西国路をゆく〜前書き 




突然だが、旅に出ることにした。

別に深い理由はない。

今日から10連休の夏休みの初日、という雨模様の土曜日に、部屋の掃除をした。きれいになった部屋を眺めながら、そろそろ自分の心も掃除が必要かな、と思った。旅に出て心の掃除をしよう、そう思った。気付かないうちに汚れてしまった心を、旅の爽やかな空気で洗ってあげよう、そう思った。ただそれだけのこと。


クーッ、カッコいいぞ、自分!

風の向くまま、気の向くままにふらりと旅に出るなんて、何だかドラマみたいぢゃないの。
単調な日常に疲れた男がバッグ一つで旅に出る。旅先で出会う人達の暖かさに触れて、それまで忘れていた「大事なもの」に気付く。人間にとって一番大事なもの、それは「愛」。

クーッ、カッコ良すぎ!

すっかりドラマの主人公になりきった自分は、早速旅の計画を立てることにした。旅のテーマは「カッコいい一人旅」。

まずは行き先である。

「みちのくひとりたび」ではないが、一人旅の定番と言えばやはり「北」だろう。大人の男の哀愁が漂ってくる。しかし、これからの時期は涼しさを通り越して寒く感じることもある日が増えてくるから、ちょっと「北」方面は遠慮したい。大体、そんなに哀愁を醸し出すことが出来るほど、自分は大人じゃないし。

ってことは「南」か?
でも、自分の住んでいる千葉から「南」へ進路を取ると、いきなり伊豆七島に行き当たってしまう。三宅島の火山活動はまだ油断ならない状態にあるらしいから、火山灰をかぶってしまいそうだ。頭から灰をかぶって旅を続けるのも、ある意味カッコいいかもしれないが、かなり怪しい。

ということで、残る選択肢は「西」。

自分は極端に行動範囲の狭い人間で、今までに行ったことのある土地が、北は札幌、西は大阪限りである。しかも、そのどちらもが仕事の出張で行っただけである。せっかくだから、今回はこのリミットを超えて、九州・四国まで足を伸ばしてみよう。


行き先は決まった。

せっかくだから、今回の旅路をエッセイの形で残しておこう。
エッセイのタイトルは何にしようか?前回の散歩エッセイのタイトルにならって、「〜をゆく」シリーズにしよう。
ってことで、「西国路(さいごくじ)をゆく」に決定。うん、ちょっとカッコいいぞ。


タイトルも決まったところで、次は荷造りだ。

「カッコいい一人旅」というテーマからすれば、デカイ荷物は野暮ってもんだ。身軽に行動出来るように、必要最低限の荷物で臨みたい。
何泊の旅になるのかはわからないが、とりあえず着替えは必要だ。しばし考えたあと、長袖のTシャツ1枚と、パンツ2枚、靴下2枚を用意する。足りなくなったら途中で買うか、宿の風呂で洗濯でもすればいいだろう。

インターネットで向こう一週間の天気を調べると、どうやら秋雨前線が停滞して、西日本では雨模様の日が続くらしい。どうにも舌打ちしたくなる気分だが、用心のために折り畳み傘も持っていこう。
デジカメも持っていこう。ウオークマンも必要だ。

えーと、こんなもんかな。って、こんなもんでいいのか?
こんな軽装で本当に大丈夫なのか?

一通りこれらの荷物をリュックに詰めて背負って見る。うん、まずまず軽い。これならあまり負担にはならないだろう。

荷造りを終えたリュックを枕元に置いて床につく。遠足前日の小学生のように、気分はウキウキだ。
楽しみだなあ。どこに行こうか、何を見ようか、何を食べようか。
まあ、細かいことは考えず、風の向くまま気の向くままに足を運ぼう。


眠りに落ちながら、テルテル坊主を吊るしとけば良かったかな、とぼんやり考えた。
どうか雨に降られませんように。




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