麻雀放浪記 



それにしても、底無しの不景気ですね。去年の今頃は株価が一瞬20000円を越えましたが、今ではすぐにも13000円台さえ割り込みそうな低迷ぶりです。一体この先日本経済はどうなるのでしょうか?こうも不景気だと、ゼロ金利解除になったとは言え、相変わらずの超低金利でちまちま貯蓄に励むよりも一発ギャンブルで大穴を当ててやろう、と考える方もいるでしょう。一口にギャンブルと言っても様々なものがありますが、競馬・競艇・競輪・パチンコ・麻雀といったところが、一般的でしょう。斯く言う自分はギャンブルには興味がありません。競馬は、あの細かい数字がびっしりとならんだ競馬新聞を見ただけで、数字アレルギーの自分としては引いてしまいますし、パチンコはあの店内の騒音がどうにも我慢できません。そんな自分でも、麻雀だけは好きで、たまに遊んだりします。というわけで、今回のテーマは「麻雀」です。麻雀には興味が無いという方、申し訳有りません。適当に読み流して下さい。

麻雀をしたければ雀荘に行くのが普通ですが、雀荘にも大きく分けて2つあります。1つは、4人で入る「セット雀荘」。もう1つは一人で入る「フリー雀荘」です。フリー雀荘の場合、4人メンツが揃わなくても、一人でフラッと入ってすぐに麻雀が打てるという利点がありますが、見ず知らずの人間と麻雀を打つわけですから、それなりの緊張感があります。自分は学生時代からフリー雀荘に通っていますが、やはり最初はかなり緊張して、牌を握る手が震えたりしました。
スーツにネクタイという堅気の人間は圧倒的に少数派で、パンチパーマの強面の人や、土建業の社長さんといった風情の人、果ては水商売風のちょっとくたびれた中年女性などが主な客層です。中には幼い子供を連れて打っているご婦人なんかもいたりして、かなりカオスな感じです。麻雀とてもギャンブルですから、当然金を賭けて打つわけですが、店によりレートも様々です。一般的には、ゲーム代一回500円で、トップを取れば5〜6000円の収入が入る、というのが普通です。1ゲーム毎に客同志で現金がやり取りされます。この他にも、「一発」「裏ドラ」「赤牌」などの様々な副賞(チップ)があり、このチップについては、その場で現金でやり取りされるので、始終現金が卓上を行き交っている感じで、なかなかしびれます。

今から2年位前になりますが、当時横浜の会社に勤務していた自分は、飲み会でメートルを上げてしまい、自宅への最終電車を逃してしまいました。新橋で下車して、適当なスナックで一夜を明かそうと何軒か覗いて見たのですが、深夜の一見さんの客というのはどうも警戒されるらしく、明らかに営業しているのに、「申し訳有りません、もう今日はお終いです」とことごとく断られてしまったので、仕方なくラーメンでも食べてカプセルホテルでも探そうかと思っていたところに、「リーチ麻雀なにがし」という看板が目に入りました。「そう言えば、最近打ってないなあ。よっしゃ、麻雀でも打って始発電車までやり過ごすか」と思い、その店に入りました。

「いらっしゃいませ。当店は初めてのご来店ですか?」
「ええ」
「当店は東風戦になっておりますが、よろしいですか?」
「あ、そうですか」(何い?東風戦?初めてだよ。まずいなあ。でもここでいきなりやめるのもカッコ悪いしなあ。取り敢えず何とかなるだろ)

勤めて冷静に振舞ったつもりでしたが、心臓はもうバクバクです。「東風戦」というのは、従来の1ゲームを半分に短縮した形式のゲームで、それだけにギャンブル性が高く、かなりの猛者達が好んで集うゲーム形式です。1ゲーム20〜30分位しかかからないのに、ゲーム代は通常より若干高めに設定されているので、回転率を上げて更に高収益が望めるという意味で、店側としてはかなりおいしいシステムです。更にこの店は一般的なフリー雀荘のレートよりも高めで、1回のトップで7〜8000円の収入が望めるという高レートです。チップを含めれば1回のトップで10000円を超える収入を得ることも充分に可能です。時給20000円の仕事なんてまずありません。その逆に、ラストを引いてしまえばかなりの損失を蒙ることになります。
説明を一通り聞いた自分は、そそくさとトイレに向かい、財布の金額を確認しました。福沢諭吉が2枚と、夏目漱石が数枚。アルコールがしこたま入っていた自分は、「これだけあれば大丈夫」と、高を括って卓に臨みました。

卓について、「宜しくお願いします」と礼儀正しく挨拶をした自分を迎えたのは、一癖も二癖もありそうな男性3人です。その場の雰囲気に呑まれそうになった自分は、思わず「ビール下さい」と店員さんに注文してしまいました(これ以上まだ飲むのか?)。
さあ、闘牌の開始です。初めての東風戦だったので、比較的慎重に打ち回していたのですが、とにかくゲームのスピードが速い。何も出来ないまま、一回戦はラストを引いて終了しました。
(こりゃ、やばい。とにかく積極的に攻めていかないと、トップは取れないぞ。次にラストを引いたら、店を出ないといけないな。でも、いきなり2ゲームだけで出るっていうのもカッコ悪いよなあ。なんとか気合入れていかないと赤っ恥だぞ)
いきなりのラスト発進で、それまでの酔いは一気に醒めました。

自分のこれまでの麻雀戦績は、正確に数えているわけではもちろんありませんが、6対4の割合で勝っていると思います。自分なりの必勝法みたいなものもありますので、ここでちょっと紹介します。
「麻雀は引き際が肝心。連勝・連敗したら、即刻ゲームを終了すべし」
2回連続してトップを取るか、ラストを引いたら、そこで終了する、ということです。ちょっと考えると、「連勝したんだから、その勢いでもっと勝ちを増やしていくべきでは?」と思ってしまいますが、そこに落とし穴があります。2連勝すればその日のトータル収支はまず間違い無くプラスのはずですから、敢えて危険を犯してまでゲームを続行する必要はありません。確実にプラスのまま終わるのが長い目で見た場合、得策です。
一方、連敗した時にゲームを終了するというのは、かなり難しいことです。「こんなに負けているんだから、次にトップを取って、なんとかマイナスを少なくしたい」と考えるのが人情です。しかし、連敗したマイナス分を取り返すというのは実は至難の技です。10回やって1回あるかどうか。ゲームを続けていけばそれだけゲーム代もかかってしまいます。連敗するということ自体、その日はツイていないということですから、こんな時はスッパリとゲームを終了して、次回に賭けた方が圧倒的に良い結果が出せるはずです。ギャンブルにはまって大きく負け越している人というのは、この辺りの見極めがうまく出来ていないのでは、というのが自分の考え方です。

さて、そんな感じで(どんな感じで?)ゲームの方は続いて行き、4ゲーム終了した時点で、ラスト・2着・2着・2着という結果で5ゲーム目を迎えました。2着でも一応収入は入るのですが、麻雀はトップを取らなければ何の意味もありません。最初のラストと4回のゲーム代を差し引くと、財布の中の夏目漱石が2〜3枚減っているかも、という状況でした。
ようやく酔いも醒め、ゲームのスピードにも慣れて来た5ゲーム目のオーラス、ここで2000点以上の手をアガれば初のトップという状況での手牌は、比較的速く仕上がりそうなピンフ系。よし、これならいける!と牌をツモる手にも思わず力が入ります。その後順調にツモが伸び、あれよあれよという間に聴牌。ダマテンでもトップを取れる状況でしたが、確実に上潮を意識していた自分は、迷わず「リーチ!」
(頼む、ツモってくれ!)と念じながらツモを繰り返すこと数回。ライバルの対面から「リーチ」がかかった直後にツモった牌の感触は今でも忘れられません。
「ツモ!メンピンツモ三色ドラ4(内赤牌2)、倍満です!」
このアガりで初のトップ確定、更にチップで3000円の収入を得た自分は、(ここが引き時だ)と判断し、ゲーム終了を宣言しました。

ぐったりと疲れて店を出て時計を見ると、まだ夜中の3時半です。
「これからどうしようか?もうカプセルホテルも開いてないしなあ。まずは飯でも食うかね」
そう考えた自分は、吉野家に入り、牛鮭定食を食しました。なんと言ってもファストフードですから、注文して食べ終えるまで15分とかかりません。吉野家を出て再度「さあ、これからどうしようか」と、途方に暮れる自分。
世界有数の大都市東京とは言え、真夜中に放浪する酔っ払いの人間が快適に過ごせる場所なんてありません。仕方なくコンビニを何軒かハシゴして雑誌を立ち読みして見ましたが、これもかなり辛いものがあります。普段ならもう安らかに眠っている時間のはずなのに、緊張感を強いられる麻雀を打ち、アルコールの入った身体で街中をあても無く放浪しているわけですから、いい加減疲れます。初夏とは言え(たしか5月くらいの出来事だったと思います)、明け方近くはやはり冷えます。とにかく座って休みたいと考えた自分は、電話ボックスを見つけると、「ここならそんなに寒くはないだろ。もういいや、ここで寝よう」と思い、ボックスに入るなり、しゃがんで膝を抱えた姿勢で眠りに落ちました。

実はこの時以外にも何度か放浪体験のある自分ですが、その度に電話ボックスにはお世話になっています。携帯電話の急速な普及で、日々街中からの撤退を余儀なくされている電話ボックスではありますが、自分のような放浪者には非常に貴重な施設です。是非とも、21世紀に残して欲しい設備の1つです。


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