オレとしたことが、ちょっぴり緊張しちゃうぜ。

なんたって、生まれてはじめての合コンだからな。
今日の格好はおかしくないか、出かける前に鏡の前でもう一回チェックしておくか。

タンクトップ、よーし。
ジーンズ、よーし。
スニーカー、よーし。

うん、なかなか良いじゃないか。
床屋にも行ったし、鼻毛も抜いたし、完璧だろ。下着も新品だしな。
「何があっても困らないように、常に準備を怠るな」って、オヤジからいつも言われてるからな。
そう、何があってもおかしくない。何たって、はじめての合コンだ。

おっと、自己紹介が遅れた。オレの名前は綾小路晃。イニシャル”A・A”だ。


今日は奴らどんな格好で来るんだ?電車が渋谷に着くまでヒマだから、勝手に想像してみるか。

まずは小松原。
なんたってこの合コンの幹事だから、きっとキメてくるに違いない。ただ、オレから言わせれば、どこがカッコ良いのか良くわからんがな。大体、胸元に金のネックレスを光らせてセカンドバックを抱えて、ポロシャツの襟を立てるっていうセンスが理解できん。まあ、女にモテるのは事実だから、それだけは認めないわけにはいかん。

次に東山。
東山は長野県出身だから、オレとは違って田舎者だけど、ちょっと大人っぽいところがある。まあ、それもオレに比べたらどうってことはないけどな。正統派アイビールックが奴のトレードマークらしいが、まあそれなりに似合ってはいる。

そして永橋。
こいつはどうしようもないくらいに田舎者だ。佐渡の山奥からいきなり東京に出てきたわけだから、無理もないけどな。
オレと同じく、高校生の頃は柔道部のキャプテンだったらしいが、その割には気合が入ってない。柔道家たるもの、もっとビシッとしてなくちゃいかん。


ふう、やっと渋谷に着いた。
まったく、生まれてこの方20年間東京に住んでいるのに、いまだにこの人の多さには慣れない。
109の前に集合だったな。こんなに人が多いと、探すのにも一苦労だ。

お、いたいた。小松原と東山が何か話している。

「おいっす!」

小松原の野郎、今日もまた金のネックレスなんて光らせやがって。
東山は相変わらずのアイビールックか。
それにしても、永橋が来てないじゃないか。まさか迷子になってるんじゃないだろうな。どうしようもない田舎者だからな、アイツは。

「ごめんごめん、遅くなっちゃった」

ぷ、この田舎者、えらくスカしたジャケットなんて着込んじゃって。
いいか、男は外見じゃなくて中味で勝負するもんなんだ。そんなジャケットなんかで男の価値は決まるもんじゃないんだぞ。
でも、中々高そうなジャケットだな。ちょっとラベルを確認しておくか。

”ニコレ”って何だ?聞いたことないぞ。原宿の裏通りあたりで売ってるバッタ物か?まあ何でも良いか。


やっぱり男は筋肉だ。
本当は上半身裸で来たかったところだが、今日のところは黒のタンクトップで我慢しておいてやる。この格好でも、高校時代に100kgのベンチプレスで鍛えた大胸筋と上腕二頭筋は充分にアピール出来るからな。


小松原の奴、さすがにしゃれた店を予約するじゃないか。
いつもオレが飲みに行く高田馬場の「清龍」とは全然違うぞ。ちょっと居心地が悪いな。


お、来た!
相手もちゃんと4人そろってるじゃないか。まあ、当り前か。

「よし、じゃあ男女交互に座ろうか。おい、永橋はこっちに座れよ。東山は向こうな。あ、綾小路はそこでいいよ」

勝手に仕切るんじゃねえよ、小松原。でも席を移動しなくて良いから大目に見てやるか。他人の指図で移動させられるのは大嫌いだからな。

「さてと、まずは自己紹介からだな。どうも、幹事の小松原です。今日は、恵まれない可哀相な男子たちのために、お忙しいところを来て頂き恐縮です。我々男子一同、やる気満々ですので、是非よろしく。気に入ったヤツがいたら、お持ち帰りオッケーです」

つまんねえんだよ、小松原。大体オレは「恵まれない可哀相な男子」じゃねえっての。田舎者の永橋なんかと一緒にするんじゃねえ。

「えっと、じゃあ、女子チームの幹事を紹介します。ってことで、ミカちゃんよろしく」

オレの隣に座った女子が立ち上がった。えらく派手な女子だ。
そうか、この娘が「ヤジッターズ」のミカか。何回か「オールナイト・ヤジ」で見たことがある。派手な顔立ちがオレ好みだ。なるほど、小松原の奴、気をきかせてミカをオレの隣に座らせたわけだな。良いとこあるじゃねえか。

「佐藤です」
なんとも地味な女子だ。派手な小松原の隣に座っているせいでよけいに地味に見える。お世辞にも可愛いとは言えん。

「渡辺です。よろしく」
東山の隣に座っている女子。
そんなに目立つタイプじゃないが、清楚な感じだ。東山とはお似合いかも知れん。

「高山です」
永橋の隣に座った女子。
なかなかきれいな女子だな。永橋なんかの隣に座らせるのはもったいない。
あー、永橋の奴、もう舞い上がってるよ。そんなに鼻の下を伸ばすなって。


さてと、とりあえず何から喋ろうか。
昨日読んだ「ポパイ」に、「合コンの会話は”つかみ”が肝心。まずは面白い話で彼女を惹きつけろ!」って書いてあったな。何事も最初が肝心だ。ここは一発カマしておくか。


「オレは綾小路晃。イニシャル”A・A”だ」
「何それ?大体そんなカッコで寒くない?」

何だこの女?オレの筋肉に少しは感動したらどうだ。

「寒くはない。この筋肉がオレのボディスーツだ」
「良くわかんないけど、何だか君、面白いよ」

何だこの女?オレの筋肉が面白いだと?お前を笑わせるためにこの筋肉を作り上げたわけじゃないぞ。
まあ良い。素直に言えないだけかも知れん。オレは大人の男だ。大目に見てやる。

まあ飲め。
お、なかなか良い飲みっぷりじゃないか。
まあ飲め。もっと飲め。
目の縁が赤くなってるのがちょっと色っぽいぞ。

しかし良く飲むな、この女。それに良くしゃべる。

「でさあ、二日酔いでダルかったからスタジオに行きたくなかったのよ。でも、うまい言い訳が浮かばなかったから、”すいません、田舎の叔父が亡くなって”って言って収録をサボったの。これならディレクターも何も言えないからね。ヒトミなんて、この方法でもう3人も親戚の人殺しちゃってるから」

何だこの女?
まあ良い。オレ好みのルックスだから大目に見てやる。オレは大人の男だからな。

「ごめん、ちょっとトイレ」

ミカがいなくなると、急に静かになるな。
他の奴らはどうしてるんだ?お、永橋の奴、なかなか頑張ってるじゃないか。


「高山さんの趣味って何なの?」
「うーん、音楽観賞かな」
「へー、どんなの聴くの?」
「えっと、クラシックかな。父が好きなんですよ。小さい頃から聴かされてたから、いつの間にかわたしも好きになっちゃってた、って感じで」

永橋にクラシックの話題は荷が重いだろう。何たって、新歓コンパの二次会で「北の宿から」を熱唱した奴だからな。ここはひとつ、助け舟を出してやるとするか。


「オレもクラシックは良く聴くよ」
「え、そうなんですか。誰の作品がお好きですか?」
「オレは”チェルネンコフ”が好きだ」


ん?どうしたお前ら。オレがチェルネンコフを聴くのがそんなに意外か?
こう見えてもクラシックだって聴くんだよ。イニシャル”A・A”は伊達じゃない。


「どうしたの?何の話?」
おっと、帰ってきたか。大分酔ってるようだな。
いや、酒に酔ってるわけじゃなく、オレに酔ってるのか?
まあ飲め。

「でさあ、綾小路君はどういう女の子がタイプなわけ?」

お?この女、オレの好みを訊くってことは、やっぱりオレに気があるってことだな。
「もちろん、ミカみたいなのがタイプだ」なんて言ってやれば喜ぶんだろうが、甘いな。確かに派手な女は好きだが、それは遊びに限る。嫁さんにするのと恋人にするのとでは、おのずとタイプが違ってくるのだ。

ここは一発、オレの考えを主張しておく必要があるだろう。


「やっぱりオレは嫁さんにするなら”大妻”の娘が良いな」

何があっても、どんな状況でも、オレは決して他人に媚びることはしないのだ。どうだ、オレって男らしいだろ。そんなに尊敬のまなざしで見つめるんじゃない、一般庶民よ。

「何たって、”大妻”の”妻”の字が良い。フェリスなんて横文字は駄目だね」

いくら感動したからって、そんなに静かにならなくてもいいぞ。ちょっと話しにくいじゃないか。
ここはひとつ、軽くギャグでもカマしておくか。

「でもまあ、恋人にするならフェリスかな。”フェリ女”って縮めて言うと、何かいやらしいじゃん」

「・・・」

どうした?ちょっとアダルト過ぎたか?


「えーと、そろそろ場所を変えようか」

うむ、まあ場所を変えて飲み直すのも悪くはないな。
ミカはすっかりオレに酔ってるから、今夜はお持ち帰りコースは間違いないからな。

「さてと、二次会は二班に別れようか。俺と東山が第一班で、永橋と綾小路が第二班な。それじゃお疲れさん。あとはよろしく」


小松原の奴、うまいことやりやがる。
ちょっと永橋が可哀相な気もするが、オレとしても都合が良い。永橋には泣いてもらうことにするか。

「じゃあ、オレらも二次会に行くか。ミカはどこに行きたい?」
「ごめん、今日はもう帰る。ちょっと体調が悪くて」
「え?冗談だろ?まだ時間も早いじゃん」
「ゴメン。飲み過ぎたみたいでホントに気分が悪いの」

まあ、あれだけ飲めば無理もないかも知れん。今日のところは大目に見てやる。オレは大人の男だからな。

「じゃあ、電話番号を教えてくれよ。また今度誘うからさ」
「わかった、ちょっと待ってて」

ハンドバックから手帳を取り出して、電話番号を走り書きしたページを破いて、オレに手渡すミカ。
この紙切れが二人の愛のパスポートってわけだ。

「じゃあね」

ちょっと不完全燃焼だが、まあ仕方ない。

「絶対にキメられると思ったんだけどな。まあ良いか。とりあえず電話番号はゲットしたからな」

オレが差し出したページの切れ端を食い入るように見つめる永橋が、何とも哀れだ。
「どうしたんだよ。そんなに物欲しそうに見るなって。まあ、今日は永橋だけ収穫なしだったけど、そのうちお前も良いことあるって」

いくらなんでも、これじゃあ永橋が可哀相過ぎるか。田舎者とは言え、これはこれでなかなか良いところあるしな。今度ミカに頼んで、永橋にお似合いの女子を紹介してやるか。
何だかんだ言っても、オレって友達思いの良い奴だからな。



オレの名前は綾小路晃。イニシャル”A・A”だ。




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