吉野家のVIP 





日本の誇るファストフードは?と尋ねられたら、貴方は何を真っ先に思い浮かべますか?
立ち食いソバ、ホカ弁、コンビニおにぎり。何か大事なものを忘れていませんか?そうです、牛丼!牛丼こそ日本が世界に誇るファストフードの代表選手です。牛丼と言えば「吉野家」です。と言うことで、今回のテーマは「吉野家」です。

最近は「吉野家」も大分様変わりして来ました。自分が学生の頃は、「吉野家」の客層はその93%までが、貧乏学生及び腹ぺこサラリーマンで占められていましたが、今は違います。若いカップルや若い女子のグループ、果ては、若い女子が一人で食している光景も珍しいものでは無くなりました。うら若き女子が一人でやって来て、いきなり「並つゆだくで」とか「並ネギ抜きで」なんて平気で注文するご時世です。いつかは自分も同じように注文してみよう、と思っているのですが、勇気がなく未だ実現出来ないままです。情けない。

「朝定食」って、ありますよね。「納豆定食」とか「焼魚定食」ってヤツ。あの「納豆定食」は本当に困り者です。
ご飯+納豆+生卵+味付け海苔+漬物+味噌汁 という内容なのですが、この納豆と生卵が一緒になっている、というのが本当に困り者です。どちらもそれ1品だけで充分におかずのメインを張れるだけの実力者です。なのに、その両者が同じ食卓に上るというのは、「どちらをメインにすれば良いの?」と迷ってしまうことになります。納豆も生卵もどちらもご飯にかけて食べるという性質のおかずですから、一層悩みは深刻です。「両方ともご飯にかけて食べれば?」というご意見もあるでしょう。とんでもない!そんな贅沢なことが出来ますか!納豆でご飯1杯、生卵でさらに1杯、というのが正しい食べ方です。
ということで、「納豆定食」は納豆だけにしてもらって、その他に「生卵定食」をメニューに加えて欲しいと切実に願っているのは決して自分だけではないはずです。吉野家さん、是非ご一考を。

そんな吉野家にもVIPとでも言うべき人物が存在する、ということに気付いたのは、今から10年ほど前のことです。
新宿駅南口の吉野家で出勤前に朝食を摂っていたところに、一目で明らかに住所不定とわかる、初老のご婦人が入って来ました。
「ご注文の方はお決まりですか?」と尋ねるアルバイト君に向かって、悠然と「白大盛り2つ」と言い放つご婦人。「は?」と絶句しているアルバイト君に気付き、奥から店長らしき人物が現れて、「いいから、いいから」という感じで制して「白大盛2丁!」と厨房にオーダーしました。
「白、ってきっとご飯のことだよな。大盛りのご飯を2杯もどうやって食べるんだろう?まず醤油は使うな。あと七味も。ひょっとして、お新香をおかずにして食べるのかも。2杯目は味噌汁を注文して猫飯ってのもあるな」なんて考えていると、ご婦人の前に大盛のご飯が2杯並べられました。さあ、予想通り醤油に手が伸びた!と思ったら、醤油の横の紅ショウガの箱を開けて、たっぷりと紅ショウガをご飯の上に盛り付けたのです。しかも2杯とも!「なるほど、その手があったか!」思わず唸ってしまいました。

そのご婦人の食べっぷりを最後まで見届けたかったのですが、会社の始業時間が迫っていたこともあり、後ろ髪を引かれる思いで吉野家を後にしました。しかし、会社へ向かいながら今の出来事を考えて見ると、なにかおかしいのです。今でこそプラス30円で定食類のご飯を大盛にすることが出来ますが、当時は「納豆定食、ご飯大盛で」なんて注文しても、「申し訳有りません、ご飯の大盛は出来ません。ご飯のお代わりをして頂かないと」と断られていた時代です。つまりその当時は「ご飯大盛」なんていうメニューは吉野家には存在していなかったのです。
ここではたと思いついたのは、よくグルメ番組なんかで見かける、超常連客やVIPにしか出さない、「メニューに載っていない裏メニュー」というヤツです。そうです、「白大盛」というのは吉野家の裏メニューであり、それを堂々と注文していたあの一見住所不定のご婦人は吉野家のVIPだったのです!人は見かけで判断してはいけないとつくづく思い知らされました。

今でもあのご婦人は「白大盛り2つ」と注文しているのでしょうか。自分もいつかは注文してみたいものです。いや、「白大盛2つ」は食べきれないな、きっと。




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