中野ひかり座にて 




最近は映画の新作がすぐにビデオでレンタル出来るということもあり、映画館の興行収入もなかなか伸びていないようです。とは言え、都市部の大きな映画館では人気作などは立ち見も出る盛況振りですから、全体のパイが減っている分、小さな映画館が割を食っているのでしょう。そう言えば街中の小さな名画座や、古ぼけたポルノ映画館なんかはめっきり少なくなったような気がします。自分は映画はほとんど観ないのですが、まだビデオなど高嶺の花だった学生時代には、映画館に足を運んだことも何度かあります(但し、ポルノ映画に限る)
今は無くなってしまいましたが、自分が学生の頃に住んでいた中野に「ひかり座」というポルノ映画館がありました。今回はこのひかり座で起きたショッキングな事件について書こうと思います。
最初にお断りしておきますが、今回は R指定 です。18歳未満の方はすみやかにご退場下さい。

それでは、構想1時間・製作3時間・推敲1時間をかけた超大作をお楽しみ下さい。






大学生活も2年目ともなるとダラけて来る。今日はバイトも休みだし、授業にも出る気がしない。部屋で一人過ごすのも気が滅入る。かと言って電話で呼び出せる彼女もいない。こんな日はやっぱりあそこに行くに限る。そう、中野ひかり座に。

中野駅南口を真っ直ぐ下った突き当たりにひかり座はある。大きな地震が襲ったら今すぐにでも崩れてしまいそうな寂れた映画館の窓口で千円札をそっと差し出す。擦りガラスの向こうから無言で渡されるチケット。別に悪いことをしているわけでもないのに、何とも言えない後ろめたさを覚える。背後を通り過ぎるオバさん連れが自分のことを笑っているような気さえする。

「昼間からこんなところで何をしてるのかしらねえ」
「若いから、きっと溜まってるんでしょ。 ぷ」

大きなお世話だ。自分だって何も好きで溜めているわけでは無い。出来ることなら定期預金にでも預けて大きく溜めて、世界中の恵まれない子供達に寄付したいくらいだ。

薄暗い階段を上って館内に入る。いつもの通り2割ほどの入り。営業の途中でサボっている風情のネクタイ姿のサラリーマンが大半だ。適当な席に陣取りスクリーンを眺める。3本立てのうち、ちょうど2本目が始まったばかりのようだ。タイトルは「団地妻の昼下がり」。嫌いではない。と言うよりは何でもOKだ。

席に座って5分もしないうちに、やたらと図体のデカイやつが自分の隣に座った。空席は他にいくらでもあるのに、何故わざわざ自分の隣に座るのか?こういう映画は他人に邪魔されることなく、様々な妄想を膨らませながら観たいものだ。他人が隣にいると、それだけでスクリーンに集中出来なくなる。かと言って、おもむろに席を移動するのも何だか気が引ける。ちょっと考えた後、なるべく自然な感じで席を立って、3階にあるトイレへと向かった。トイレから戻ったら、自然に別の席に座れるからだ。

したくも無い用を足して振り返ると、そこには図体のデカイ彼氏が!

身長185cm、体重75kgといったところか。こういうシチュエーションで無ければ、十分に男前と言い切れるだけのルックスだ。ただ、何故か怪しく目が濡れている。

ズズズっと近づいて来たと思う間もなく、自分の目の前に雑誌を突き付けてこう聞く彼氏。
「どう、見たくない?」

見たいも何も、無理矢理見せられている状態だ。選択の余地は無い。
突き付けられた雑誌には、ノーカットの外人カップルが交わっている写真が山盛り。OH、ジーザス!!
しかし彼氏には悪いが、自分は生粋の日本男児。メシは米、調味料は醤油、歌は演歌!ついでに言うなら、歌手は五木ひろし、サブちゃん最高!ただし、細川たかしは不可。
当然女子は日本人が世界一。こんな惰弱な洋モノなど興味無し。

しかし、そんな自分の気持などお構いなしに、彼氏は瞳を潤ませながら更に聞いてくる。
「ねえ、してあげようか?」

さすがに怖くなり思わず答える。
「いや、いいっすよ。ホント、大丈夫っすから。」



一体、何が大丈夫なんだ?



取り敢えずその場は何とか逃げて、再度席に着く。もう映画館を出た方が良いかとも思うが、まだ映画は始まったばかりだ。幼い頃から物を粗末にしてはいけないと教えられてきた自分には、3本立てのうちの1本も終わらないうちに席を立つことなど、考えられない。
何しろ団地妻はまだ服すら脱いでいない。

再びスクリーンに集中しようと背筋を伸ばす自分の隣に、またしても滑りこんで来る彼氏!

さすがに困る。このいたいけな自分に何を期待しているのか。自分はこのひかり座に、団地妻のたわわな肉体を期待して来ているのだ。なのに、そのさわりさえもまだ拝めていない。取り敢えず再度トイレに向かい、今後の作戦を練り直すことにする。こんなことで挫けてしまっては、スクリーンの向こうで身体を張って頑張っている女優さんに申し訳無い。何よりも、恥ずかしい思いをして払った千円札に対して申し訳無い。

数分前に用を足したばかりなのに、何故か便器を前にすると自然とズボンのファスナーを下ろしてしまう。悲しい性だ。今この場で便器の前に立っている自分を正当化するべく、頭の中で排泄行為を行い、腰を数回振る自分。
その自分の股間に、いきなり筋張った逞しい手が!


本当にもう勘弁して。


悪かった、本当に謝る。で、一体自分にどうして欲しいんだ?


「。。。してあげるよ。。。」


頼むから、その濡れた目で訴えるのは止めてくれ。お前が濡れたところで、男の自分は濡れようが無い。


もうこうなったら、一刻も早く映画館を出なければ。
映画は殆ど観ることが出来なかったが、そんなことを言っている暇は無い。


女優が脱ぐ前に、自分が脱がされてしまう。


急いで映画館を出て振り向くと、息せき切って追いかけて来る彼氏の姿が!


ここまで来ると本当に怖い。駅に向かう途中で見かけた交番に駆け込もうかとも思うが、何の被害も受けていないのに警察のお世話になるのも、ちょっと躊躇してしまう。

「あの人が”してあげるよ”ってしつこいんです」



「いいじゃないか、してもらいなさい」



なんて諭されたら立場は無い。


このままアパートまでつけられてしまうのはもっと困る。ストーカーに怯える生活なんてまっぴら御免だ。


中野駅に着いた自分は初乗り切符を買って中央線に乗り込む。
ここまで来ればもう安心だと思ったのも束の間、横を見ると、吊り革につかまりながらあの濡れた目で自分を見つめている彼氏!

生きた心地がしないとは、まさにこのこと。
自分は何も悪いことはしてないだろ?とにかくその濡れた目だけは勘弁してくれ。

頼むから勘弁して。

新宿駅に着いたと同時に、速攻で走り出した自分。
もしタイムを計っていたなら、この時が自己ベストであったことは間違い無い。
走りながら頭の中を駆け巡っていたこのフレーズは、今も鮮明に焼き付いている。



「明日に向かって走れ!って言うか取り敢えず逃げろ!」






今回は今までの文体を敢えて崩して見ました。
かなりデフォルメした部分もありますが、事実関係は100%真実です。
この他にも、飲み屋の席で冗談混じりに殿方に口説かれたことも何度かありますが、女子からは全くモテない自分です(泣)。




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