はじめての合コン 




ああ、緊張しちゃうなあ。

なんたって、生まれてはじめての合コンだもんね。
今日の格好はおかしくないかなあ。出かける前に鏡の前でもう一回チェックしとこっと。

ジャケット、よーし。
パンツ、よーし。
シューズ、よーし。

うん、なかなか良いじゃん。
床屋にも行ったし、銭湯にも行ってきたし、完璧かも。下着も新品だしね。
「何があっても困らないように、常に準備を怠るな」って、お父さんからいつも言われてるから。
そう、何があってもおかしくないよね。だって、はじめての合コンだもの。


今日はみんなどんな格好で来るんだろう?電車が渋谷に着くまでヒマだから、勝手に想像しちゃお。

まずは小松原君。
なんたってこの合コンの幹事だから、きっとキメてくるんだろうなあ。実際カッコいいけどね。やっぱり東京の付属校上がりだから、ボクみたいな「大学デビュー組」とは違って、センス抜群なんだ。
「なんだ、お前合コンしたことないの?じゃあ、オレが企画してやるよ。フェリスに知り合いがいるからさ」なんてあっさり言って、すぐにこうして合コンを開いてくれたんだもの。さすがに遊び人を自称するだけのことはあるよ。ボクと同い年なのに、もう10人以上の女の子とやっちゃってるって言うんだから、スゴイよなあ。

小松原君の言う「フェリスの知り合い」って言うのは、最近ブレイク中の「オールナイト・ヤジ」に「ヤジッターズ」として出演している女の子なんだって。
そう言えば、ボクも何回か「オールナイト・ヤジ」を観たことがあるなあ。その番組に出演している「ヤジッターズ」って、みんなすごく派手なんだよね。
でも、テレビに出演しているくらいに有名な女の子の知り合いがいるなんて、やっぱり小松原君はすごいよ。


次に東山君。
東山君は長野県出身だから、ボクと同じように田舎者なんだけど、1年浪人してるだけあって、ちょっとだけ大人っぽい。ファッションも正統派アイビールックでキメてくるんだろうな。
ボクなんかとは違って、すごく落ちついているのが東山君の良いところかも。

そして綾小路君。
綾小路君は2浪だから、もう成人してる計算になるのか。
生まれも育ちも世田谷だから、もっと垢抜けてても良いはずなのに、なぜかダサいんだよなあ。名前だって思い切りおしゃれなのに、見た目は正反対の体育会系だから。
ボクと同じく、高校生の頃は柔道部のキャプテンだったって言うから、ある程度ダサいのはわかるけど、歓迎コンパにジャージの上下で現れたときには、悪いけど笑っちゃったもの。


ふう、やっと渋谷に着いた。
どうしてこんなに東京って人が多いんだろう。こっちに来て3ヶ月近く経つけど、いまだに人の多さには慣れないなあ。
えーっと、109の前にいるって言ってたけど、こんなに人が多いと、探すのにも一苦労だなあ。

あ、いたいた。3人そろってる。

「ごめんごめん、遅くなっちゃった」

「お、永橋、えらくキメてんじゃん」
そう声をかけたのは小松原君。
やっぱりいつもの通りにカッコ良い。でも、胸元の金のネックレスだけはちょっと違うと思うんだけど。

小松原君の隣で軽く微笑む東山君は、やっぱりキチンとしたアイビールックだ。

「お、えらく気合の入った格好じゃねえの。またまたスカしたジャケットなんか着ちゃって」
そう言って、ボクのジャケットのラベルを確認する綾小路君。
あー、汚さないでよ、丸井のカードで24回払いで買った大事なニコルなんだから。

「この”ニコレ”って何?有名なの?」

相変わらず綾小路君は天然だ。

さすがの綾小路君も、今日はジャージ姿じゃなくて、ちょっと安心だ。
でも、いきなり黒のタンクトップで筋肉をアピールするところが、綾小路君らしいと言えばらしいんだけど。


小松原君が予約した店は、さすがにおしゃれだ。
いつもボクが飲みに行く高田馬場の「清龍」とは全然違うよ。なんだかお尻のあたりがムズムズしちゃうな。


あ、来た!
相手もちゃんと4人そろって来てるじゃん。当り前だけど。

「よし、じゃあ男女交互に座ろうか。おい、永橋はこっちに座れよ。東山は向こうな。あ、綾小路はそこでいいよ」

さすがに小松原君は仕切りが上手いなあ。ボクなんてもうドキドキだよ。あ、ごめんなさい、足踏んじゃった。

「さてと、まずは自己紹介からだな。どうも、幹事の小松原です。今日は、恵まれない可哀相な男子たちのために、お忙しいところを来て頂き恐縮です。我々男子一同、やる気満々ですので、是非よろしく。気に入ったヤツがいたら、お持ち帰りオッケーです」

ぷ、つまんないよ、小松原君。

「えっと、じゃあ、女子チームの幹事を紹介します。ってことで、ミカちゃんよろしく」

綾小路君の隣に座ったミカちゃんが立ち上がった。すごく派手な女の子。
そうか、この娘が「ヤジッターズ」のミカちゃんか。ボクと同い年には見えないくらいに派手な娘だなあ。
この娘はパス。顔はきれいだけど、何だか頭悪そうだもの。

「佐藤です」
なんだかすごく地味な女の子だ。派手な小松原君の隣に座っているせいで地味に見えちゃうのかな?お世辞にも可愛いとは言えないなあ。この娘もパス。

「渡辺です。よろしく」
東山君の隣に座っている女の子。
そんなに目立つタイプじゃないけど、清楚な感じだ。東山君とお似合いかも。

「高山です」
ボクの隣に座った娘だ。
最初に店に入ったときから、気になっていた娘なんだ。
ゆったりとした薄手のカーディガンと、色の薄いフレアスカートがすごく上品な感じ。はっきり言って、ボクの好みのタイプ。

小松原君、ありがとう!もう、俄然やる気だよ!


でも、いざ話すとなると緊張しちゃうんだよなあ。ボクってすごく口ベタだし。
でも、昨日読んだ「ポパイ」にも、「合コンの会話は”つかみ”が肝心。まずは面白い話で彼女を惹きつけろ!」って書いてあったっけ。何事も最初が大事だもんね、頑張らなきゃ。


「高山さんはどこの出身なの?」
「高知県です」
「おおーっ、高知県なの?それは奇遇だなあ」
「え、ひょっとして、永橋さんも高知県の出身なんですか?」
「いや、ボクは佐渡」

しまったあ、寒いか?
自分でも良くわからないオチだぞ。そもそもオチてないし。

「何だか良くわからないけど、永橋さんってちょっと面白いですね」
「うん、そうなんだよ、ボクってちょっと面白いらしいよ」

良くわからないけど、とりあえず「つかみはオッケー」らしいぞ。
でも、ここからが勝負だよね。
せっかく笑わせたんだもの、ここで離しちゃいけないぞ。

「高山さんの趣味って何なの?」
「うーん、音楽観賞かな」
「へー、どんなの聴くの?」
「えっと、クラシックかな。父が好きなんですよ。小さい頃から聴かされてたから、いつの間にかわたしも好きになっちゃってた、って感じで」

クラシック!
正しいよね、まさに高山さんこそクラシックだよね!
でも、ボクはクラシックなんて聴いたことないんだよなあ。何て返せばいいんだろう?

「オレもクラシックは良く聴くよ」

そう言ってタバコを咥えながら、自慢の上腕二頭筋をさすって会話に割り込んできたのは、綾小路君。ヤジッターズのミカちゃんがトイレに立って話し相手がいなくなったからって、せっかくの会話を邪魔しないでよ。大体、君はクラシックなんてガラじゃないじゃん。

「え、そうなんですか。誰の作品がお好きですか?」

もう、綾小路君の話なんて聞かなくても良いよ。新歓コンパの二次会で、「さざんかの宿」を熱唱したヤツの話なんてさ。


「オレは”チェルネンコフ”が好きだ」


綾小路君!それは”チェルネンコフ”じゃなくて、”チャイコフスキー”なんじゃないの!?
もしかしてマジボケ?




ビールばっかり飲んでるから、何だかオシッコしたくなってきちゃった。

「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね」


それにしても、綾小路君って面白いよなあ。その面白さに本人が気付いていないところがまた面白いよね。さてと、これからどういう展開に持っていこうかな。やっぱり、さりげなく「今度はふたりきりで会わない?」なんて誘うのが良いのかな?何気なく電話番号なんか訊いちゃったりして?


お待たせ、って、あれ、高山さんの隣にちゃっかり小松原君が座ってるよ!

「あ、永橋の皿とグラスはそっちに移動しておいたからさ」
って、それはないよ、小松原君。


佐藤さんとはまったく会話が弾まない。
そりゃそうだよ、全然ボクの好みじゃないんだもの。
それに比べて、小松原君と高山さんは何だかすごく盛り上がってるみたい。何たって、小松原君の話術は天下一品だからなあ。
それにしても、ひどいよ小松原君。最初は油断させておいて、いきなり高山さん狙いだったなんて。


東山君と渡辺さんは最初からずっと良いムードだし、綾小路君とミカちゃんも何だか楽しそうだ。それにしても、綾小路君は声がデカイよなあ。まあ、それに負けずにミカちゃんの声も良く通る高音だけど。


「やっぱりオレは嫁さんにするなら”大妻”の娘が良いな」

大分ロレツの回らなくなってきた綾小路君。「おおつま」が「おおるま」になっちゃってるよ。でも、フェリスの娘たちを前にして、他の女子大のことを話題に出すのはマズイよ。
ほら、隣のミカちゃんが敏感に反応してるよ。

「何たって、”大妻”の”妻”の字が良い。フェリスなんて横文字は駄目だね」

だーっ、何を言ってるんだ!
ほら、みんな固まったじゃないか!

「でもまあ、恋人にするならフェリスかな。”フェリ女”って縮めて言うと、何かいやらしいじゃん」

「・・・」


やっちゃった。もう駄目だよ。
佐藤さんも高山さんも渡辺さんも、ヤジッターズのミカちゃんさえも固まってるもの。
まったく、何てことをしてくれるんだ。


「えーと、そろそろ場所を変えようか」
そう言ったのは小松原君。
そうだね、これ以上綾小路君を暴走させるわけにはいかないよね。ここはひとまずお開きにするのが正解だよ。


「さてと、二次会は二班に別れようか。俺と東山が第一班で、永橋と綾小路が第二班な。それじゃお疲れさん。あとはよろしく」

あ、待ってよ小松原君!それは反則だよ!まだ高山さんの電話番号も訊いてないのに!


あーあ、行っちゃった。
まったく、こうなったのも綾小路君のせいだからね。一体どうしてくれるんだよ!

「じゃあ、オレらも二次会に行くか。ミカはどこに行きたい?」
「ごめん、今日はもう帰る。ちょっと体調が悪くて」
「え?冗談だろ?まだ時間も早いじゃん」
「ゴメン。飲み過ぎたみたいでホントに気分が悪いの」

ボクと佐藤さんはシラけ切って、揉めるふたりを黙って見ているだけ。
綾小路君、無駄なあがきはやめなよ。”フェリ女”って言った瞬間に、君はもう終わってるんだよ。

「じゃあ、電話番号を教えてくれよ。また今度誘うからさ」
「わかった、ちょっと待ってて」

ハンドバックから手帳を取り出して、電話番号を走り書きしたページを破いて、綾小路君に手渡すミカちゃん。

「じゃあね」



渡されたメモを見ながら、綾小路君は何だか納得行かない様子だ。
「絶対にキメられると思ったんだけどな。まあ良いか。とりあえず電話番号はゲットしたからな」

そう言って、ページの切れ端をボクの目の前に差し出す綾小路君。
あれ、この電話番号、どこかで見た覚えがあるぞ。どこで見たんだっけ?
あ、そうだ!この前ボクが渋谷のディスコで女の子をナンパした時にもらった電話番号と同じだ!

「どうしたんだよ。そんなに物欲しそうに見るなって。まあ、今日は永橋だけ収穫なしだったけど、そのうちお前も良いことあるって」

そうじゃないんだよ、綾小路君。
その電話番号って、「リカちゃん電話」の番号なんだよ。




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