かったりする。
 しかし、"ONE MAN'S MEAT" はなかなか面白かった。前半部分と後半部分から構成される作品で、後半部分はそれぞれ独立した4つのストーリーになっている。つまり、1つのストーリーで4つの違ったオチが楽しめるという仕掛けだ。これを読んで、やっぱり自分は安直なハッピーエンドが好きなんだと改めて思った。



TO CUT A LONG STORY SHORT  03/11/05更新

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ショートショートあり、短編ありの14篇からなる作品集

 14編のうち9編が、事実をもとにした作品とのこと。もちろん、すべてが事実というわけではないんだろうが、「ふーん、こんなこともあるのか」なんて感じで面白い。常に身の回りの出来事にアンテナを張り、小説のネタになりそうなものはないかと探すことも、作家の大事な仕事のひとつなんだろう。やはり、プロの作家の観察眼は凄いものだ。



THE ELEVENTH COMMANDAMENT  03/06/18更新

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CIA特殊工作員のコナーは、女性長官デクスターの命を受けて、アメリカに対して強硬姿勢を取るコロンビア大統領候補を暗殺する。デクスターの独断で暗殺が行われたことを知ったアメリカ大統領のローレンスは、デクスターを問い詰めるが、我が身の保身を図るデクスターは、極右思想を持つロシアの大統領候補 Zerimskiの暗殺を命じ、コナーを罠にはめて亡き者にしようと画策する。囚われの身となったコナーは、ロシアマフィアの協力によって牢獄から生還することに成功するが、マフィアから提示された交換条件は Zerimski の暗殺だった。選挙に当選してロシア大統領となってアメリカを訪れたZerimsk を待ち受けるコナー。二人の対決の行方はいかに?

 敵役に極右思想を持つロシア大統領を据えて、そこにアメリカ大統領とCIAとの身内の紛争をからめたあたりの構成はさすが。しかし、このラストはどうにもいただけない。これでは何一つ解決していないし、憎きCIA女性長官のデクスターの扱いも面白くない。などと思っていたら、最後の最後、ラスト1ページのどんでん返しにやられた。ずるいと言えばずるいオチだが、最後にこういう救いは必要かもしれない。
 ただ一つだけ気になったのは、主人公が暗殺者だということ。作品の中では凄く魅力的な人間として描かれてはいるが、いくら国家のためとはいえ、自ら進んで人の命を奪う人間というのは、果たしてヒーローになり得るのだろうか。あれこれ理屈をつけても、結局は人殺しだ。



A MATTER OF HONOUR  03/03/21更新

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時は冷戦真っ只中の1966年。元イギリス軍将校のアダム・スコットが父親の遺言状を開くところからストーリーは始まる。遺言を読んだアダムはスイスの銀行にロシア皇帝の肖像画が保管されていることを知り、スイスに出かけて肖像画を受け取る。一方、ブレジネフ書記長から肖像画の奪還を命じられたKGB工作員のロマノフは、アダムを執拗に追いかける。イギリス・アメリカ当局をも巻き込み、肖像画を巡る一大バトルが展開する。果たしてアダムは無事にイギリスに辿り着けるのか。そして肖像画に隠された驚くべき秘密とは?

 最初こそちょっと退屈だったものの、アダムとロマノフのバトルが始まってからは一気に読ませる。二転、三転、いや、四転、五転するストーリー展開にはグイグイと引き込まれてしまう。さすがはアーチャー氏、このあたりは本当にお上手。
 それにしても、こういう国際スパイ物とでも言うべきジャンルは、一昔前まではこの作品のように、「ソ連対米英」という構図が圧倒的に多かったが、冷戦が終結した現在ではこの構図は使えなくなってしまった。これからは「テロ対自由国家」という構図にシフトして行くのだろう。



HONOUR AMONG THIEVES  01/12/22更新

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時は湾岸戦争終結後の1993年。イラク政府高官からあるアメリカ人弁護士に対して「独立宣言書を盗み出して欲しい」という驚くべき依頼が舞い込む。裏社会に強力なコネを持つ弁護士は奇想天外な方法で独立宣言書を盗み出すことに成功し、アメリカ建国の証はサダム・フセインの手に渡ってしまう。全世界注視の目前で独立宣言書を燃やし、クリントン政権を辱めようとするフセイン大統領の企みを阻止すべく、イスラエル工作員とCIAアナリストがチームを組み、作戦を開始する。しかし、この動きを察知したイラク政府は巧妙な罠を仕掛ける。この罠をかいくぐって独立宣言書を取り戻すことが出来るのか?

 この作品は大きく分けて、独立宣言書を盗み出す前半部、それを取り戻す後半部という構成になっているが、前半部がまったく面白くない。一体どういう方向に進んで行くのかが見えてこないので、何を焦点に読み進めればいいのかわからず、あまりのつまらなさに途中で放り出しそうになった。しかし、後半部はその前半部を補って余りあるくらいに面白かった。とりあえずは最初だけ我慢すべし。



KANE AND ABEL

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まったく同じ日に、全く違った境遇に産まれた2人の人生を同時進行で描いた作品。時は1906年、一人はポーランドの貧しい家庭に孤児として拾われて育てられ、もう一人はアメリカの銀行の頭取の長男として将来を約束された境遇で育てられる。様々な苦境を乗り越えてアメリカのホテル王にまで上り詰めたカインは、あることが原因でアベルに深い憎しみを持つようになり、彼を終生の敵として闘いを挑む。果たして勝者はどちらに?

 このまったく対照的な2人の人生がどこで交わってくるのか、スピーディーな展開で一気に読める。特にカインがまさにどん底の状況から這い上がって来るあたりの場面は、グイグイと引きこまれてしまう。このタイトルから、聖書の知識が必要なのかとも思ったが、特にそんなこともないらしい。短編も長編も充分に読ませるだけの筆力は、さすがにアーチャー氏といったところだ。読んで損はない。



A TWIST IN THE TALE

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12の短編からなる作品集

 このくらいの長さのストーリーは最後の一文が命。最後の一文を読んで「なるほど、やられた」と思うことができれば、その作品を充分に堪能したと言えるだろう。それだけに全く無駄のない文章で構成されているので、油断していると最後のオチが理解できなくなることも。旅のお供にお勧めの1冊。



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